かつて願いを叶えるのに失敗した最強の男は、今日も他人の願いを叶える〜辺境の街の鍛治職人〜

ノベルバユーザー589618

第28話 最強を夢見る巨人

 
 それからの日々は単調なものだった。
 ただひたすらにレオに挑み、転がされる毎日。
 どんなに殴っても蹴っても掴み掛かろうともダメージを与えられている気がしない。
 その反面、レオの反撃に俺は打ち倒されるばかり。
 とはいえ進歩がないわけではない。
 続けるうちに一撃に耐え、さらに一撃を食らっても倒れる事なく、今は5発までならどうにか持ち堪えられるようになっている。
 気遣いから手加減されているわけでは決してない。この獣人はそう言うことの出来るヤツじゃない。むしろここのところは倒れた所に蹴りがくるほどだ。休憩にはまだ早いなどといいながら。


 俺は巨人の力というのを引き出せているのだろうか。少しのタフネスだけは身についた気がするが、そもそも来る日も来る日もこれだけ痛めつけられていれば慣れもするだろう。
 感覚を知りたくてレオとの時間以外は例の鎧を着けて過ごしている。
 鍛錬場にもふたたび通い出した。その際にはパンツ姿に鎧だ。周りの俺を見る目がなにやら変わってしまったようだが、なあにこいつをやってやりゃ驚愕して腰抜かすのさっ!!
 俺がこれまでここでやってきたのと同じ重量挙げからの背負いスクワット。だがその重量はそれまでの3倍。ここの2番手の実に6倍強!ふはははっ!俺はまた記録を更新している!これが魔力を使える巨人のなせる技なら、少しでも早く!習得してみせるぞ!!


 いつもの夕刻。ダリルの店の練習場。
 この日、俺は死の恐怖と直面した。
 きっかけは俺の慢心だ。もし、魔道具の鎧を身につけていれば、レオにも負けはしないと、つまらないことを言ったこと。ダリルは目を細めてつまらなさそうに俺を見ただけだが、レオは違った。
「ここまで我が相手しておきながら未だにその力の一端も引き出せない半端者が道具の力で勝つとぬかすか。」
 これまでも、実力差などは痛いほど身にしみていて、それでも負け続けの現状に悔しさを覚えてつい口にした負け惜しみが、逆鱗に触れたらしい。
「少しだけ、待て。補強する。」
 そう言って何やら小さな石のようなものを手の中で握りつぶしたダリルは、粉となったそれを空中に撒きどうやったのか場内に満たしてしまった。やがてそれは周りの壁に吸い込まれて行く。
「魔道具を起動しろ。」
 猛る獣が拳を握りしめる。レオの姿がわずかに揺らめいて見える。
「矮小な巨人よ我に勝って見せろ。」
 ネコ科の化け物が牙を剥いた。


 繰り出される拳は技と呼べるものではなく、単に力任せに振り抜かれたが、避けられないっ!
「そんなっ、」
 構えて魔道具も発動させて、受け止め…られない。
 この150kgを超える身体をとんでもないスピードで壁に叩きつける。衝撃に息が詰まる。バリアが張られていて、守りに入ってこれとは。
 ばっと顔を上げた所に強烈な膝。
「ぐぅおぁっ」
 まともに喰らった。だが魔道具のおかげでさほどには効いていない。だが変形はする。腹の奥に至る衝撃。自分でみぞおちを押し込むような圧迫感。
 そして、背筋の凍るような威圧感。魔力を纏ったレオは圧倒的な暴力の象徴かのように迫り来る。
 左の手刀。身体が斜めに折れ曲がり地面にめり込むかのようだ。
 頬に右腕。前蹴り。両腕を掴まれて頭突き。脇腹を左腕が抉りにくる。右の回し蹴り。ふたたび吹き飛ぶ。地面を転がされた先に強烈な踏みつけ。
「矮小な巨人よ!抗え!」
 踏みつけられた身体が反動で起き上がる。どうしたらそうなるのか。首を掴まれて背負い投げ。殺す気か。
「抗え。」
 また前蹴り。だが今度は腕を掴まれたまま。衝撃は腹を突き抜ける。魔道具のバリアが足りない。このままでは普通に死ねる。
 右腕。ハンマーのような殴りつけ。転がったところをつま先で蹴り上げられてついに口から血が出る。
「ここで打ち返せないならもういい、死ね。」
 容赦なく連打。壁を背に逃げ場もなく。さっきより明らかにダメージが通っている。魔道具のバリアが負けているのか。全力で展開し、死ぬまでの時間稼ぎをする。
 どんなに魔力を注いでも魔道具の出力があがる気配はない。もうダメかもしれない。
「抗えっ!!」
 死にたくない死にたくない死にたくない!
「くそがあっ!!」
 俺の拳はその猛獣をさがらせることができた。


「ふん、手間をかけさせる。」
 先ほどまでのことが嘘のように凪いだ表情で俺を指差してくる。
「とっくにその鎧は砕けている。途中からはお前の魔力のみによるものだ。おめでとう、目覚めし者よ。」
 鎧の胸のところにあるコアは砕け散り、幾らかの残骸を残して辺りに散らばっていた。
 俺の中の人間でない部分がこのとき発現されたのだ。

「魔道具は貴重なんだがな…。」
 ダリルが破片を集めながら呟いた。

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