【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~

霧内杳

第11章 ラスボス登場?8

実家の工房を彼女に助けてもらうようになっている。
それなのにさらに、こんなお願い。

「そうですね、この件はおじい様の着物一枚で手を打ってもらえないかお願いします。
なので鹿乃子さん、頼みましたよ?」

「了解です」

やっぱり漸は、私の素敵な旦那様だ。
ときどき、デリカシーはないけど。

さっきから話題の主なのに、なにが起こっているのかわかっていない、志芳さんと向き直る。

「志芳さん。
上手くいくか、確約はできません。
でもこちらから、志芳さんが家から自由になれるように手を尽くさせてもらおうと思います。
もし、いらぬお節介だったら、言ってください」

みるみる彼女の目に涙が溜まっていく、そのまま、何度もぶんぶんと彼女は首を横に振った。

「これから好きなだけ、お洋服作れるようになるの?」

「はい、そうなるように頑張ります」

「少女まんがみたいな、恋もできるの?」

「あー、それはちょっとあれですが、誰にも決められずに、自由に恋ができますよ」

嬉しそうに涙を拭う彼女は、等身大の二十歳の女の子に見える。

「鹿乃子お姉さま、大好き!」

「えっ、あっ」

いきなり、志芳さんから抱きつかれた。
ああもう、可愛いなー。
妹がいたら、こんな感じだったんだろうか。

「……」

どーでもいいけど、漸。
無言で睨むのはやめてください。

来たときとは違い、志芳さんはにこにこ笑いながら帰っていった。
あれが本来の彼女なんだろう。
早く、いつもあれになれるように、祈ろう。

「……抱きつかれていましたね」

「うわっ」

ぼそっと暗い声が頭上から降ってきたかと思ったら、覆い被さるように後ろから漸に抱きつかれた。

「鹿乃子さんは私のものなのに」

まるでつけられたにおいを消すかのように、漸が身体を擦りつけてくる。

「鹿乃子さんも締まらない、嬉しそうな顔をしていました」

「えーっと、……漸?」

気づいてはいた、志芳さんにヤキモチを妬いているんだろうな、って。

「鹿乃子さんは私のものです。
誰にも渡しません」

「その、志芳さんは女の子ですし……」

「いまの時代、男だとか女だとか関係ありません」

そうだけれども!
じゃあ、私と仲のよい女子に全員、ヤキモチを妬くのか!? 

「あんな小娘に、私の鹿乃子さんを渡したりしませんよ」

「漸、……てばっ……」

漸の手がパーカーの裾から入ってくる。

「鹿乃子さんは私のものです……」

「あっ」

甘い重低音で耳を犯しながら、れろりと形をなぞるように舐め上げられたら堪らない。

「ここ、玄関だから……」

「だから?」

問題ない、とばかりに漸の手がさらに服の奥深くへと侵入する。

「私は漸のものだから。
誰のものにもならないから。
心配しなくても大丈夫なので、ここでのえっちはダメです」

渾身の力で顔を上げ、めっ、と漸を睨む。

「……鹿乃子さんに怒られてしまいました」

しゅーん、とみるみる漸が萎れていく。
はぁっ、とため息をつき、ちょいちょいと手招きした。
顔を近づけた漸の耳もとに、口を寄せる。

「……夜。
いっぱい、ラブラブしましょう?」

「鹿乃子さん!」

思いっきり漸が私を抱き締めるから、足が宙に浮く。
夜は当然ながら三日ほど会えなかったのもあり、……文字通り死ぬほど、愛された。

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