かつて願いを叶えるのに失敗した最強の男は、今日も他人の願いを叶える〜辺境の街の鍛治職人〜
第58話 剣士と魔術士志望
私はとうとうスウォードの街に着いてしまった。
この感想はこれまでの道を走ってきた超常の何かとの別れの哀愁と、知らなければたどり着くことのないこの街に着いてしまったという感動の両方から来ているっす。
門の外で立って暇そうにしている衛士に声をかける。
「私は東の街道の先からきた、エイミアという旅の者っす。街に入らせてもらっていいっすかね?」
衛士はすこし驚いてはいたが、別に入るのに許可がいるわけでもないとのことで、すんなりと入れたっす。
それは私のいた国ではあり得ないことで、国に入るのも街の出入りにも身分証は必要っす。ここまで国境もなく、国を出た後はなんの障害もなくたどり着いてここでも勝手に入って良いと…平和というのはこう言うことなのかも知れないっすねぇ。
いや、その必要がそもそもないからこその平和なのかも知れないすか。
街は綺麗に区画整理されていて、どこにも石畳が敷かれていてゴミひとつない。道も広く人々も活気が溢れている。
凄いなと、ここが閉ざされた街とはとても思えないっす。
テクテクと歩きながらそんな事を思う。
あっち行きこっち行きしながら観光する。そういえば宿も取っておかないとっすねーっと思っていると話しかけられた。
「こんにちわっ。旅人さんですか?珍しいですねっ!」
ピンク色の毛並みと大きな耳の可愛いキツネ獣人っす。
「そうっす、私はエイミアっすよー。あなたが案内してくださる方っすか?」
ガイドなど雇ってもないけど…この子も超常の何か。とは言え先ほどの事とは違い、目の前のこの自分よりも小さいオーバーオールの可愛いキツネ獣人は生きているっす。
「うーん、そう言うわけでもないんだけどねっ。見つけたから声かけた、みたいなっ?」
元気のいいこの子はやはり知っているっす。
「この街で私の案内はあったりするっすかね?」
知っている者にしか分からないであろう問いかけ。
「それは無いかなっ。別にエイミアちゃんがこの街で何をしててもいいからねっ。むしろ何かをしたくて来たのかなっ?」
見た目の歳は5歳児ほどなのに、よく理解してよく掴んでいるっす。
「私は魔術士になりたくてここに来たっすよ。とりあえずはその足掛かりがないか探すっす。」
目的は素直に言っている方が話は早いっすねきっと。
「ミーナ。こちらの子は知り合いかい?」
そこに現れたのは、腰に剣を差した1人の青年。名前はビリーっていうらしいっす。ミーナちゃんが教えてくれたっす。
というかこの青年は割と普通に見えたけど、驚いたっす。ミーナちゃんとリンクしていて、常に繋がっているのがわかるっす。ミーナちゃんの保護者って言ってたけど、リンクはミーナちゃんからのもの…どう言う事っすか?
「ここならいいだろう。じゃあかかっておいで。」
今は街の外に出てきて少し離れた丘の上。魔術が見たいと言った私に、なら見せてあげると言ってここまで連れられてきたっすけど…。
「私は魔術が見たいんすよ?なんで対戦みたいになってるっすか?こんなか弱い少女相手に。」
「俺の魔術を見せるならその方がいいってことだよ。それにか弱くはないだろ?」
ミーナちゃんが離れて三角座りしてニコニコしながら見ている。依然2人は繋がっている。これは言うまでもなく魔力によるリンク。何の作用なのかは分からないっすけど。
「はぁ…じゃあ、行くっすよ?」
踏み込み、ハイキック。私の身長じゃせいぜいビリーさんのアゴ辺りまでだけど。
ビリーさんはかわ…さない。そのままクリーンヒットしてしまった。それでも上体を横に向けたくらいで立ったままっす。
「え?避けられたっすよね?なんでくらってんすか??」
思い切り振り切る蹴りとは言え様子見。バレバレのモーションで当たる事なんて想定してないっす。
「まあ、普通に速すぎるしどんなのか試しに受けてみようってね。」
ビリーさんはピンピンしている。というか全く効いていないっす。
「なるほどっす。その繋がりは…そう言う事っすか。」
遠慮なくパンチとキックの乱れ打ちっす。
「まあ、繋がりってのが見えてるのは予想外だけど、ミーナと意思疎通するためと、ちょっと魔力を借りることが出来るだけなんだけどね、これは。」
つまり…。
「俺は魔力を纏って防御するベールを作り出す。あとは魔道具を使えるくらいなのかな?」
ビリーさんは全くダメージを受けてないっす。そのベールってのがそれほどに強固なのはわかったっすけど。
「なんで幼女の魔力をあてにしてるんすか。」
被保護対象から力を借りる保護者って。
「まあ、それは置いといて…じゃあ俺から一度だけ。」
そう言ってビリーさんは腰の剣に手をかけて…
風が私の周りに吹き荒れたっす。風…正確には斬撃。その剣閃はその気になれば私をすぐさまバラバラにしただろうと思わせるほどに…。なんて凄い。抜いたところが全く見えなかったっす。
剣を納めたビリーさんは何だかプルプル震えてるっす。何か副作用とかあるやつだったんすかねえ?ちょっと心配になるっす。
「何この子、うさ耳とか超カワイイっ!ぐはぁ。」
「あっ。」
帽子は風に飛ばされていたようで、隠していたうさ耳が見えて興奮したところをミーナちゃんがお腹に綺麗な後ろ回し蹴りを決めて止めるという、どう反応すれば良いのかわからない寸劇が行われたっす…。
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