【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~
最終章 ずっと私は貴方のもの2
私を見て、他の家族も口々に褒めてくれるのがなんだかくすぐったい。
「鹿乃子も漸くんも来たなら、話があるんだ。
ちょっと工房、いいか」
急に父が真面目な顔になり、不安になった。
有坂染色が問屋から切られたのはほんの少し前の話だ。
いまは漸が担ぎ屋のようなことをやって自分の顧客を回り、売上を作ってくれている。
工房で私たちを前にした父と祖父は、恐ろしいほど真剣な顔をしていた。
まさか、またなにかあったんじゃ。
悪い想像ばかりがあたまの中をぐるぐると回る。
「これを、受け取ってほしい」
目の前に父が置いた衣装盆には、なんだか分厚い物体がのっていた。
「……布団?」
「ちがーう!」
言った瞬間にツッコまれた。
「打ち掛け、ですか?」
「さすが、漸くん」
うっ、漸は褒めるんだ……。
まあ、わからなかった私も悪いけど。
「じいさんとふたりで作ったんだ」
祖父とふたりで置いてある、衣桁へかけてくれる。
それは鮮やかな赤地に四季の花と鶴亀が描かれた、祖父にしてはモダンな柄だった。
「鹿乃子には絶対、赤が似合うからな」
「同感です」
うんうん、と漸は祖父に同意しているけど、それはそーだろーねー。
私のエロ下着は赤が一番、お好みですし?
「いままでどおりのがっつり古典の柄もいいが、若い人間向けに少しばかり遊び心のある柄もいいかと思ってな。
鹿乃子にはこういう、可愛い花嫁になってほしくて……」
ごにょごにょと父の声がだんだん、小さくなっていく。
「なに照れてんだよ、てめぇは!」
「いてぇよ、じいさん!」
バシッと背中を叩かれ、父は若干、キレているが……これって?
「お父さんが作ってくれたの?」
さっき、祖父と作ったとは言っていたが。
「俺はちぃっと、手伝いをしただけだ。
柄も全部、こいつが考えた」
「あっ、こら!
じじぃ!」
慌てて父が、祖父の口を塞ごうとする。
……成人式の着物も祖父に譲った父が私に、花嫁衣装を?
「絶対に鹿乃子の花嫁衣装は、譲らないだってよ」
「だからじじぃ!」
父に愛されていないだなんて思ったことはない。
それでも過剰な愛情を注ぐ祖父に対して一歩引いている父を、淋しくは思っていた。
……けれど。
「……ありがとう、父さん」
出てきそうになった涙は、鼻を啜って誤魔化した。
「凄く、嬉しい」
「……喜んでくれたんならよかった」
赤い顔で父は、首の後ろをぽりぽり掻いている。
この人の子供でよかったな。
おかげで、最近ずっと考えていたことは、決心が固まったけど。
「打ち掛けは譲った分、掛下は張り切らせてもらったけどな!」
ばさっと勢いよく、祖父が着物を広げる。
「……じいちゃん?」
「おじい様?」
漸も信じられなかったみたいで、何度もパチパチと瞬きをしてそれを見ていた。
「本当にじいちゃんが作ったの?」
「おう。
最近の花嫁衣装を研究してみたんだ。
こういうのもけっこう、面白いな!」
かっかっかっ、なんて祖父は豪快に笑っているが、……凄い。
この年になって新しいことにチャレンジできるなんて。
父の打ち掛けは確かに有坂工房では珍しい柄ではあるが、ありえない感じではない。
けれど祖父の振り袖は、これを祖父が作ったのだと言っても誰も信じないだろう。
それほどまでにポップだった。
「なんか俺の打ち掛けが霞む……」
「大丈夫だ、ちゃんと映えるように計算してあるからな!」
「鹿乃子も漸くんも来たなら、話があるんだ。
ちょっと工房、いいか」
急に父が真面目な顔になり、不安になった。
有坂染色が問屋から切られたのはほんの少し前の話だ。
いまは漸が担ぎ屋のようなことをやって自分の顧客を回り、売上を作ってくれている。
工房で私たちを前にした父と祖父は、恐ろしいほど真剣な顔をしていた。
まさか、またなにかあったんじゃ。
悪い想像ばかりがあたまの中をぐるぐると回る。
「これを、受け取ってほしい」
目の前に父が置いた衣装盆には、なんだか分厚い物体がのっていた。
「……布団?」
「ちがーう!」
言った瞬間にツッコまれた。
「打ち掛け、ですか?」
「さすが、漸くん」
うっ、漸は褒めるんだ……。
まあ、わからなかった私も悪いけど。
「じいさんとふたりで作ったんだ」
祖父とふたりで置いてある、衣桁へかけてくれる。
それは鮮やかな赤地に四季の花と鶴亀が描かれた、祖父にしてはモダンな柄だった。
「鹿乃子には絶対、赤が似合うからな」
「同感です」
うんうん、と漸は祖父に同意しているけど、それはそーだろーねー。
私のエロ下着は赤が一番、お好みですし?
「いままでどおりのがっつり古典の柄もいいが、若い人間向けに少しばかり遊び心のある柄もいいかと思ってな。
鹿乃子にはこういう、可愛い花嫁になってほしくて……」
ごにょごにょと父の声がだんだん、小さくなっていく。
「なに照れてんだよ、てめぇは!」
「いてぇよ、じいさん!」
バシッと背中を叩かれ、父は若干、キレているが……これって?
「お父さんが作ってくれたの?」
さっき、祖父と作ったとは言っていたが。
「俺はちぃっと、手伝いをしただけだ。
柄も全部、こいつが考えた」
「あっ、こら!
じじぃ!」
慌てて父が、祖父の口を塞ごうとする。
……成人式の着物も祖父に譲った父が私に、花嫁衣装を?
「絶対に鹿乃子の花嫁衣装は、譲らないだってよ」
「だからじじぃ!」
父に愛されていないだなんて思ったことはない。
それでも過剰な愛情を注ぐ祖父に対して一歩引いている父を、淋しくは思っていた。
……けれど。
「……ありがとう、父さん」
出てきそうになった涙は、鼻を啜って誤魔化した。
「凄く、嬉しい」
「……喜んでくれたんならよかった」
赤い顔で父は、首の後ろをぽりぽり掻いている。
この人の子供でよかったな。
おかげで、最近ずっと考えていたことは、決心が固まったけど。
「打ち掛けは譲った分、掛下は張り切らせてもらったけどな!」
ばさっと勢いよく、祖父が着物を広げる。
「……じいちゃん?」
「おじい様?」
漸も信じられなかったみたいで、何度もパチパチと瞬きをしてそれを見ていた。
「本当にじいちゃんが作ったの?」
「おう。
最近の花嫁衣装を研究してみたんだ。
こういうのもけっこう、面白いな!」
かっかっかっ、なんて祖父は豪快に笑っているが、……凄い。
この年になって新しいことにチャレンジできるなんて。
父の打ち掛けは確かに有坂工房では珍しい柄ではあるが、ありえない感じではない。
けれど祖父の振り袖は、これを祖父が作ったのだと言っても誰も信じないだろう。
それほどまでにポップだった。
「なんか俺の打ち掛けが霞む……」
「大丈夫だ、ちゃんと映えるように計算してあるからな!」
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