かつて願いを叶えるのに失敗した最強の男は、今日も他人の願いを叶える〜辺境の街の鍛治職人〜
第15話 きこりエルフ
空の旅は楽しい。そう思えたのも最初のうちだけで、今は吹き付ける風に耐え、寒さに耐えて震えてるばかりだ。なのに景色だけは憎らしいほどに綺麗なまま流れている。
「すみません、寒いですよね。良かったらこれを着て私を風避けにしてください。」
そう言って荷物の中から厚手のコートを渡してくれる。
「あああ、ありがどおお。」
震えて変な言葉になってしまう。
「ダリルが私任せにしたのは、このせいもあるんですよね。ヒトには少し辛いものですから。フィナさんも辛ければ遠慮なく私にしがみついててくださいね。」
はい、遠慮しません。言われてソッコーでしがみつく。齧り付きそうな勢いで。
ロズウェルが優しく笑う。
不思議とさっきまでの風や寒さが和らいだ。肉だるまのダリルと違ってスレンダーなロズウェルの背中にそんな効果があるなんて、エルフしゅごい。
「まあ、それは確かにその通りですね。」
ロズウェルのひとりごとは今回はよく分からなかった。
オーバーオールの似合わないエルフにしがみついてからは快適な空の旅で、お腹が鳴る頃には目的の山の麓に到着した。少し先に木々の生い茂るのが見える。
「ありがとう。じきに戻るから、今回はまだ待っててください。」
そう言ってピヨピヨに声を掛けて座らせる。エルフさんしゅごいのにファッションとネーミングのセンスは壊滅的のようだ。
「悪くないと思っているのですがねー。」
そう言いながらロズウェルは持ってきていたであろうハーブティーを差し出してくれる。今回は実家秘伝の糖蜜を入れてくれたらしい。濃厚な甘さが優しくて美味しい。
そう言えば道具と場所だけは聞かされて辿り着いたけど何を採取するのか聞いてない。
「ここで何を採取するの?」
「この先にある木から弓の材料を切り出すのですよ。斧は割るために、鉈は皮を剥ぐためにですね。」
そう言うロズウェルはお店の時の弓を持っている。実にエルフっぽい。わたしきこりっぽい。
そんなことを思っていたわたしをロズウェルは優しく見つめ微笑む。わたしも釣られて微笑む。視線を絡ませたふたりの間に糖蜜のような甘い時間がながれる。
ロズウェルはおもむろにわたしの頭に帽子を載せた。柔らか素材のぐるりと短いつばのついたみどりの帽子に綺麗な茶色い羽根がついている。きこりっぽさが加速した。
「ここを抜けるとすぐですよ。」
山の麓の木が生い茂る中、きこりルックのわたしと今は前を垂らして着崩したオーバーオールのエルフが木の根や枝を避けながら歩いている。
しかしきこりルックのわたしにはこんなものは障害ではない。なんだかよく切れる鉈で枝を払い、つまずかないよう足元に気をつけて進んでいく。きこりルックエルフはこんなのには負けないのだ。
「よく似合ってて可愛いと思いますけどねー。」
笑顔でそんなことを言われると素直に嬉しくなる。けどそう言ってくれた目の前のオーバーオールエルフを見てすぐに不安になる。それでも楽しくて鼻歌を口ずさむ。
「まあ、着きましたよ。あの赤茶色の大きな木がそうですね。」
確かにそこには他とは違う印象の太い木が天を衝くようにして聳えている。
「フィナさんには、あの木の太めの枝を一本と幹の皮をそうですね…練習場にあった盾くらいの量を削ってください。」
そう言ってロズウェルはストレッチを始める。なんだか楽しそうで、促されて同じ様にストレッチをする。笑顔のロズウェルとするストレッチはしっかりと身体をほぐし、今ならどんな運動でも怪我しなさそうな気がする。楽しくてわたしニッコニコ。きこりも悪くないかもっ。
「じゃあ、先に斧を持ってくださいね。準備はいいですか?」
「うん、大丈夫だよ。」
確かにあの高い位置にある枝を切ろうかと思うと木登りとかしなきゃだから、ストレッチしっかりしておいて良かった。
右手に斧を持って鉈は地面に置いておく。
「ではやりますか。」
そう言ったロズウェルは弓を構え、矢を放つ。練習場の時とは違う、威力を伴った矢。
なぜ?とか疑問はあったけど、その流れるような動作に目を奪われいつかはこんな風に弓を使ってみたいと、口を半開きにした間抜けな笑顔で見蕩れていた。
ズゴォンッっとそれが木に刺さった矢の音かと思う轟音が響いて、木の枝が飛んできた。
鞭のように繰り出された一撃をロズウェルは後方に飛ぶことで難なく躱す。
突然のことに呆気に取られて固まった笑顔のまま木を見ると、幹のうろが凶悪な顔のように歪んだ化け物が樹上の枝を揺らしてわたしたちを睥睨していた。
「ぐすっ…」
わたしは涙目になった。
「すみません、寒いですよね。良かったらこれを着て私を風避けにしてください。」
そう言って荷物の中から厚手のコートを渡してくれる。
「あああ、ありがどおお。」
震えて変な言葉になってしまう。
「ダリルが私任せにしたのは、このせいもあるんですよね。ヒトには少し辛いものですから。フィナさんも辛ければ遠慮なく私にしがみついててくださいね。」
はい、遠慮しません。言われてソッコーでしがみつく。齧り付きそうな勢いで。
ロズウェルが優しく笑う。
不思議とさっきまでの風や寒さが和らいだ。肉だるまのダリルと違ってスレンダーなロズウェルの背中にそんな効果があるなんて、エルフしゅごい。
「まあ、それは確かにその通りですね。」
ロズウェルのひとりごとは今回はよく分からなかった。
オーバーオールの似合わないエルフにしがみついてからは快適な空の旅で、お腹が鳴る頃には目的の山の麓に到着した。少し先に木々の生い茂るのが見える。
「ありがとう。じきに戻るから、今回はまだ待っててください。」
そう言ってピヨピヨに声を掛けて座らせる。エルフさんしゅごいのにファッションとネーミングのセンスは壊滅的のようだ。
「悪くないと思っているのですがねー。」
そう言いながらロズウェルは持ってきていたであろうハーブティーを差し出してくれる。今回は実家秘伝の糖蜜を入れてくれたらしい。濃厚な甘さが優しくて美味しい。
そう言えば道具と場所だけは聞かされて辿り着いたけど何を採取するのか聞いてない。
「ここで何を採取するの?」
「この先にある木から弓の材料を切り出すのですよ。斧は割るために、鉈は皮を剥ぐためにですね。」
そう言うロズウェルはお店の時の弓を持っている。実にエルフっぽい。わたしきこりっぽい。
そんなことを思っていたわたしをロズウェルは優しく見つめ微笑む。わたしも釣られて微笑む。視線を絡ませたふたりの間に糖蜜のような甘い時間がながれる。
ロズウェルはおもむろにわたしの頭に帽子を載せた。柔らか素材のぐるりと短いつばのついたみどりの帽子に綺麗な茶色い羽根がついている。きこりっぽさが加速した。
「ここを抜けるとすぐですよ。」
山の麓の木が生い茂る中、きこりルックのわたしと今は前を垂らして着崩したオーバーオールのエルフが木の根や枝を避けながら歩いている。
しかしきこりルックのわたしにはこんなものは障害ではない。なんだかよく切れる鉈で枝を払い、つまずかないよう足元に気をつけて進んでいく。きこりルックエルフはこんなのには負けないのだ。
「よく似合ってて可愛いと思いますけどねー。」
笑顔でそんなことを言われると素直に嬉しくなる。けどそう言ってくれた目の前のオーバーオールエルフを見てすぐに不安になる。それでも楽しくて鼻歌を口ずさむ。
「まあ、着きましたよ。あの赤茶色の大きな木がそうですね。」
確かにそこには他とは違う印象の太い木が天を衝くようにして聳えている。
「フィナさんには、あの木の太めの枝を一本と幹の皮をそうですね…練習場にあった盾くらいの量を削ってください。」
そう言ってロズウェルはストレッチを始める。なんだか楽しそうで、促されて同じ様にストレッチをする。笑顔のロズウェルとするストレッチはしっかりと身体をほぐし、今ならどんな運動でも怪我しなさそうな気がする。楽しくてわたしニッコニコ。きこりも悪くないかもっ。
「じゃあ、先に斧を持ってくださいね。準備はいいですか?」
「うん、大丈夫だよ。」
確かにあの高い位置にある枝を切ろうかと思うと木登りとかしなきゃだから、ストレッチしっかりしておいて良かった。
右手に斧を持って鉈は地面に置いておく。
「ではやりますか。」
そう言ったロズウェルは弓を構え、矢を放つ。練習場の時とは違う、威力を伴った矢。
なぜ?とか疑問はあったけど、その流れるような動作に目を奪われいつかはこんな風に弓を使ってみたいと、口を半開きにした間抜けな笑顔で見蕩れていた。
ズゴォンッっとそれが木に刺さった矢の音かと思う轟音が響いて、木の枝が飛んできた。
鞭のように繰り出された一撃をロズウェルは後方に飛ぶことで難なく躱す。
突然のことに呆気に取られて固まった笑顔のまま木を見ると、幹のうろが凶悪な顔のように歪んだ化け物が樹上の枝を揺らしてわたしたちを睥睨していた。
「ぐすっ…」
わたしは涙目になった。
「文学」の人気作品
書籍化作品
-
-
23252
-
-
440
-
-
3395
-
-
314
-
-
238
-
-
52
-
-
1
-
-
24251
-
-
70810
コメント