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グローバル中小企業

ノベルバユーザー590165

営業品質


山本が入社して2ヶ月たったころ、中国拠点と打ち合わせをする機会が何件かあった。中にはライン一式レベルの引き合いもあった。全体の生産工程は5~6工程というものだったが、設備投資金額にして1億円程度の案件だった。どんなやり取りをしているのかと思い、最初のうちは傍観者のつもりで打ち合わせに加わったが、それは予想していたよりもレベルの低いやり取りだった。
中島という営業社員が顧客からの情報を中国拠点に展開するのだが、全ての情報が口頭レベルだった。中島の説明を中国人社員の王が通訳し、中国側に伝えるというやり方なのだ。1時間ほどの会議で、図面もなく、仕様書もなく、口頭レベルの打ち合わせが続いた。まさに古い日本の仕事のやり方そのものだった。コミュニケーションテクノロジーは進んでいたが、仕事のやり方は古いままだ。オンラインツールで遠隔からそれぞれのメンバーが参加しているが、わざわざ全員が集まる必要はほとんどなかった。中島はおそらく自分の管理用に情報を整理しているのだろうが、他人にそれを展開しない。本人が議事録をつけるわけでもない。会議後にまとまった情報が残ることはなく、依頼をされた中国拠点の担当者が必要事項をメモして次回の打ち合わせまでに設備構想と見積もりの対応するのだった。製品図面も設備仕様書もなく、ただの口頭レベルの説明をもとに設備構想を作成しているのが信じられなかった。

2回目の打ち合わせで中国拠点から概略構想が提示された。中国側は事前に簡易説明資料を作成して、メールで展開してくれる。打ち合わせの前にその資料を確認して、指摘したい内容があれば打ち合わせの時に確認できる。中国拠点の方が、仕事のやり方が優れていたし、効率的に思えた。2回目の打ち合わせで中島から、中国拠点の設計者に対してたくさんの注文が出た。全体の配置を小さくできないか、この部分の構造の詳細を教えて欲しい、全体金額を見積もって欲しい、などである。繰り返すが、中島からの書面による事前情報は何もない。必要な設置スペース、投資予算、構造に関する詳細要求、これらを何一つ展開していないにもかかわらず、後からいろいろ注文をつけてくるのだった。また、2回目の打ち合わせで顧客の製品図面が展開された。ただし、これはあくまで参考図ということだった。
 その3週間後、3回目の打ち合わせが設定された。今度は中島からの情報展開もあった。驚くべきことに製品設計が変更された。曖昧な製品図面情報をもとに設備構想を検討することが、技術者をしていた山本からすれば考えられなかった。中国拠点は前回の指摘事項を修正する以上の仕事をやっていた。説明資料用として何十枚にもわたるプレゼン資料を準備していたのだった。中島からは口頭レベルの薄い情報しか中国拠点にインプットしていないにも関わらず、中国拠点からのアウトプットは、品質の高い情報だった。まだ受注すらしていない案件にも関わらず、これほど詳細設計を詰める必要があるだろうか。そう思える内容だった。いつものように打ち合わせの前に中国拠点から説明資料の展開があった。
事前に目を通していたので、特に山本の方から指摘はなかった。ところが、中島はおそらく事前に資料を確認していないのだろう。資料を見れば分かるような質問をいくつか繰り返していた。見積もりも設備構造に合わせて更新された。総額で約1億円の投資になる。打ち合わせはそれで終わった。その約1ヶ月後の中島からの報告によると、この案件は失注したらしい。理由は、既存ラインを一部改造して新製品の対応をするということだった。生産技術経験者の山本からすれば、最初から設備投資などするつもりはなかったように思える。ライン単位での投資をするにしてはインプット情報が少なすぎるからだ。顧客は投資するつもりはなかったが、中島が無理やり案件を膨らませただけなのだろう。社内に無駄な工数をかけさせて、この結果だった。
山本はこれがまだ一件目の案件だったので、この時は何とも思わなかったが、何度も中島の案件を対応するうちに中島のやり方が分かるようになった。最初から受注確度の低い案件を社内に展開して、無駄な社内工数をかけさせる。それが中島の仕事のやり方だった。社員にしてみれば迷惑行為そのもので、営業部員として仕事をしているフリだった。さらに、中島は他人に対して要求が多いうえに、他人に対してマウントを取る。
 例えば、先ほどの中国拠点との案件を例に挙げれば、中国拠点は日本の物件を対応する必要などどこにもない。売上に困っている日本と違い、中国拠点は年中多忙で健全な利益も出している。赤字続きの日本拠点とは大違いだ。受注確度の低い日本物件に工数を投入するくらいなら、中国国内の仕事を優先する方が全体最適になっていた。残念ながら、こんな背景を理解していない人物は日本拠点には大勢いた。中島もその一人で、いまだに日本人の方が優れていると錯覚している様子で、中島は中国拠点に対して強気で失礼な態度をとった。
社内に持ち込むべきでない仕事を持ち込むことは、日本拠点だけでなく、中国拠点にとっても迷惑な行為でしかなかった。王経由で聞いた話では、中国拠点でも中島の評判が悪いらしい。実際、中国拠点で日本物件を対応してくれた設計者の中には、中島の対応が理由で日本案件の担当を辞退した人物もいた。

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