かつて願いを叶えるのに失敗した最強の男は、今日も他人の願いを叶える〜辺境の街の鍛治職人〜

ノベルバユーザー589618

第37話 ドワーフの子ども


「ダリルよぉ、ちったぁマシな顔するようになったけど、こう言う所で説明が足りないのは変わんねえな。」
 父親を助けた代償に子どもをいただくという、いきなりのトンデモ発言に俺も父ちゃんもどうしていいのかわからないで、お互いに目を合わせてあわあわしてるところにバルゾイおじさんはそう言った。
「ん?そうか。確かにそうかも知れんな。だからバルゾイに説明は任せる。」
「簡単な事なのにコイツは…ったく。というわけでだ、ダリルが言いたいのは、コイツは鍛冶屋なんだ。だからそいつを貰うってこった。」
 バルゾイおじさんに期待したのはダメだったみたい。情報が1つ増えただけだ。
「ん?あれか?ダリルの仕事場に優先的にいい鉄鉱石を仕入れられるように、このバルゾイがその子どもを仕込んでしかるのちに父親の元に返すから、ちっとの間その子を預けろってとこまで言わなきゃ伝わらんか?」
 完全に遊んでいる。
「確かに手に入れるのは容易くはないクスリだが、俺なら別だ。材料も取れるし、製法も知っている。それでもこの世界で最上の奇跡の効果ではあるからな。今よりいい物を仕入れられるツテを確保するくらいはいいだろ。」

 そんな事で良いのならと父ちゃんと話し合って、俺は街でダリルにいちゃんとこの世話になることにした。

 カランカランとなるドア。広い店内。包丁、鍋、フライパン、他には沢山の武器だっ。
 初めて入る店ってなんでこんなに楽しいんだろな?あれもこれも…村にはこんなのないから、すごいっ!

「そんなに珍しいかぁ、おめぇさんもドワーフだと言うのになぁ。」
 バルゾイおじさんはそう言って一緒に歩いて隣で説明してくれる。
「ドワーフなら珍しくないのか??」
「おうよ、俺っちたちは穴ぐらで石ころ掘り返しもするが、それよりは鍛治が一番よ。この街の遥か遠くでは今もドワーフの武器防具が溢れてて、現存する最高の武器もドワーフの作よっ!!」
 知らなかった。ここではドワーフといえば山で鉄鉱石やたまにちょっと良いくらいの鉱石を掘り出して街へと卸す鉱夫の扱いでしかないのに。
 そんな花形みたいな仕事がドワーフの1番だなんて!
「お、俺もそんなドワーフになれるかな!?」
「おおとも、なれるさ。まあ、その前にダリルとの約束を果たせるようになんなきゃだがなぁ。」
 そうだった。この街にきたのはその為だもんなぁ…。

「けどさ、鉄鉱石が欲しいならそう言えばかなり融通する事は出来るのに、俺に何を仕込んでくれるつもりなんだい?」
 実際のところ何を仕込まれた所で採掘量がそう変わりはしないだろうしな。何をやらされるんだろう…。
「まあ、そん通りだわな。だからバラしちまうが、あれは嘘だ。」
 バルゾイおじさんの告白に椅子から転げ落ちてしまった。嘘って。あの空気でそんな嘘を言って連れてこられた俺ってなんなん??
 ダリルにいちゃんが奥から出てくる。
「もともと、俺たちは巻き込まれたわけでもない。最初から助けるために動いていた。正直金をとろうとか考えてもなくてな…。とはいえ、それなりのものでも貰わないと納得はしてくれなさそうだったからな。特にお前たち親子はな。」
「話合わせるこっちの身にもなれってんだ。」
 唐突なネタバラし。
「俺が連れてこられたわけはわかったよぉ…。じゃあそもそもなんで見ず知らずの俺なんかを助けてくれたんだ?」
 突然宿を訪ねてきた赤の他人。もう何が本当で何が嘘のことなのか俺にはわかんねぇっ。
「俺たちが動いた理由と言うならジョイスが来たからとしか言えんな。」
「巨人にいちゃんかっ!」
 そういや、ずっと身体張ってくれていたのは巨人にいちゃんだった。ちょっと気持ち悪いとか思ってごめんよ。
「まあ、あいつは助けられて満足だったらしく、早々に帰ってしまったがな。だから子どもよ、お前は別に何することもない。ただ済まないがお前の父親たちが安心できるようにしばらくはこの街にいて、戻らないでいてくれないか。」
 泊まるところは手配してある、と近くの宿をダリルにいちゃんの名前で借りてくれてお金の心配は要らないとだけいわれて、さらに生活費といってまとまった金を渡された。それについても足りなければ渡すとまで言われて、自由を与えられた。
 売られてここにきた俺は自由なニートになったらしい。

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