かつて願いを叶えるのに失敗した最強の男は、今日も他人の願いを叶える〜辺境の街の鍛治職人〜

ノベルバユーザー589618

第16話 きこりエルフ、HYPER!!!

 普通、木の枝ってその先に葉っぱがあったりしてるんじゃないの!?
 叩きつけられる枝にはそんな余計なものはなく、殺傷性が高いであろう太くよくしなる先の尖ったもので、一撃ごとに身体の軽いわたしは地面の振動で飛び跳ねるのかと思うほどの衝撃がくる。
 実際には横っ飛びに必死で躱してるから、そんなコミカルなことにはなっていない。
「いぃぃぃやあぁぁぁぁっ!!!なにあれ!こわいっ!こわいよっ!なんなのあれえぇっ!!」
 叫びながら目が離せない。叩きつけられた地面が土を飛ばし陥没してるのを見て、絶対に当たっちゃいけないやつだって確信したものっ!
「あれは魔獣ですよ。私たちの間ではトレントなんて呼んでますが、この世界においては木の魔獣、木の化け物、怪物…まあこの場合木の魔獣でいいと思います。」
 言いながら矢が放たれる。またしても轟音を響かせ幹に刺さる。しかしそれもどれほどの効果があるかは分からない。
「こんなのどうやって倒せっていうの!?死ぬぅ!」
 飛んできた枝を避ける。
「倒せるわけないじゃないですか。何言ってるんですか?」
 矢が放たれる。続けてもう1本。
 うろを抜けるような低い音が聞こえた。まるで怒っているように。
「まあ、怒っているでしょうね。いきなり矢を刺されたのですから。」
「じゃあっ、どうやってっ!?きゃあっ!」
 なりふり構わず避ける。ギリギリすぎて辛い。
 矢が放たれる。
「必要なのは枝と皮です。それも1人分であれば倒す必要などないでしょう。その右手の武器で。」
 もう1本。
 話しながら、矢を放ちつつ鞭を躱している。格が違う。
「こんなの無理でしょ!?だったらかわりにロズウェルがやってよ、あなたなら楽勝でしょ!!?」
 彼との実力の差を目の当たりにして、牽制につとめて実行をこちらにだけさせようとしている事に苛立ちを覚えてしまう。
「あなたなら大丈夫ですよっと」
 さらに1本。唸り声が大きくなる。鞭の圧が膨らむ。
「何でなのよ!わたしよりあなたの方がずっと強いのに。わたしが弓を使えないからなのっ?あてつけなのおおおぉっ!いやあぁぁぁ!」
 あのエルフのように話しながら躱し続けるなんて芸当がいつまでできるかわからない。こちらのお願いも懇願も受け付けてくれない。あの優しさは開店休業中らしい。
 また矢が刺さる。続けてもう1本。
「気を確かに!斧を持って!構えるっ!!」
 鼓舞してるつもりらしい。どこまでもサポートのつもりで枝を切るのは代わってくれないみたいだ。死ぬかもしれない。きっとぺちゃんこになるんだ。この間測ったらCに成長していて喜んだ(真夜中のおっぱーてぃをひとり開催した)ばかりなのに次は測定不可どころか陥没して地面のシミになっちゃうのかしら。

 矢が刺さる。魔獣トレントはその唸り声をはっきりと聴かせてはち切れんばかりに力の込められた枝を真上から。いま着地して崩れた体勢では逃げられない。
「今ですっ!全力で振るえぇぇっ!!!」
「うぅわあぁぁぁっ!」
 はじめて聞いたロズウェルの叫びに、死にたくないわたしも両手に持った斧を渾身のチカラで、振り切った。空を。

 昔から鈍臭いなんてからかわれることはしょっちゅうで、大人になった今は弓の使えないダメエルフ。憧れのエルフと空の旅してわたしもなんて思って、さっきまでキラキラしていた世界が終わる。矢の刺さる音がした。

「なに勝手にエンディングを迎えようとしてるのですか?まだ皮剥ぎが残っているのですからやってくださいよ。」
 嵐の後のような惨状の中で、弓を持った手を下におろして笑顔でわたしを煽るエルフに、ちょっと休憩させて?と精一杯の笑顔でかわいくお願いしてみた。だめだってさ。

コメント

コメントを書く

「文学」の人気作品

書籍化作品