第二章　社会と現実はさほど甘くない。

バニーちゃんと一緒（５）

「ごめんね……ココちゃん。可愛げない娘たちの身代わりにして
強引だったかもしれない。へへっ」苦笑いしているコーキさん。

　ココに示した愛着心が本気で半端ない強さでおそろしかった。

　関係者全員ドン引きするぐらい抱き枕として扱われたココだ。
全身強く振るわせて真珠の涙と同時にベッドに崩れ落ちたんだ。

　どう考えても性的な被害者だ。事後を想像させる姿に驚きだ。
「……ココちゃん。コーキさんメッチャ良い人だけど強烈でさ」

　ココにすりよる永依が屹立した白い右耳ごと頭を抱きよせると
小声でつぶやく。慰められるココも不思議なくらい幼く見える。

　コーキさんと呼ばないだけでも親しい関係者を仮想敵扱いだ。

　おそろしい状況になる英田皇紀さん。英田副総裁の長男である
英雄のお嫁さんはテレビで料理研究家として活躍するほど美人。

　実際本業が別にありそちらは公にされない種類の異能だった。
第六感を駆使する未来予測も同様の株や先物取引で異才らしい。

　年間累計で莫大な金銭を生みだす鬼才は巫女として扱われる。

　旦那にべた惚れで英雄さんも工学博士としてＡＩ業界の内外に
その知名度も高い。人工知能学会で神様めいた能力の第一人者。

　金銭と力のあるマニアとしてかなり昔からオタク仲間なんだ。

　実姉の圭子はアンタッチャブルな弁護士だろう。保護者にして
天敵である存在だ。飄々としている勝利さんもイケメン弁護士。

「親父に説明されながら持ち前の悪運と変わらない引きの強さ。
マジで笑ったぜ」こちらを見つめながら勝利さんが本気で笑う。

「ホントね。永依が年末に大事件起こしてからお目付け役だった
執事も引責退任だ。永依を任せられる相手がアンタだけだった」

　隣で頭を抱えるようにして伝える姿がそっくりの姉は圭子だ。

「いつでもクソ親父の強引さだ。突飛すぎる発想力に助けられた
部分も大きいのさ。なんだっけ？　十五年前チェルノブイリ経過
視察で拾った村娘に種づけしてロシアで放置した実娘のココだ」

　かなり年齢差があるのにオタ友である英雄さんが素晴らしい。

　強引に実子として押しつけられたココの対応も紳士的すぎる。
プレイボーイ読者でバニーガール好きを公言しても躊躇わない。

　問題が想定外のコーキさんだ。悪口の弁護士が長女。医学者の
次女は外面だけで自分を尊重しないから不満全開だったらしい。

　そこに現れた男っぽい言動の愛らしい少女ウサギ獣人ココだ。
一目惚れして全力でかまい倒した結果が現在の実情なんだろう。

　突然の来訪で家族を歓待しようもない。ビルの代表者としては
考えることもある。八階建てＦＯＸビルは登記上個人の所有だ。

　その実態としてカフェは公安警察が運営している。代表になる
先輩が大喜多要さん。二階の設計事務所は昨年末に退去済みだ。

　二フロアを使用した旅行代理店もウイルス蔓延から撤退した。

　五階が非常勤法律事務所で登記上の代表者が英田勝利さんだ。
六階も勝利さんの隠れ家として関西滞在時に使用している部屋。

　七階は英雄さんの隠れ家的な秘密基地として時折使用される。

　それらの賃貸で資金供与をうけて個人事務所兼八階の居室だ。
各階二十坪だから生活環境を整えた浴槽とＤＫ設置は六階以上。

　姉夫婦は六階泊まり。伯父夫妻も七階で宿泊も可能だ。食事の
場所で利用できる施設が現状一階のフィッシュオンだけになる。

　ココの移動が認められる場所は自衛隊で管轄する範囲だけだ。

　普段の生活で必要な食材もカフェに委託して提供されている。
「ご存じでしょうがココは自衛隊の管轄から外出できませんよ」

　真面目に伝えると英雄さんは鷹揚にうなずき返すだけだった。

「らしいよね。安全の確保と情報漏洩が心配だから仕方ないさ。
しばらく滞在中食事も公安に依頼して一階のカフェに通達した」

「ココちゃんがあきないように食材とメニュー手配したからね」
　うふふと笑うコーキさんは有名料理研究家だと理解している。

「ココ。コーキさんは有名な料理研究家だから期待していいよ」

「そそ。ちょっとだけ変なとこあっけどメチャ旨の料理だから」
　ベッドから起きあがれないココだ。異口同音の言葉が届いた。

「あら永依ちゃん。美味しい料理はお預けされたいのかしら？」
　背後のコーキさんにジト目で威嚇された永依がすくみ上がる。

「コーキさんゴメンナサイ。美味しいお料理は食べたいのです」
　双眸を丸くするココと見つめあう永依の謝罪はお見事だった。