【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~

霧内杳

第6章 漸は私の男です14

涙の浮いた目で漸を見上げる。
ゆっくりと眼鏡を外した彼は、火傷をしそうなほど熱い瞳で私を見ていた。

「……言え、鹿乃子」

燃えさかる石炭のような目には逆らえない。
震える唇で言葉を紡いだ。

「漸は、私の、男、です」

「うん」

「漸は私の男だから、誰にも渡さない……!」

「上出来」

瞬間、噛みつくみたいに唇が重なった。
何度も何度も、唇を触れあわせる。
その先に進みたいのに、漸はくれなくてもどかしい。

「……漸……」

もっと深く、繋がりたい。
期待を込めて見つめる。

「ダメですよ。
ここでは鹿乃子さんを抱かないと言ったでしょう?
続きは金沢に帰ってから、です」

ふふっ、とおかしそうに笑い、再び漸は眼鏡をかけた。

「明日は店に行って仕事の整理をしてきます。
ベッドの搬入、お任せしますね」

「ベッド、買ってよかったんですか?
もう店を辞めるんだったら」

ここで過ごすのはそんなに長い期間ではないはずだ。

「そうですね、店の仕事の整理に半年くらいかかると思います。
仕入れも経理も主に私がやっていましたから。
副業の方も本拠地を金沢へ移す準備をしないといけません。
早く可愛い鹿乃子さんと暮らすあの家へ引き上げてしまいたいですが、もうしばらくは無理ですね」

すぐにあちらへ移れるなど思っていない。
でも思った以上にかかるみたいで、ちょっと……。

「もしかして、淋しいですか?」

「そ、そんなこと、あるわけないじゃないですか!」

笑って誤魔化したけど、気づかれてないよね……?

「なるべく早く、片付けるように努力します」

くすり、なんて笑われたから、漸には私の小さな見栄なんて見抜かれているんだろうな……。

「明日、副業のパートナーに紹介します。
夜は期待していてください。
彼は私と違い、お洒落で美味しいお店をたくさん知っていますから」

「それは楽しみにしています」

……なーんて嘘。
そんなお店は、漸とふたりきりで行きたいに決まっている。

今日もソファーベッドに敷きパットを敷き、そこで寝る。

「明日からはゆっくり眠れますから」

「……これはこれで漸の体温が温かくて、癖になりそうですけどね……」

ぎゅーっと漸に抱きついて、目を閉じる。
今日は精神的に疲れていて、すぐに眠気が襲ってきた。

「おやすみなさい、私の可愛い鹿乃子さん」

優しい漸の声を最後に、眠りに落ちていった。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品