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グローバル中小企業

ノベルバユーザー590165

社内政治と低レベルな争い


実はこの案件には他にもエピソードがあった。図面の変更や仕様の変更が全て口頭でのやり取りになっていたので、混乱するのは目に見えていた。ましてや相手は日本語が通じない。何の記録にも残らないやり取りで、効率的な仕事のやり方からは全くかけ離れていた。
入社してまだ2ヶ月の山本だったが、こんなレベルの低い仕事のやり方を受け入れられなかった。そこで中島と個別に何度かやり取りし、正式な製品図面や顧客の要求事項を準備するように依頼していた。中島からの対応は悪く、他人から指摘されることが気に入らない様子だった。中島の不甲斐ない仕事のせいで、社内関係者が迷惑していることを指摘されたことに腹が立ったのだろう。また、中島は現在45歳で相手の役職にかかわらず年下には敬意を示さない。自分より10歳も年下のくせに、自分よりも高いポジションにいた山本についても快く思っていなかった。山本が全員に敬意を示して敬語で話す一方で、中島は部下にでも話をするかのような言葉遣いだった。相手の態度や言葉遣いを気にする山本ではなかったが、こういう面倒なやり取りが発生するのも日本社会の特徴だった。実力で勝てない人物は、それ以外の部分(例えば年齢や勤続年数)で、相手より優位を保とうとする。あるとき、中島から仕返しがあった。
「山本君、内容が全然伝わってないよ。あいだに一人入っただけで、 全員が混乱している」

そんなことを中国拠点との打ち合わせの場で発言してきた。あまりに口頭レベルのやり取りや変更が多いので、混乱しないように山本が中島からの情報を整理し、それを王が中国語に翻訳して中国拠点とのやり取りに使用していた。中島からの情報が変わる度に山本が更新していたのだが、その資料に対して中島が文句をつけてきた。中島の言いがかりは、自分が展開した情報が設備図面に反映されていないというものだ。
「何をバカなことを・・・」というのが山本の本音だった。山本の資料はすべて中島のメールや口頭説明をもとに作成されていた。中国拠点が混乱するような曖昧な情報については記載していない。つまり、山本の資料にない部分というのは、明らかに中島の情報収集不足だった。中島の言いがかりについて全員のまえで過去の経緯を再度見直したが、中島の主張する内容はどこにも履歴がない。中島から情報が変わるたびに資料を更新していたが、中島の言いがかりが論拠のない主張だったことが明らかだった。
「一人が間に入るだけで混乱する」よくそんなことが言えたものだ。これまで、なんのドキュメントもなく、記録もないやり取りの方がよほど後で混乱を招く。他人の仕事を批判する前に、過去の自分の仕事をよく顧みるべきだ。山本は中島の言いがかりを軽くかわした。中島の言いがかりは10分ほど続いただろうか。明らかな不満と敵意を持って個人を攻撃してきた。参加していた中国社員は日本語を理解できないものの、その不穏な状況が異常であることは理解していた。そのあと1時間ほどいつも通りの打ち合わせをして終わった。
この中島という社員は他人に仕事を押し付ける能力と陰で他人を陥れる能力は優れていた。つまり、ただの社内政治家だった。山本にしてみれば、気分を悪くした出来事であったが、そういう人間は世の中に多いということを知っていたので、あえて何もしなかった。わざわざ金田に報告するようなことでもなかった。前職でもこういった社内抗争の被害を受けたことは何度かあった。
その日の夕方、金田と王と山本で打ち合わせをすることになった。内容はこの中島の暴走に対するものだった。どうも、その日の午後に王が金田に状況を報告したようだ。
中島から金田へ報告した内容によると、「山本は全く使えない。情報も間違って中国拠点に伝わっている」そんな内容だったようだ。金田は中島からの報告を信じていたらしい。王が金田に報告した時には、金田から王に対しての反応は、「山本さんが正しく理解していないからですよね」というものだったらしい。

夕方、山本から直接報告した。過去の山本と中島のメールやり取りを見せて、金田は現状を理解したようだ。もともと、設備構想を検討するにあたって情報が不足していたのだった。製品図面も正規のものでないし、顧客の要求仕様も不明な部分が多かった。
山本が詳細を説明するまで、金田は中島の主張を全て信じていたようだった。恐ろしい話だった。本人のいないところで他人の批判をして、金田を洗脳しようとしている。まさに政治だった。中島は3年前にトーマスに入社した中途組で、今では金田のお気に入り人物になっていた。2人は毎日のように連絡をとっていて、報告好きの金田の性格と野心の強い中島の相性がよかったのだろう。金田への毎日の報告は、中島にとっては社内ポジションを確立するための政治活動になっていた。
実は王も同様の被害にあっていた。周りの営業社員が直接金田に報告を入れるのだが、偏った情報が金田に伝わるのだった。その情報をもとに、金田から王の所に指示が降りてきた時に、王が他人からの陰口に気付くのだった。たかだか20人の組織体制で、こんな醜い子供喧嘩のような事例が起きていた。全員の前で山本を批判することで、有効な政治活動ができたと中島は考えているかもしれない。ところが、今回の出来事に関して損をしたのは、不快な思いをした山本ではなく、錯乱した中島の方だった。40代にもなって大勢の前で激昂して他人を批判するという行為が、自分の価値をどれだけ落としているかを本人は理解していない。

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