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グローバル中小企業

ノベルバユーザー590165

毎月の営業会議


9月下旬の金曜日、その日は毎月計画されていた営業会議の日だった。営業会議の日は1日中オンライン会議で過ごすことになり、その大半が営業活動の進捗報告だった。設計部門のマネージャーを務める山本にとっては受注案件の状況は頭に入っていたので、要点だけ1時間程度で説明してもらえれば十分だった。
社長である金田の方針で、毎月のように営業会議を開催していて、参加するのは営業社員6名と金田、設計部門の責任者である山本と製造部門の責任者の合計9名で、各営業地区の活動状況や進捗状況が報告された。山本が参加して1年になるが、受注計画を達成した月はなかった。営業社員別の成績でみても、一時的な受注獲得をする担当者はいるものの、6名の営業社員の誰1人として右肩上がりの成績を達成できている社員はいなかった。惰性のように活動内容を報告するのだが、中身は言い訳のようにも聞こえた。営業部長も兼任する社長の金田が、本来すべての営業活動について責任を持つべきであったが、なし崩し状態のように思えた。
 山本にしてみれば、そんな会議をする時間があるなら、営業活動に時間を割いてもらいたいところだった。この会議のおかげで、山本は一日中パソコン画面に拘束されるのだった。たいして理由もないのに社内会議で顔を表示することになっていた。中身のない会議に参加するふりをして、別の作業に時間を使いたかったのだが、迷惑な画面表示がそれを許さなかった。オンラインで便利なことができるようになった現代だが、使い方によっては古い仕事のやり方そのものに思えた。場所の制約からは解放される一方で、本来メリットになるはずの画面共有がデメリットにしかなっていなかった。


株式会社トーマスはドイツに本社があり、グローバルに事業を展開している。日本はそのグローバル拠点の1拠点で、大阪の柏原市に小さな拠点を構えていた。大阪府内という魅力的な場所であったが、実際には周りは畑が広がる田舎で、位置的には奈良県との県境にあった。会社の事業内容は金属カシメの技術・サービスの提供で、カシメ周辺部の駆動シリンダーなどのメカニカル部品の製造・販売をしていた。典型的な消耗品販売のビジネスモデルで、定期的に交換が必要な治具工具を継続的に販売することで、安定したビジネスになっていた。最近では装置事業を次のビジネスの柱に育てようとしていた。
ドイツ、アメリカ、中国、ブラジルの売上規模に比べれば、日本の売上はほとんどゼロに近かった。ところが、近年のドイツ本社からの指示で日本市場の売上拡大の任務を受けていた。その方針に従い、人の採用を増やしていた。4年前はたった10名の規模だったが、今では20名の体制になっていた。その採用活動の1案件として、今後の設備案件の受注目的を背景に山本が採用された。社内には大型設備の経験者がおらず、今後売上を増やしていくために外部から人を採用したのだった。
設備案件を受注して売上を伸ばすというのは、中国拠点やブラジル拠点のビジネスモデルでもあった。日本拠点独特の活動ではなく、他の拠点を真似したものだ。ただし、組織体制の面では大きな違いがあった。さらに、経済成長が続く中国やブラジルと違って、日本経済は30年にわたって停滞していて国内の設備投資が少なかった。それでも、日本拠点の売上が徐々に増加傾向にあったのは、金田の大きな実績と言って良いだろう。「今後は生産ライン一式単位での受注を目指したい」というのが金田の口癖だった。そのために採用されたのが山本だ。
現実的に考えて生産ライン一式の受注をこなせるキャパシティは日本にはない。ではどうするのか。中国拠点との協業だった。中国拠点は500名の従業員規模で、社内に大勢の設計者を抱えていて、生産ライン一式という数億円規模の受注案件もこなしていた。金属カシメ技術の会社というよりは設備メーカーというビジネスモデルになっていた。中国拠点との協業とはいえ、同じ社内でも国が違えばやり方も違う。そう簡単にいくものでもないが、王という中国人社員が日本拠点にいたことも日本拠点の強みになっていた。
田舎にある社員20名という組織でありながら、中国人社員1名、ドイツ人社員1名というダイバーシティーを持っていた。この2名はたまたま日本国内で採用された外国人で、ドイツ本社から派遣されたメンバーではないにもかかわらず、彼ら2人がそれぞれドイツ拠点や中国拠点とパイプ役になってくれていたことは、トーマス日本にとっては大きな強みだった。

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