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グローバル中小企業

ノベルバユーザー590165

大手企業相手のレベルの低いやり取り


山本が入社して3ヶ月たち、社内の状況も徐々に分かるようになって仕事が落ち着いてきた。取引先からの引き合いも少なく、退屈な毎日を過ごしていた。日常的に対応している仕事といえば、受注案件の進捗確認、新規案件の見積対応、営業部員からの問い合わせ対応くらいだった。マクロな視点で日本の製造業界を考えれば、国内取引先の設備投資状況が多くないことは理解できる。つまり設備投資案件自体が少ないので、新規見積もり自体の数が少ない。装置産業は波があり、一件受注できれば売上の面で大きなインパクトがあるが、安定受注がない場合は従業員の固定費が重くのしかかってくる。そういうビジネスモデルだった。そういう背景があって金田は営業社員を増員してきたのだろう。
一人で相手をしなくてはならない山本にとっては、アンバランスに多い営業社員は迷惑な話だった。特に経験の浅い中途営業社員の対応は面倒だった。会社製品についての理解が乏しいだけでなく、技術的なバックグラウンドもほとんどなかったからだ。しょうもない問い合わせを受ける度に、そんな対応をしている自分に落胆したものだった。また、そんな営業社員の背後にいる顧客担当者のレベルが低いことにも大きな失望を覚えた。技術者出身の山本にとってみれば、そんな仕事のやり方をしていることが信じられなかった。前職で同僚に感じた失望を、今度は顧客に対して感じるのだった。同僚に指摘をするのと違って、顧客に直接指摘をするようなことはできなかったし、そんな顧客を相手にしないといけない自分の立場にもがっかりした。
大企業が自社工場に生産ラインを準備する時に自社で設備製作することはなかった。グループ内に設備事業を専門で取り扱っている会社があれば、グループ内でやり取りをする場合もあるが、たいていどこの会社でも外注している。設備仕様書のみを準備して、中小企業である設備メーカーから設備を購入している。

技術力のある会社であれば、設備仕様の品質も高く、設備構想段階、設備検証段階、導入から安定稼働まで大きな問題なく完了する。ところが、昨今の日本国内の設備投資状況を考えると、数年に1度、あるいは全く設備投資をしない会社すらある。会社によっては、勤続年数が長い従業員であっても、設備を導入した経験がない社員もいる。どうやって設備仕様を準備すればいいのかもわからず、設備立会いや設備導入を経験したことがないので、やり方もわからないし、どんな問題が起きるかも想定できない。結果的に下請けである取引先に全部丸投げをする会社が多い。ドキュメントに基づかないやり取りをするおかげで、後出しの仕様追加や立場を利用した下請けイジメになってしまうのである。
 例えば、前述した中島の案件でいえば、大型投資案件にも関わらず設備仕様書がないことも驚きだった。他にも、図面に手書きをして各部品の見積もり依頼をしてくる顧客担当者がいたし、それをそのまま設計部に流してくる営業社員にも失望した。営業社員によっては、顧客の手書き図面をトーマスの設計人員で図面起こしをしてはどうか?という愚かな提案をする人物もいた。ほかにも、設備の備品の見積もり問い合わせの時に部品の図番や型式を記載しないで、「あの設備のあの部品・・・」という抽象的な依頼をしてくる顧客担当者もいたし、それをそのまま社内展開する無能な営業社員もいた。社内には大量の設備図面がある。同一顧客で複数の設備を納めていることも多い。設備の品番や部品の品番情報なしで、備品見積依頼をしてくることがどれほどレベルの低いことか分かっていないのだ。

こんなレベルの低いやり取りをしている自分の状況など、入社前には全く想像していなかった。顧客担当者のレベルが低いことは、同僚のレベルが低いことよりもはるかに具合が悪いと改めて思い知った。
トーマスとは全く関連性のない設備見積依頼を社内に展開する営業社員もいた。他社から断られた劣悪物件であるということを理解しないで、何でもいいから受注して売上を上げれば良いと考えているようだ。自分の売上成績は上がるかも知れないが、劣悪設備を受注することは会社にとってリスクでしかなかった。そういったフィルターがかかっていない営業活動がほとんどだったように思える。構造的な理由もあった。営業部隊が一大派閥になっていたことで、いわゆる「政権」を握っていると思っていたのかもしれない。社長である金田が営業部長も兼任していたことで、営業社員が野放しにされていたことは事実だった。金田が厳しく指導している様子はなく、どちらかといえば甘やかしているようにも思えた。
「案件を受注できるように、設計部門には営業部門のバックアップをお願いします」

金田は頻繁にそんな言い方をするのであったが、営業担当はそれを悪用していた。設計部門が見積もりを断った場合、設計部門の陰口をしていた。失注原因や売上目標未達を他人に押し付ける傾向があった。会社にとってメリットのない案件を無理して受注するのは、無謀な行為に思えたが、営業部門はそうは思っていない。もともと装置売上が少なく、目標未達が慢性化していた営業部員にとっては、「何でもいいから受注したい」というのが本音だろう。これは金田の責任だった。
社長の立場で考えれば、全社協力して営業部門をサポートするという考えは間違っていない。ところが、営業部門の責任者としては、受注案件の少なさや売上に対する未達は全て金田の責任だったからだ。
営業部門から設計部門への依頼はたくさんあるが、設計部門から営業部門への依頼が処理されることは少なかった。例えば、見積もり依頼をする時には必要な情報を揃えるルールになっていたが、ほとんどの場合、情報は不足していた。先述した中国拠点との見積もり構想検討にしても、製品の図面どころか顧客の要求仕様すらなかった。インプット情報としては極めて品質が低い。同じような状況が国内物件でもしばしば見られた。他人に対しては依頼や要求をするくせに、自分はその義務を果たしていない。権利だけを主張する人物が営業部門には多かった。

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