【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~

霧内杳

第10章 抱かせていただいてもいいですか6

「漸さん、すみませんねぇ。
この人、カニに目がないもんだから。
よかったらあがっていって」

祖父からカニの箱を受け取り、祖母はまた家の中へと戻っていく。

「あがれ、あがれ。
一緒にメシ、食っていけばいい」

もう祖父はその気だし、できればそうしたいところだけど、今日はそうはいかないのだ。

「あー、……今日は、帰る」

見上げて、目のあった漸がにっこりと笑って頷いた。

「今日は少し、都合がありまして。
申し訳ありませんが、失礼させていただきます」

「なんでぇ」

祖父は残念そうだが、もう随分おあずけを食らっていたのだから、……ね?

「またカニを差し入れさせていただきますね」

「カニならいくらでも大歓迎だ!」

上機嫌の祖父に見送られて実家をあとにした。
家に帰って荷物を下ろしながら、気になるものがひとつ。
漸がドラッグストアで買ったレジ袋の中に、あれと一緒に【スッポンまむしドリンク】なんて文字の躍るパッケージが見えるんだけど……。
そんなに不安なのかな。
もし、私とでもそうだったとしても、漸を責めたりしないのに。

晩ごはんはもちろん、カニ鍋だった。

「カニです……!」

本当に嬉しそうに、漸はカニを食べている。
のはいいが、カニって無言になっちゃうんだよね。

「やっぱりカニは美味しいです。
まさかスーパーで、あんなに簡単に買えるなんて思いませんでした……」

お腹いっぱい食べ、食後のコーヒーを飲みながら漸はしみじみと言っているが……買えるよね?
カニ。
スーパーで。

「金沢はいいです。
魚は美味しいし、カニも美味しいし」

「食べるものばかりですね。
天気の悪い日は多いし、湿度は高いし、それなりに大変ですよ」

いいことばかりあげる漸はちょっと可愛いが、厳しい部分だって知ってほしい。

「全部好きになりますよ。
それが、鹿乃子さんを育ててくれたものですから」

ちゅっ、と唇が重なった。
少しだけ顔は離れたものの、そのまま漸はじっと、私の目を見ている。

「……いまから。
鹿乃子さんを抱かせていただいてもいいですか」

「……なんですか、抱かせていただくって」

つい、ぷっ、と吹きだしていた。

「笑うなんてせっかくの空気が台無しです」

漸は不満そうだが、だっておかしいんだもの。

「せめて抱いていいですか、にしてください」

「でも私は、させていただくわけですし……」

「だから、させていただくって!」

そこまでへりくだる必要が?
私にはわからないけれど。

「じゃあ、漸。
……私を抱いていただけますか?」

「……鹿乃子さんは意地悪です」

拗ねながらも再び、唇が重なる。
私を抱き上げて、漸は立ち上がった。

「お風呂は一緒に入りますか?」

「あー……。
別で」

みるみる漸が萎んでいき、慌ててフォローする。

「ほら、それぞれの事前準備とかあるじゃないですか」

「事前準備ですか?」

少し考えた漸の顔が、ぱっと上がった。

「そうですね、それは大事です」

納得してくれたみたいで、ほっとした。

お先にどうぞ、と言われたので、素直に先に入る。

「エロ……過ぎ?」

帰ってきたらそうなるのはわかっていたので、東京でセクシー下着を買ってきた。
ええ、立本さんと一緒に行くわけにもいかず、最終日に迷いながら手に入れてきましたが、なにか?

「そもそも、漸の趣味がわかんないんだよね……」

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