【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~
第6章 漸は私の男です7
私のせいで金池さんが機嫌を損ね、三橋呉服店と手を切るようなことがあったら……想像するだけで、怖い。
「あら、私と同じ年なのね」
ケラケラと金池さんが笑う。
え、あたまは白いがもっと若いのかと思っていた。
「それならまだまだ、大丈夫だわ。
でも私は栄一郎様ほどの作品が、注目されていないのかが不思議でしょうがないの」
「それは……」
私に聞かれても、困る。
祖父の作品が素晴らしいのは私もわかるが。
「有坂栄一郎氏は作家であることよりも職人であることを選んだからですよ」
宅間さんに指示し、伝票等を作っていた三橋さんが話に加わってくる。
「作家として高い評価を得るよりも、職人として質の高い作品を作りだす方が栄一郎さんの肌にあっていたんです」
「あ……。
そう、ですね」
祖父は自分を、加賀友禅の作家だとはいわない。
自分はあくまでも職人だという。
芸術性など知らん、俺は職人として最高の作品を作りだすだけだ、と。
二ヶ月半ほどの付き合いの中で、三橋さんはすでにそんな祖父のこだわりに気づいていた。
「なので自分の作りだしたものの作品価値に無頓着なんですよ。
もっと自分の作品の価値を考えてください、とは言ったんですが……」
はぁーっ、と三橋さんの口から苦悩の色が濃いため息が落ちていく。
『俺がこれでいいって言ってるんだからこれでいいんだ!
てめぇが口出しするな!』
と、祖父が三橋さんに怒鳴ったのはいつだったか。
あれは、そういうことだったんだ。
「そういう人だからこそこんな素敵な作品が生み出せるんだろうけど、悩ましいわね……」
はぁーっ、と金池さんの口からもため息が落ちていった。
「あの。
祖父に金池様のこと、お伝えしておきます。
きっと、喜んでくれると思うので」
消費者の声が届くことはほとんどない。
知れば祖父のことだ、きっと照れながらも喜んでくれるはず。
それに。
「あと、祖父はけっこう、おだてられると弱いので、それとなくお願いしたら金池様の着物も作ってくれるかもしれません」
「ほんとに!?」
希望を込めためで見つめられ、もし祖父がその気にならなかったらどうしようと不安になってくる。
「その、……かもしれない、ってだけで」
「それでもいいわ!
ああ、これで楽しみができたわ」
金池さんは上機嫌になっているが、確約はできないんだけど大丈夫なんだろうか……。
「大丈夫ですよ、鹿乃子さん。
おじい様はきっと作ってくださいます。
それは私が、保証します」
器用に三橋さんが、ぱちんと片目をつぶってみせる。
その自信って、どこから出てくるの?
「今日は鹿乃子さんにお会いできて本当によかったわ。
栄一郎様によろしくお伝えください」
「私も金池様にお会いできてよかったです。
祖父にもしっかり、伝えておきます」
三時間ほどの滞在で、このあとは用事があるからと金池さんは帰っていった。
「金池さんって気さくな方ですね」
三橋さんの話から、三橋呉服店のお客は全員、自分は特権階級だと笠に着た嫌な人間ばかりなのだろうと思っていた。
でもそれは、私の偏見だったらしい。
「金池様は数少ない、いい方ですよ。
だからこそ、鹿乃子さんに会わせたかったんです」
金池さんを見送り、中へ戻っていく三橋さんのあとを着いていく。
「もしかして私がいるから、金池さんを呼びましたか?」
「それは内緒です」
ふふっ、と小さく笑い、唇へ人差し指を当てる。
いたずらっ子のようなその顔は、なんだか可愛かった。
「片付けと事務作業が終わったら、鹿乃子さんを実家へ連れていきます。
少し、待っていてくれますか」
実家、と出た途端に、それまで楽しそうだった三橋さんの顔から一気に表情が消える。
「はい」
嫌、なんだろうな、実家。
さらに私を親に会わせるのは。
関わるのは必要最低限、それすらしなくていいならさせたくないと、前に三橋さんは言っていた。
三橋さんのご両親ってどんな人なんだろう。
「あら、私と同じ年なのね」
ケラケラと金池さんが笑う。
え、あたまは白いがもっと若いのかと思っていた。
「それならまだまだ、大丈夫だわ。
でも私は栄一郎様ほどの作品が、注目されていないのかが不思議でしょうがないの」
「それは……」
私に聞かれても、困る。
祖父の作品が素晴らしいのは私もわかるが。
「有坂栄一郎氏は作家であることよりも職人であることを選んだからですよ」
宅間さんに指示し、伝票等を作っていた三橋さんが話に加わってくる。
「作家として高い評価を得るよりも、職人として質の高い作品を作りだす方が栄一郎さんの肌にあっていたんです」
「あ……。
そう、ですね」
祖父は自分を、加賀友禅の作家だとはいわない。
自分はあくまでも職人だという。
芸術性など知らん、俺は職人として最高の作品を作りだすだけだ、と。
二ヶ月半ほどの付き合いの中で、三橋さんはすでにそんな祖父のこだわりに気づいていた。
「なので自分の作りだしたものの作品価値に無頓着なんですよ。
もっと自分の作品の価値を考えてください、とは言ったんですが……」
はぁーっ、と三橋さんの口から苦悩の色が濃いため息が落ちていく。
『俺がこれでいいって言ってるんだからこれでいいんだ!
てめぇが口出しするな!』
と、祖父が三橋さんに怒鳴ったのはいつだったか。
あれは、そういうことだったんだ。
「そういう人だからこそこんな素敵な作品が生み出せるんだろうけど、悩ましいわね……」
はぁーっ、と金池さんの口からもため息が落ちていった。
「あの。
祖父に金池様のこと、お伝えしておきます。
きっと、喜んでくれると思うので」
消費者の声が届くことはほとんどない。
知れば祖父のことだ、きっと照れながらも喜んでくれるはず。
それに。
「あと、祖父はけっこう、おだてられると弱いので、それとなくお願いしたら金池様の着物も作ってくれるかもしれません」
「ほんとに!?」
希望を込めためで見つめられ、もし祖父がその気にならなかったらどうしようと不安になってくる。
「その、……かもしれない、ってだけで」
「それでもいいわ!
ああ、これで楽しみができたわ」
金池さんは上機嫌になっているが、確約はできないんだけど大丈夫なんだろうか……。
「大丈夫ですよ、鹿乃子さん。
おじい様はきっと作ってくださいます。
それは私が、保証します」
器用に三橋さんが、ぱちんと片目をつぶってみせる。
その自信って、どこから出てくるの?
「今日は鹿乃子さんにお会いできて本当によかったわ。
栄一郎様によろしくお伝えください」
「私も金池様にお会いできてよかったです。
祖父にもしっかり、伝えておきます」
三時間ほどの滞在で、このあとは用事があるからと金池さんは帰っていった。
「金池さんって気さくな方ですね」
三橋さんの話から、三橋呉服店のお客は全員、自分は特権階級だと笠に着た嫌な人間ばかりなのだろうと思っていた。
でもそれは、私の偏見だったらしい。
「金池様は数少ない、いい方ですよ。
だからこそ、鹿乃子さんに会わせたかったんです」
金池さんを見送り、中へ戻っていく三橋さんのあとを着いていく。
「もしかして私がいるから、金池さんを呼びましたか?」
「それは内緒です」
ふふっ、と小さく笑い、唇へ人差し指を当てる。
いたずらっ子のようなその顔は、なんだか可愛かった。
「片付けと事務作業が終わったら、鹿乃子さんを実家へ連れていきます。
少し、待っていてくれますか」
実家、と出た途端に、それまで楽しそうだった三橋さんの顔から一気に表情が消える。
「はい」
嫌、なんだろうな、実家。
さらに私を親に会わせるのは。
関わるのは必要最低限、それすらしなくていいならさせたくないと、前に三橋さんは言っていた。
三橋さんのご両親ってどんな人なんだろう。
コメント