【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~
第6章 漸は私の男です12
あたまを下げて襖を開けた漸を追う。
先に私を出し、漸は中を振り返った。
「ああ、毅。
政治家の孫なのに初代総理大臣も知らないような貴方の妻より、鹿乃子さんが醜いなんてことはありえませんので。
じゃあ」
とん、と軽い音がして襖が閉まる。
「漸……?」
「すみません、可愛い鹿乃子さんをブスだなんて言われて腹が立ち、少々意地悪をしてしまいました」
「少々……?」
なんだろうか?
襖の向こうからは凄まじい咆哮が聞こえてきているけど。
「もうここには用がありません。
さっさと行きましょう」
「……はい」
清々しい顔で笑いながら漸は私を促しているけれど。
……あれ?
もしかして私、今日、いらなかった……?
帰りは誰も見送りにすら出てこなかった。
「タクシーを呼んでもいいんですが、少し歩いたら大通りなのでそこで拾った方が……」
「あー、怖かったー」
「……鹿乃子、さん?」
門を出て、ようやく大きく息を吐き出す。
そんな私をさぞ不思議そうに漸は見た。
「もしかして、緊張していたんですか」
「するに決まっているじゃないですか。
……あ、どっちですか」
漸の手が私の手を取り、歩きはじめる。
「堂々としていらっしゃったので、さすがおじい様の孫だけある、肝が据わっているなと思っていたのですが」
「えー、めちゃくちゃ怖かったですよ?
泣きたくなりましたが泣いたら負けだと思って」
じいちゃんがいるから大丈夫、ずっとそう自分に言い聞かせていた。
じいちゃんが私を守っていてくれているから大丈夫。
何度も、何度も。
そうじゃないと、挫けそうだった。
今日は祖父の作ってくれた着物を着てきて正解だ。
「絶対に漸を連れて帰るんだって、ただ夢中で。
でもよかった、これで漸と金沢へ帰れる」
「鹿乃子さん……!」
いきなり、漸に抱き締められた。
毎度のごとく足が宙に浮く。
「ありがとうございます、鹿乃子さん」
「私は、なにも。
それより早く、マンションに帰りましょう?
正直に言うと、まだ足が震えてて」
こんなことを告白するのは恥ずかしいが、そのせいでさっきから歩くのに転けそうで怖いのだ。
「可愛い、鹿乃子さん」
「えっ、あっ、下ろして!」
漸が私をお姫様抱っこする。
そのままタクシーに乗るまで、下ろしてもらえなかった。
なにか食べて帰る気にはなれず、コンビニでお弁当を買って帰る。
お弁当を食べたあと、漸がコーヒーを淹れてくれた。
インスタントコーヒーなのはかまわないが、カップがひとつしかない。
足の間に私を座らせて後ろから抱き締めながら、ときどき私の手からカップを取って漸が飲む。
「もしかして初めから、結婚を断って家を出る気でしたか」
私はお父さんを煽るだけ煽って全く役に立っていない。
最終決断を下したのは、漸だ。
「私は鹿乃子さんを諦めて、相手の方と結婚する気でした」
カップからひとくち飲み、私に戻してくれる。
「脅されたんです、父に。
結婚を承知しないのなら有坂染色を潰してやる、と。
そしてそれができる人なんです、あの人は。
鹿乃子さんに、有坂のご家族にご迷惑をかけたくないので、身を引こうと思いました」
「……そんなの、私が許さない」
振り返り、漸の顔を見上げる。
レンズの向こうからは凪いだ瞳が私を見ていた。
「でもこれは、私の復讐でもあったんです」
「復讐、ですか?」
先に私を出し、漸は中を振り返った。
「ああ、毅。
政治家の孫なのに初代総理大臣も知らないような貴方の妻より、鹿乃子さんが醜いなんてことはありえませんので。
じゃあ」
とん、と軽い音がして襖が閉まる。
「漸……?」
「すみません、可愛い鹿乃子さんをブスだなんて言われて腹が立ち、少々意地悪をしてしまいました」
「少々……?」
なんだろうか?
襖の向こうからは凄まじい咆哮が聞こえてきているけど。
「もうここには用がありません。
さっさと行きましょう」
「……はい」
清々しい顔で笑いながら漸は私を促しているけれど。
……あれ?
もしかして私、今日、いらなかった……?
帰りは誰も見送りにすら出てこなかった。
「タクシーを呼んでもいいんですが、少し歩いたら大通りなのでそこで拾った方が……」
「あー、怖かったー」
「……鹿乃子、さん?」
門を出て、ようやく大きく息を吐き出す。
そんな私をさぞ不思議そうに漸は見た。
「もしかして、緊張していたんですか」
「するに決まっているじゃないですか。
……あ、どっちですか」
漸の手が私の手を取り、歩きはじめる。
「堂々としていらっしゃったので、さすがおじい様の孫だけある、肝が据わっているなと思っていたのですが」
「えー、めちゃくちゃ怖かったですよ?
泣きたくなりましたが泣いたら負けだと思って」
じいちゃんがいるから大丈夫、ずっとそう自分に言い聞かせていた。
じいちゃんが私を守っていてくれているから大丈夫。
何度も、何度も。
そうじゃないと、挫けそうだった。
今日は祖父の作ってくれた着物を着てきて正解だ。
「絶対に漸を連れて帰るんだって、ただ夢中で。
でもよかった、これで漸と金沢へ帰れる」
「鹿乃子さん……!」
いきなり、漸に抱き締められた。
毎度のごとく足が宙に浮く。
「ありがとうございます、鹿乃子さん」
「私は、なにも。
それより早く、マンションに帰りましょう?
正直に言うと、まだ足が震えてて」
こんなことを告白するのは恥ずかしいが、そのせいでさっきから歩くのに転けそうで怖いのだ。
「可愛い、鹿乃子さん」
「えっ、あっ、下ろして!」
漸が私をお姫様抱っこする。
そのままタクシーに乗るまで、下ろしてもらえなかった。
なにか食べて帰る気にはなれず、コンビニでお弁当を買って帰る。
お弁当を食べたあと、漸がコーヒーを淹れてくれた。
インスタントコーヒーなのはかまわないが、カップがひとつしかない。
足の間に私を座らせて後ろから抱き締めながら、ときどき私の手からカップを取って漸が飲む。
「もしかして初めから、結婚を断って家を出る気でしたか」
私はお父さんを煽るだけ煽って全く役に立っていない。
最終決断を下したのは、漸だ。
「私は鹿乃子さんを諦めて、相手の方と結婚する気でした」
カップからひとくち飲み、私に戻してくれる。
「脅されたんです、父に。
結婚を承知しないのなら有坂染色を潰してやる、と。
そしてそれができる人なんです、あの人は。
鹿乃子さんに、有坂のご家族にご迷惑をかけたくないので、身を引こうと思いました」
「……そんなの、私が許さない」
振り返り、漸の顔を見上げる。
レンズの向こうからは凪いだ瞳が私を見ていた。
「でもこれは、私の復讐でもあったんです」
「復讐、ですか?」
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