かつて願いを叶えるのに失敗した最強の男は、今日も他人の願いを叶える〜辺境の街の鍛治職人〜

ノベルバユーザー589618

第34話 巨人と鉱夫


 およそひと月ぶりの師匠の店にデカブツは訪れる。
 扉を開けて入る時に何故だかカランカランと鐘がなった。
「何故お前がまた?」
 弟子の来訪を煩わしそうな言葉で迎えた店員。
「ちょっと聞きたいことがあって…なんですけど、何故ですかね?」
 この店員の世話になった者たちは、非日常の中で己の目的を達成する事になるのだが、達成した時にいくつかの話を聞かされる。そのひとつにこの鐘の話があり、自分達がそうであったように、この店員のチカラを必要とする来客の時にのみ鐘がなるのだと。仕組みは不明、そう言う魔道具だと聞かされている。
 そして達成された後は、その者がドアを開けようがくぐろうがなる事はない。実際に聞かされた時にも試しており、確かにならなかった。というよりなっている時にこの音に気づいていなかったので、鳴らない事の確認しか出来てはいなかったが、認識したことにより気づく事が出来たのだ。

「とりあえずその聞きたい事がそうなんだろう。話せ。」
 店員はそばの椅子を勧める。
 耐荷重ギリギリか超えているのか、ギシギシとなる椅子に座り、坑道のこと、練習場のことを話して疑問を投げかける。
「確かにあれも魔道具によるもので、その効果は推測の通りだ。しかし恒久的なものでもないから坑道の補強などには使えん。いや、常に施し続ける事が出来るのなら可能かも知れないが、お前も知っている通りそうすると並大抵の攻撃にもびくともしなくなる。採掘など不可能だろう。」
 トンネル作りならありなのだろうがな、と店員は言う。
「だが、そうなると鐘は…イレギュラーなパターンもあると言う事か?サポーターも居ない事だし、お前は客ではないと言う事か。」
 普通の店であればとんでもない発言になっているが、当然そう言うことではない。
「つまりはお前がそう思ったきっかけ、その鉱夫の子どもが今回の客の可能性が高いだろうな。」


 普段この店員は店から出ない。店が自分の仕事場で、なおかつ外に出る必要がないからだ。
 とはいえ鎖に繋がれていると言うわけでもない。必要があれば外にも出る。
 店員はデカブツと共に鉱夫達が街に来た際に常宿としているちょっと高級な宿に訪れた。

 宿の従業員に案内されて、子どもの部屋へとたどり着く。
 ベッドで布団にくるまって頭も見えない膨らみと、出迎えてくれた年若い女性。聞けば少年の姉とのことだ。姉の顔にも疲労と涙の跡が窺える。
「初めまして、私は鍛冶屋の店員でダリル、こちらはギルド事務局のジョイス。そして…」
 ダリルの視線はデカブツの後ろへと移り、挨拶を促す。
「俺っちはドワーフのバルゾイって言う。はぐれでな、ついこの間この街に流れてきたばかりよ。」
 やはり居たのだ。ぶっつけでやってきたダリルは内心ホッとしていた。

「初めまして、私はリエ。あそこでサナギみたいになっているのがトマスで、私たちもドワーフです。」
 そう言って視線を3人の間でさまよわせながら、静かな挨拶を返してくれる。
「皆さんは一体どういう要件でこちらに…?」
 尤もな疑問だ。彼女らは用事があってここにいるわけでもなく、この3人と面識があるわけでもない。それなら要件など坑道の一件でしかないが、聞いておかなければ話も出来はしまい。
「実はこちらの友人がギルド職員の1人でして、鍛冶屋としてドワーフの方々の世話になっている身として私と共にお見舞いに伺おうと言うことで、その時懇意にしているこちらのバルゾイも一緒にとこうして参りました次第です。」
 友人と言われて感激に震えるデカブツ。謎のドワーフ。
 そして丁寧な言葉遣いの中年くらいのヒト。
 変わった組み合わせではあるが、その好意は素直にありがたく、見舞いの品であるフルーツの盛り合わせを受け取り、部屋へと招き入れた。


「何か私たちに出来る事があれば良いのですが…。」
「いえ…。弟はあんな感じで…すみません。」
 ベッドの上のサナギは羽化する様子を見せない。
「まだ、崩れた坑道を掘り出すのは難航していて。そんなに深くはないところらしいのですが、掘ったそばから崩れるらしく…。」
 そう言って落胆の色を隠せないリエ。バルゾイはサナギを見ている。どうやらあちらのようだ。ならとりあえずはこのサナギを羽化させなければ次へ進めないということだろうと思案するダリル。
「まあ、そう言うことなら俺っちとこの街最強の巨人に任せてくれりゃすぐにでも掘り出せるわなっ!!」
 バルゾイが厚い胸板を叩いてそう言い切る。デカブツには拒否権はなさそうで、明日からの休暇届の言い訳を考え始めた。けどその顔はまるで役に立てる事が嬉しいといった明るいものである。

「最強だって!?それも巨人!?うおっ?でっけええ!姉ちゃん、この人なら大丈夫かもしんねえっ!何座ってんだよ、早くっ!早く行こうぜっ!!」
 ドワーフは分かりやすい。やる時はやる、やらない時はやらない。やらない時は立ち止まってしまっても、やれるとなれば走り出すのだ。

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