オールFでも実は本気出したら無敵なんです!!〜美人女神にお願いされたら記憶が無くても異世界だろうが行くしか無い〜

長縄 蓮花

28話 隷属の瞳に覗かれる者

「あれはねあれはね、使役されたモンスターだと思うの。おじさん達が言うようにカラバイスは群る習性がないのに、二手に別れて襲撃なんてしないと思う」

「ね、ねーちゃんバカ言ったらいけないぜ! あ、あの量のモンスターを使役出来る奴なんているもんか!」

 使役に関しては何の知識もないので仕方なくフレアに尋ねる。
「使役ってそんなに大変なのか?」
「そ、そうですね。使役する動物、モンスターのレベルによるので何とも言えませんが、適性Bの使役者でも、カラバイスを二十匹使役出来たらいい所だと思います。」

 あ、俺ドラゴンを使役したことありますって言えたらどんだけ賞賛されるんだろうなー。
 本気を出したくても出せない俺本当に可哀想。

「そうなると相当な腕を持つ使役士が潜んでる事になるな」


 静寂の中、作業員の中の一人が思い出した様に声を震わせ小さく呟く。

三傑トライアングルの一角。ロゼミルアルなら……」

「そんな……だってあいつはオスタリアの悪魔だぞ? 戦争が終わったシュメイラルにはもう関係の無い奴だろう」


「ええい! うるさいわ! そんな奴の話推測でも聞きたくないわ!」
 あの温厚なローフィーさんが何故か感情的に部下の推測を跳ね返す。

「あんな奴がもしまだこの世に居るなら……わしが必ず……」
 ローフィーさんの顔から憎しみと悲しみが溢れる。


 ちょっと待て。


 オスタリア?
 何でここでオスタリアの名前が?

 ……戦争が終わった?


 ――「お互い多大な犠牲を払った戦争は、オスタリアが戦線から撤退したから“シュメイラルが勝利した“と私たちは主張しているけど、オスタリアは軍事的判断での撤退としていて、実際はまだ休戦中なの」――

 ――「この国で採掘される鉱石と魔石は9割以上がここで採掘されたものじゃからな」――



 この時、一つの恐ろしく破綻した理論に基づく最悪の仮説が生まれた。

 いや、待てよ。
 そんなはずは。


「――くひひひひ。もうアチシの名前が出てくるとは、シュメイラルの卑怯者の割には中々やるじゃねぇーの」


 粘っこく高音で、悪意に満ち満ちた、声がどこからか発せられた。
「みんな下がって!!」
 ララの号令が採掘場に鳴り響き、皆が一斉に身構える。



「だーーいじょーぶだよー。今はまだお前らを本気で殺そうなんて微塵も思ってなぁーーいから」
 今はまだ?
 ますます先ほど浮かんだ最悪の仮説に現実味が出てくる。


「お前は誰だ! 話があるなら正々堂々出てこい!」
「おーいおい。フッ、勘弁してくれよー。使役士のアチシの美しい姿を、そうやすやすと見せるわけねーだろ! ばぁーかぁじゃねぇーーのぉーー?」
「アチシの名前はロゼミルアル・バン・ブラッキーナ。気軽にロゼって呼んでくれ」



「あ、でもお前達卑怯者のシュメイラル人にはこっちの方が通りが良いか」


「『隷属の瞳スレイブアイ』って方がなぁ」

 それを聞いた一同はあまりの事に声が出なかった。
 ローフィさんがカタカタ震え出す。

「きっ、きっさまぁぁ!! この極悪人がワシの領域に立ち入りおって。出てこい! 貴様の腑引き摺り出してくれる!! アダム・ローフィーの名を忘れたとは言わせんぞ!」
 温厚なローフィさんとは思えない怒声を、姿なき敵にぶつける。

「はぁ? 誰だジジイ。しかも誰だよアダムなんたらってぇー」
「この外道がぁっっ!」


 コイツがオスタリア王国三傑トライアングルの一人、隷属の瞳スレイブアイかどうかなんて置いといても普通に性格が悪すぎる。

「しかぁーもぉー。そっこにあの忌々しき宿敵『華姫』様までいるとなっちゃー、出たくても出れーねぇーよなぁー」
 ララの存在まで知っている……?


「ね、ね、姉ちゃんがあの英雄、『華姫』様……? 嘘だろ。確かにあの量のカラバイスを倒したとは言え。そんなまさか」
「そんなわけねぇ。この子は見たとこ十六歳くらいだ。あの戦争は八年前だぞ!」



「――呪いなの」
 ララが悲しく、そして小さく吐き捨てる


「ま、そんなやべぇー所に好んで行ってる馬鹿もいるしなぁー! 私もその若さ溢れる行動を見習わねぇーとなぁー」
 コイツは何を言っている? 完全に頭がおかしい部類だ。


「ま、と言うわけで今日は挨拶だけって事で。8年間消息不明だった華姫様の居場所が、情報通りシュメイラルにあったのが分かっただけで収穫だ。じゃあぁーなぁー」
「待て! わしらから全て奪った卑怯者が!」



 その会話を最後に使役された一匹のカラバイスが俺たちの足元に落ちてきた。
「こ、これで会話をしてたんでしょうか」

「――。」

 ララはそれを一蹴し、子供のように人目を憚らず泣きじゃくるローフィーさんをそっと抱きしめた。


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