かつて願いを叶えるのに失敗した最強の男は、今日も他人の願いを叶える〜辺境の街の鍛治職人〜
第60話 すんごいエルフと魔術士志望
「あっ、いた!おーい。」
さっきの騒ぎは普通に収まり、子どもたちも今日のフィナねえちゃんはいつもより凄かったね!なんて口々に言いながら解散して行ったっす。
なので私だけそこに残るかたちで魔力の痕跡とか無いかなと探していたら、さっきのエルフさんが戻ってきて呼んでくれたっす。
「さっきはいきなりでビックリしたよね?ごめんね?」
「いえ、私は大丈夫っすよ。それよりは面白いものが見れて良かったっす!」
「まあ、分かってるけど…少し見せ物みたいになってるよねぇ。えへへ。」
照れくさそうに頬をかきながらそんな事を言うエルフさんはとっても可愛いっす。
「ジョイスさんはどうなったっすか?」
一応聞いてみるっす…スプラッタな事になってなけりゃ良いっすけど。
「麻痺矢で痺れて転がってるわ。」
スプラッタは回避したけど、割とひどいことになってるっす。
「まあ、いつものことよ。むしろ最近は慣れてきたのか麻痺させられて喜んでる気がするのよね…だから今日はおまけで軽めの毒矢もやっておいたわ。」
それって大丈夫なんすかねぇ…。
「それで、魔術が見たいっていう旅のラビ種の子って君よね?」
「え?あ、はいっす。ジョイスさんに聞いたっすか?」
「まさか。痺れて会話なんて今は無理よ。聞いたのはミーナちゃんからね。」
なるほど、エルフさんも知り合いだったっすか。これはやっぱりミーナちゃんが目的に1番近いっすかねー?
「ミーナちゃんからも、魔術をたくさん見せてやってとは言われてるから…と言ってもあとは召喚くらいなんだけどね。」
またしても街の外に出てきてエルフさんと2人っきり。
というか召喚って言ったっす。何かを喚びだす魔術ってのは他の国でももう限られたひとしか使えない魔術っすよ。
この街の人は魔術を使えないのが殆どなのに、使える人が規格外の人ばかりっす。
ビリーさんの剣技もジョイスさんのあのレベルの纏魔も。
そしてそれを軽々と撃ち抜いたエルフさんの矢はさらに上。
「じゃあこの街の最強はエルフさんじゃないっすか?」
つい疑問に思って聞いてみたっす。
「あー、ジョイスと私ならそうね。でもそれは私が弓矢を使った時だけね。無ければジョイスには敵わないわ。」
謙虚。というよりそこに拘りは無いといった感じっす。ある面で優っていてもある面ではそうではないと。
そう言って退くことの出来る冒険者なんてなかなか居ないっすね。みんな自分の1番得意な得物で勝った負けたをやってるんすから。
「じゃあ、やってみせるから見ててね。」
そう言ってエルフさんは手に持った木の枝で地面に何やら模様を描き始めたっす。
「これって、もしかして…。」
「うん?魔法陣よ。私はこれしか知らないんだけどね。」
「そんな貴重なもの軽々しく見せていいんですか!?」
これこそ魔法。人が己の理解の範疇を超えた現象を起こすために作られた魔法装置。人が制御できる術とした魔力の使い道ではない、超常。それを知るものが秘匿して頑なに見せない秘中の秘。
「ん?まあ私も教えてもらったし?それにこれって知ったところで誰にでも出来るわけでも無いのよ。」
誰にでもは出来なくても誰かは出来るっすよ、それ。
「ふふん、完成ぃ。」
出来上がった魔法陣を前にドヤ顔エルフが手をかざす。
「まあ、私が唯一喚びだせる子なんだけど、怖くないからビックリしないでね?」
そう勿体つけてからエルフさんは言葉を紡ぐ。
「照らす陽光は汝がしもべ
その声は平和の讃歌
猛き双翼は空の覇者なりて
世に君臨せしもの
風よ、走れ、はしれ
…」
「あ、あのエルフさん。…もう出てます。」
「え!?」
顔をあげたエルフさんの額をコツっと嘴でつつく大鷲。
見つめ合うエルフと巨鳥。
「そんなキョトンとしてどうし…あっ。」
固まったエルフさんに声をかけると、エルフさんは顔を真っ赤にしてほっぺた膨らましてプルプルした挙句に俯いてしゃがみ込んでしまったっす。何このエルフさん、ドジカワイイっす。
「あ、あの…なんで出ちゃったんすかねー?詠唱まだ終わって無いのに…というか呟き始めた頃にはもう出てたんっすけど。」
「分かってるわよぉ。魔法陣描いた時点で召喚に必要なものなんてそこに詰め込まれてるんだからぁ。ちょっと何かアレンジしたいなぁって、冒険譚のやつみたいなのに憧れて思いつきで最近考えてみてただけだしいっ!魔法陣に私の魔力をちょちょいって引っかけてやれば終わるのに、カッコいい感じ出したかっただけで結局どんな事言えばいいのか分からなくて、最初に魔力をお漏らししちゃったかなーなんて思いながら、でも言い始めたから最後までどうにかそれっぽく繋げようとして、なんかいるなーって気はしたけど前は見ないようにして…ぐすっ。」
そんな魔力をおしっこみたいに…とうとうべそかいちゃったっすエルフさん。可愛いっす。
「まあ、気持ちは分かるっすよー。私にも覚えがありますから。それに召喚出来るなんてすごいっすねー。」
「……私すんごい?」
「はいっ、すんごいっす。」
「……私カッコいい?」
「はい、カッコいいっす!」
エルフさんは立ち上がり、袖で目のあたりを拭って
「でしょ!?これが私の召喚術よ!どう?この凛々しいお顔!私のかわいいピヨピヨちゃん!」
うわー、なにこのエルフチョロい。チョロエルフ。チョロフ。チョロ可愛いっすー。
「てか名前ピヨピヨなんすね…。」
「まあ、名付け親は私じゃないんだけどね。」
ピヨピヨも嬉しそうで、チョロフも嬉しそうで、私も珍しいものが見れて嬉しい。みんな幸せだ。
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