【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~

霧内杳

第9章 私と貴方の独占欲6

「卒業してしばらく会ってなかったんだ。
税理士の資格も取れて自分の事務所を開く、って段階になってふと、あいつ、どうしているかな、と思った。
……ほら、食え」

「……はい」

焼けた肉をぽいぽい彼は私のお皿に放り込んだ。
自分の皿にも入れ、新しい肉をのせる。
一切れ、口に入れてゴクンと飲み下し、焼酎で口をすすいで再び彼は肉を焼きながら話しだした。

「連絡取ってひさしぶりに会ったあいつは、相変わらずにこにこ笑ってた。
でも、昔よりもっと、危うい感じがして。
大丈夫か、って訊いたら、立本さん、私、どうしようって。
もしかしたらあと数日、連絡するのが遅かったらあいつ、もうこの世にいなかったかもしれん」

「……立本さんがいてくれてよかった、です」

私と会う前の漸は、そんなにも追い詰められていた。
いや、会ってからだっていつも、傷ついていたのだ。
家族が、お父さんが……憎い。
こんなにも酷く、漸を傷つけて。

きっと立本さんとっておきのお店だから、この肉は美味しいのだろう。
でもさっきから鼻が詰まって、味が全くわからない。

「食ってるか?」

「食べてますよ」

証明するかのように肉を口へ入れる。

「もっと食え、もっと」

また立本さんは私の皿へ、肉を入れた。

「一緒に会社を興そうって誘ったのは俺なんだ。
あいつ、あたまいいからな、経理面からの経営コンサルは絶対、向いてると思ったんだ。
親父さんの反対はあったが、俺と仕事をはじめてからちゃんと笑うようになった」

くいっ、と焼酎を飲み干し、立本さんが新しく頼む。

「でもやっぱり、いつもどこか無理してんだよな。
それが夏から、鹿乃子さんが、鹿乃子さんが、って締まらない顔で」

ふっ、と苦笑いし、立本さんはグラスを口に運んだ。

「なんか……すみません」

このあいだ、彼は漸から同じ話を五回は聞いたといっていた。
きっとあれだけじゃないだろうから……漸、話しすぎ。

「ああ、俺よりもっと、漸をわかってくれる奴ができたんだ、ってほっとした。
勝手にできる女を想像してたんだが、こんなちんくしゃだとは思わなかった」

にやっ、と右の頬を歪ませて意地悪く立本さんは笑った。

「……すみませんね、ちんくしゃで」

この身長は最近、少しばかりコンプレックスだ。
漸と比べるとかなり小さいから、いろいろ不便だし。

……ん?
もしかしていってきますのキスとかが額なのって、腰を屈めて唇にするのが大変だからなのか?

「まー、俺は漸が幸せならそれでいい。
でも漸を不幸にする奴は許さない。
たとえ、漸が本気で愛している人間でもな」

くいっ、と立本さんがグラスを呷る。
さらりと軽く語られたそれは、ずっしりと私にのしかかってきた。

「絶対に幸せにしますから、大丈夫です」

「頼んだぞ、マジで」

へらっ、と笑い、立本さんが新しい酒を頼む。
私は彼から、漸を託された。
これは責任重大だ。
でも私は、漸を幸せにすると決めているから。

適当に立本さんの女性遍歴なんかにツッコミを入れつつ、食べて飲む。
打ち解けてみると彼はけっこう気さくで、話しやすかった。

「もう一軒行くか。
オススメのバーがあるんだ。
いや、酒はもちろんなんだが、ミルクセーキが最高でな。
デザートにどうだ?」

「なんですか、それ!
美味しそうです!」

焼き肉屋を出て少し歩き、隠れ家的バーへ入る。
立本さんは私に、軽めのカクテルとオススメのミルクセーキを頼んでくれた。

「美味しいです!」

「そうか」

ミルクセーキを食べる私を、にこにこと笑って立本さんは見ている。

「あー……」

「ん?」

少しだけ不思議そうに、彼の首が傾いた。

「他の女性にもそーゆー顔を見せたら、一発で好きになってもらえると思いますよ?」

なぜかみるみる、立本さんの顔が赤くなっていく。
ん?
私なんか、変なことを言ったか?

「あのさー」

「【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く