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グローバル中小企業

ノベルバユーザー590165

中国拠点とキーマン


入社前に山本が取り組む予定だったのはトーマス中国拠点との協業だった。中国拠点のリソースを利用して、国内で大型設備を受注し売上拡大を目指していた。この活動を推進するにあたり、中国人社員の王と連携していた。
王は40歳の元営業担当で、トーマスへ入社したのは3年前だった。前職は日系企業の中国拠点で営業部長まで上り詰めた人物だった。日系企業に勤めていたこともあり、日本語は全く問題ないレベルに流暢だった。トーマスへの就職と同時に日本にやってきたのである。日本での生活を希望していた王にとって、トーマスへの転職はありがたかった。中国拠点との連携を進めていくという会社の方針と、日本で生活基盤を築くという王の希望も一致していた。2年前に王は営業職から退き、今では中国物件のプロジェクト運営や仕組みづくりを担当していた。仕事自体はそれほど忙しくなかったが、山本は王との仕事のやりとりを見ていて、王という人物を高く評価していた。
 中国語ができるのは日本拠点では王ただ一人だったが、王の強みは中国語以上のものがあった。一つ目は営業部長職の経験があり、マネージメント能力が優れていたことだ。二つ目は広い視点での考え方だった。彼は担当レベルの考えではなく、経営的な視点で状況を捉えていた。社内でよくある担当者同士のレベルの低い争いとは異なり、客観的に状況を捉えている様子があった。三つ目は中国拠点からの手厚い信頼だった。おそらく、他の社員が中国拠点に依頼しても対応してもらえないだろう案件でも、王が依頼することで物事が速やかに進展するのだった。彼が中国人の同胞というだけでは別拠点からの信頼など得られない。トーマス社内での短い勤務期間で、中国拠点の信頼を勝ち取っているのは見事だった。中国拠点の経営層だけでなく、主要部門のマネージャーと太いパイプを持っていたのは、過去何度かの中国出張および仕事上でのやり取りで彼らから高く評価された証である。
 そんな王であったが、日本拠点のメンバーからの評価はそこまで高くはなかった。営業部門の間でも、設計部門の間でも、王をただの通訳としてしか考えていない人物は多かった。まさに日本社会の象徴といえる状況なのかもしれない。国籍が違うだけで少し距離を取る人物もいたし、中国人というだけで自分より低く見ている人物も多かった。
 また、日本特有の縦社会の様子も見られた。自分より年齢が高いから低いからという理由で、話し方や態度を変える人物もいた。自分より若い中国拠点の担当者に敬意を示さない社員が多かった。会社規模や仕事のやり方だけ見れば、明らかに中国拠点の方が優れていたにもかかわらずだ。海外拠点で仕事をしてきた山本や金田とは考え方が大きく違った。山本や金田の王に対する評価は高かったのに対して、その他社員はそうではなかった。
本人たちは認識していないのかもしれないが、日本社会しか知らない人にはそういう判断しかできないのだろう。学生時代に学んだ情報をアップデートしないせいで、日本がまだ最先端をいっているという錯覚を捨て切れないのである。現状を正しく理解している者からすれば、明らかに中国の方が影響力を持っていた。経済成長率、GDP、ユニコーン企業数、時価総額ランキングに占める中国企業数、国別特許出願件数、アメリカへの留学生の数、大学の国際ランキング、どれをとっても中国の方が日本よりも優れている。日本しか知らない者、現状の世界情勢を学ぼうとしない者は小さな世界観だけで物事を判断してしまう。

会社を拡大していく上では、王の活躍が必要であったし、彼がいなくなれば中国拠点との協業は破綻してしまう。とはいえ、王がいなくなるリスクは高かった。通常であれば、中国人が仕事を理由に来日した場合、滞在するためには働き続けなければならない。日本での永住権を取ろうとすれば、10年程度日本に住まなくてはならない。ところが、王の場合は少し違った。彼は高度人材として在留し、日本で3年以上の活動実績をもっていた。すでに永住権の要件を満たしていて、仕事を辞めても日本に居住ができた。
 また、彼の能力からすれば今の仕事は実力を持て余す内容だった。退屈な仕事と同僚からのネガティブなストレスに嫌気がした場合は、いつでも会社をやめることができた。彼の財務状況的にも会社の給料になど全く依存していない。それが他の社員からの嫉妬を買っていたことは事実ではあるが。

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