かつて願いを叶えるのに失敗した最強の男は、今日も他人の願いを叶える〜辺境の街の鍛治職人〜

ノベルバユーザー589618

第41話 新しい相棒


「うえぇ…気持ちわりぃ…。」
 心配を返せ。
 けど、じゃああの泡は何だったんだ!?
「ちっ、火を消されちまったわい。」
「純粋に水を吐き出しただけみたいだな。空気を入れて広い範囲で確実に消すためらしい。相手の唯一の武器とみて戦意を削いだつもりのようだが。」
 酔っ払いは別に困ってるようでもない。ただ事実として消されたことを確認しただけと言う感じだ。
「誰が酔っ払いだ。俺っちはまだ酔ってねえやい。」
 そう言う足元はおぼつかない。
「さっさと済ませろ。背びれと鱗がある程度残ればいい。」
「分かったぜい、任せなっ。」
 返事したバルゾイおじさんは手首をくるくる回して火の消えた木切れを振り回したかと思うと、木切れは急激に伸びて大きな木槌となった。しかもそれは全体的に熱く焼けた炭のようだ。
「まあ、こんなもんだな。本物と違って俺っちの魔力が切れたら消えちまう紛いもんだが、コイツをやるだけならお釣りがくるわい。さあ、魚野郎。俺っちの爆炎槌、とくと味わいなぁっ!!」
 そこからは早かった。
 バルゾイおじさんが一方的にボコボコにしただけだ。
 だけど、その攻撃が恐ろしいほどの威力、破壊力だっただけで。
 超スピードでいきなり顔面にぶち込まれた瞬間、爆発が起きる。ちょうど爆炎槌の頭くらいのサイズで。振り抜いて左下から右上へと振り上げ、爆発。この時点で顔と腹は修復の効かない有り様だけど、バルゾイおじさんは手を緩めない。腕が弾け飛び、腰から弾け飛び、肩から弾け飛び…あとは生き物だったかも知れない残骸が残っただけだった。

「「うおえぇ…。」」
 酔っ払いはまだ吐いていて、魔獣の成れの果てを見た俺も吐いてしまった。

 ダリルにいちゃんは背びれと鱗のついた皮膚を剥がして手に持ってきている。
 俺の喉にまたエビとイカと貝が込み上げてきて…
 なんとか耐えた。
「おい、酔っ払い。作れるのか?寝てるか?」
 ひとしきり吐いたバルゾイおじさんはもう元気らしく
「大丈夫だ、酔ってねえ。そいつと鋼、持ってきてんだろ?金床もよ。なんだよ、ちゃんと一式揃ってんじゃねえか。」
 そう言って何やら作業をしだすバルゾイおじさん。
 ダリルにいちゃんは小瓶のコルクを抜いて中の液体を焚き火に放り込む。すると炎は勢いを増して燃え上がる。
「おお、サンキュー。これでこんなとこでも問題はねえやな。トマス坊よ、ちゃんと見とけよ。これがドワーフのワザってヤツだからよ。」
 そう言ってバルゾイおじさんは鋼を鍛えだす。隣でダリルにいちゃんは食べた二枚貝の貝殻を砕いて粉にする。
「まあ、いまのトマス坊が見て分かるか知らんがな、俺っちたちは武具にエンチャントっつーのを施しもするのよ。今は出来るやつもここの街には居ないだろうがな。」
 そう言って鱗を手にするとそこからモヤのような物が出てくる。
「これが魔獣の魔力。こっちの貝殻もそう。背びれもな。それにこの場も、海のそばとあって水属性のエンチャントにはこれ以上はねえやな。」
 水、属性?一体なんの話なんだろう。喋りながらも作業は続く。ハンマーで叩くリズムは心地よく、燃え盛る炎も不思議と怖くはない。
「坊は案外、ちゃんとドワーフなのかも知れんな。」
 そんな事を言っているバルゾイおじさんは嬉しそうだ。
 ダリルにいちゃんはいつの間にか居ない…あ、岩場のとこにいた。


 あれから1時間ほどだ。
 俺の手元には一本のピッケルがある。それは表面に波のような模様を浮かべ、心なしか水色が入っているかのように輝いている。
「子どもになんて物持たせるんだ。お前の本気の作じゃないか。」
「当たり前よ!手抜きなんかするかってんだ。途中でトマス坊にも叩かせて魔力を覚えさせた坊専用のツルハシよ!どんなに硬い岩盤も水が染み込んだみてえに削り出せるぜ!」
 ガハハと豪快に笑うバルゾイおじさん。釣り上げたと言う人魚を肩に担いでいるダリルにいちゃん。

 エンチャント…はじめて聞いた言葉ではじめて見た作業なのに、これがどんな物なのか分かる。確かにダリルにいちゃんの言う通り、とんでもない効果を秘めているんだろう。なにせこれ自体がもう魔獣と戦えるような代物。
 ごくりと喉を鳴らし早く使ってみたい衝動に駆られる。

「って何で人魚!?釣れるわけあるかぁっ!!」
 俺は流しきれずにツッコんでしまった。

コメント

コメントを書く

「文学」の人気作品

書籍化作品