【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~
最終章 ずっと私は貴方のもの5
「だから漸さんには、私が最高のものを作ってあげますからね」
「よろしくお願いします」
あたまを下げた漸はちょっと嬉しそうで、ほっとした。
「……はぁーっ」
祖母の仕事部屋から茶の間に戻りながら、漸が苦悩の多いため息を吐く。
「あの、漸!
祖母、和裁技能士の一級なんです!」
「三橋お抱えの和裁士は、和裁検定一級の保持者です」
「うっ」
フォローしようとしたのに不発に終わった。
和裁技能士一級より和裁検定一級の方が難易度は上……とかいう噂だ。
ちなみに祖母は試験会場が東京なのが面倒くさい、なくてもやっていけるし、という理由で和裁検定は受けていない。
「でも、その、祖母は花嫁衣装なんかの仕立ても頼まれるほどで、それで問屋のおじさんは祖母の仕立てが知っている中でピカイチだって褒めてくれていて、それで……」
祖母は規格外だからと納得してもらおうと言葉を尽くす。
私だって祖母に言われなければ、というか言われてもわからなかった。
「大丈夫ですよ、鹿乃子さん。
店の仕立てが不味いと落ち込んでいるのではありません。
和裁士も、店も、それなりの金を取っておきながら、見る人が見れば雑だとわかる仕立てをしているのに腹を立てているのです」
「……」
漸の怒りの理由がわかり、納得した。
もらった金額分の対価をはたしてないのは、商売としてはダメだ。
……もらった金額以上に対価を渡すのもダメだけど。
「私の顧客の仕立てを、おばあ様に頼めないでしょうか。
ああでも、もうお年ですし……。
お母様ならどうでしょう?」
もう最善の方法を考えはじめた漸は、根っからの商売人なんだと思う。
「祖母と母に相談してみてください。
私ではお返事できませんから」
「そうですね」
気づき、は大事だ。
私も祖母や漸みたいに、小さなことにも気づけるようになりたい。
戻った茶の間には――カニがでーん!と鎮座していた。
「……カニですね」
「カニだ」
漸と祖父が目配せし、意味深に頷きあう。
東京でもカニは食べられただろうに、あれから漸はカニに嵌まっているのだ。
スーパーに行っては必ず、カニを買う。
おかげで我が家は週二ペースでカニが食卓にのっていた。
「飲むだろ」
「もちろんです」
ドン、ドン、と二本の一升瓶がテーブルの上に置かれる。
今日のために漸も、日本酒を買っていた。
「鹿乃子、コップもってこい!」
「はいはーい。
……漸、明日は東京なんですから、飲み過ぎないでくださいね」
持ってきたグラスをふたつ、漸に渡す。
ひとつを漸は、祖父に渡した。
「はい、ほどほどにしておきます」
なんて笑っているけど、不安だなー。
「じいさん、飲む前にちょっと待てよ」
互いのグラスに酒を注いだところで、父に止められた。
「えーっと。
こほん」
父が改まり、全員が姿勢を正す。
「鹿乃子、漸くん。
結婚、おめでとう。
式は改めてするということだけど、まずは入籍のお祝いということで。
鹿乃子はこのとおり頑固だし、いろいろ大変だと思うけど……」
「なげぇよ」
待ちきれない祖父に遮られ、むすっ、と父が口を噤んだ。
しかし、すぐに気を取り直して再び開く。
「じゃあ。
ふたりとも、幸せにな。
か……」
「あー、すみません!
先に、ご報告しておきたいことが!」
今度は漸に遮られ、父はまたむすっ、と口を噤んだ。
「私、本日から有坂漸になりました。
よろしくお願いいたします」
「はぁっ!?」
漸は嬉しくて仕方なくてにこにこ笑っているが、父と祖父は同時に詰め寄った。
「よろしくお願いします」
あたまを下げた漸はちょっと嬉しそうで、ほっとした。
「……はぁーっ」
祖母の仕事部屋から茶の間に戻りながら、漸が苦悩の多いため息を吐く。
「あの、漸!
祖母、和裁技能士の一級なんです!」
「三橋お抱えの和裁士は、和裁検定一級の保持者です」
「うっ」
フォローしようとしたのに不発に終わった。
和裁技能士一級より和裁検定一級の方が難易度は上……とかいう噂だ。
ちなみに祖母は試験会場が東京なのが面倒くさい、なくてもやっていけるし、という理由で和裁検定は受けていない。
「でも、その、祖母は花嫁衣装なんかの仕立ても頼まれるほどで、それで問屋のおじさんは祖母の仕立てが知っている中でピカイチだって褒めてくれていて、それで……」
祖母は規格外だからと納得してもらおうと言葉を尽くす。
私だって祖母に言われなければ、というか言われてもわからなかった。
「大丈夫ですよ、鹿乃子さん。
店の仕立てが不味いと落ち込んでいるのではありません。
和裁士も、店も、それなりの金を取っておきながら、見る人が見れば雑だとわかる仕立てをしているのに腹を立てているのです」
「……」
漸の怒りの理由がわかり、納得した。
もらった金額分の対価をはたしてないのは、商売としてはダメだ。
……もらった金額以上に対価を渡すのもダメだけど。
「私の顧客の仕立てを、おばあ様に頼めないでしょうか。
ああでも、もうお年ですし……。
お母様ならどうでしょう?」
もう最善の方法を考えはじめた漸は、根っからの商売人なんだと思う。
「祖母と母に相談してみてください。
私ではお返事できませんから」
「そうですね」
気づき、は大事だ。
私も祖母や漸みたいに、小さなことにも気づけるようになりたい。
戻った茶の間には――カニがでーん!と鎮座していた。
「……カニですね」
「カニだ」
漸と祖父が目配せし、意味深に頷きあう。
東京でもカニは食べられただろうに、あれから漸はカニに嵌まっているのだ。
スーパーに行っては必ず、カニを買う。
おかげで我が家は週二ペースでカニが食卓にのっていた。
「飲むだろ」
「もちろんです」
ドン、ドン、と二本の一升瓶がテーブルの上に置かれる。
今日のために漸も、日本酒を買っていた。
「鹿乃子、コップもってこい!」
「はいはーい。
……漸、明日は東京なんですから、飲み過ぎないでくださいね」
持ってきたグラスをふたつ、漸に渡す。
ひとつを漸は、祖父に渡した。
「はい、ほどほどにしておきます」
なんて笑っているけど、不安だなー。
「じいさん、飲む前にちょっと待てよ」
互いのグラスに酒を注いだところで、父に止められた。
「えーっと。
こほん」
父が改まり、全員が姿勢を正す。
「鹿乃子、漸くん。
結婚、おめでとう。
式は改めてするということだけど、まずは入籍のお祝いということで。
鹿乃子はこのとおり頑固だし、いろいろ大変だと思うけど……」
「なげぇよ」
待ちきれない祖父に遮られ、むすっ、と父が口を噤んだ。
しかし、すぐに気を取り直して再び開く。
「じゃあ。
ふたりとも、幸せにな。
か……」
「あー、すみません!
先に、ご報告しておきたいことが!」
今度は漸に遮られ、父はまたむすっ、と口を噤んだ。
「私、本日から有坂漸になりました。
よろしくお願いいたします」
「はぁっ!?」
漸は嬉しくて仕方なくてにこにこ笑っているが、父と祖父は同時に詰め寄った。
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