【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~
第9章 私と貴方の独占欲7
さらに今度は、彼の口から苦労の多い大きなため息が落ちていく。
「お前こそそーゆーのは、漸にだけ言え?
じゃないと他の男から好きになられちゃうよよ?」
「あいたっ!
……なにするんですかー」
デコピンされて痛む額を押さえ、涙目で抗議する。
「あーあ。
漸の奴、絶対この先、苦労が絶えねえぞ」
「なんでですか」
「この、天然たらしが。
いや、漸も天然たらしだから似たもの夫婦でいいのか?」
ひとりで納得してニシニシなんて愉しそうに立本さんは笑っているが、私には全く意味がわかりません。
漸を幸せにしたい同士として、立本さんとはさらに話が弾み、ということはお酒も進むわけで。
「もー、飲めません……」
「だろうな。
おら、帰るぞ」
輪っかの祖父の孫とはいえ酒量は人並みな私が、漸並みにいくら飲んでも全く変化のない立本さんにあわせて飲めば当然、そうなるわけで。
足下もおぼつかず、支えられて店を出る。
「お待たせしてすみません」
外では漸が、待っていた。
「鹿乃子さん!?
なんでこんなに、酔っ払ってるんですか!?」
慌てて漸が、立本さんから私を受け取る。
「ふにゃー。
漸、ぜーったいに私が、幸せにしますからねー」
漸の匂いに包まれて、さらに身体から力が抜けた。
「すまん、つい俺のペースで飲ませた」
「すまんじゃないですよ、まったく。
ほら、鹿乃子さん、……鹿乃子さん?」
次第に、漸の声が遠くなっていく。
そこでぷっつり、私の記憶は途絶えた。
「……鹿乃子さん」
聞いたこともないほど冷たい声で名前を呼ばれ、目を開ける。
途端に視界に入ってきたのは能面のように、表情のない漸の顔だった。
「漸……?」
いっぺんに、酔いが引く。
それほどまでに無表情にベッドへ横たわる私を見下ろす漸は、怖かった。
「今日は一日、一斗と一緒で楽しかったみたいですね。
よかったです」
その割に漸の声は、どこまでもフラットだ。
怒っている、でもなんで?
「その。
……酔い潰れるほど飲んだのは、あやまります」
起き上がりたい、けれど漸は私の動きを封じるように、顔の両側へ手を突いてじっと私を見ていた。
「別に怒っていませんよ。
それだけ、楽しかったのでしょう?
よかったです」
嘘、腹の底から怒っている。
でもだいたい、立本さんに私を楽しませるように、なんて頼んだのは漸で。
私の食事までさせて帰すように立本さんに言ったのは漸で。
「……食事だけじゃなく、そのあとにバーまで行ったのもあやまります。
ごめんなさい」
それ以外にもう、漸が怒っている原因なんて考えつかない。
「だから怒っていませんよ。
つい、話が弾んで、なんてことはよくあることです」
なんで漸は、こんな嘘をつくのだろう。
必死に理由を探ろうとするが、レンズの向こうの瞳はガラス玉みたいでなんの感情も読み取れない。
……ううん。
そのずっとずっと奥深く。
ちろちろと仄暗い焔が燃えている。
「……もしかして立本さんに、……嫉妬、していますか?」
「私が一斗に嫉妬?
そんなこと、するわけないでしょう?」
嘘。
いま一瞬、顔が僅かに歪んだ。
「心配しなくても、私は漸だけのものですよ。
漸以外の誰のものにもなったりしません」
手を伸ばし、その顔に触れると、怯えるようにびくりと震えた。
「だから私は、心配などと」
「お前こそそーゆーのは、漸にだけ言え?
じゃないと他の男から好きになられちゃうよよ?」
「あいたっ!
……なにするんですかー」
デコピンされて痛む額を押さえ、涙目で抗議する。
「あーあ。
漸の奴、絶対この先、苦労が絶えねえぞ」
「なんでですか」
「この、天然たらしが。
いや、漸も天然たらしだから似たもの夫婦でいいのか?」
ひとりで納得してニシニシなんて愉しそうに立本さんは笑っているが、私には全く意味がわかりません。
漸を幸せにしたい同士として、立本さんとはさらに話が弾み、ということはお酒も進むわけで。
「もー、飲めません……」
「だろうな。
おら、帰るぞ」
輪っかの祖父の孫とはいえ酒量は人並みな私が、漸並みにいくら飲んでも全く変化のない立本さんにあわせて飲めば当然、そうなるわけで。
足下もおぼつかず、支えられて店を出る。
「お待たせしてすみません」
外では漸が、待っていた。
「鹿乃子さん!?
なんでこんなに、酔っ払ってるんですか!?」
慌てて漸が、立本さんから私を受け取る。
「ふにゃー。
漸、ぜーったいに私が、幸せにしますからねー」
漸の匂いに包まれて、さらに身体から力が抜けた。
「すまん、つい俺のペースで飲ませた」
「すまんじゃないですよ、まったく。
ほら、鹿乃子さん、……鹿乃子さん?」
次第に、漸の声が遠くなっていく。
そこでぷっつり、私の記憶は途絶えた。
「……鹿乃子さん」
聞いたこともないほど冷たい声で名前を呼ばれ、目を開ける。
途端に視界に入ってきたのは能面のように、表情のない漸の顔だった。
「漸……?」
いっぺんに、酔いが引く。
それほどまでに無表情にベッドへ横たわる私を見下ろす漸は、怖かった。
「今日は一日、一斗と一緒で楽しかったみたいですね。
よかったです」
その割に漸の声は、どこまでもフラットだ。
怒っている、でもなんで?
「その。
……酔い潰れるほど飲んだのは、あやまります」
起き上がりたい、けれど漸は私の動きを封じるように、顔の両側へ手を突いてじっと私を見ていた。
「別に怒っていませんよ。
それだけ、楽しかったのでしょう?
よかったです」
嘘、腹の底から怒っている。
でもだいたい、立本さんに私を楽しませるように、なんて頼んだのは漸で。
私の食事までさせて帰すように立本さんに言ったのは漸で。
「……食事だけじゃなく、そのあとにバーまで行ったのもあやまります。
ごめんなさい」
それ以外にもう、漸が怒っている原因なんて考えつかない。
「だから怒っていませんよ。
つい、話が弾んで、なんてことはよくあることです」
なんで漸は、こんな嘘をつくのだろう。
必死に理由を探ろうとするが、レンズの向こうの瞳はガラス玉みたいでなんの感情も読み取れない。
……ううん。
そのずっとずっと奥深く。
ちろちろと仄暗い焔が燃えている。
「……もしかして立本さんに、……嫉妬、していますか?」
「私が一斗に嫉妬?
そんなこと、するわけないでしょう?」
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