【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~
第6章 漸は私の男です5
振り返った三橋さんはさっきまでの空気が嘘のように、にこやかに笑っていた。
「えっと……。
いいん、ですか?」
さっきから、ちょいちょい三橋さんの様子が気にかかる。
あれも、私が知らない彼なんだろうか。
「はい。
金池様には見習いに仕事を見学させていただけないかとお願いします。
あの方はできた方なので、了解していただけるかと」
「……じゃあ、お願いします」
三橋呉服店の接客が、というよりも、三橋さんの接客に興味があった。
先ほどの倉庫で三橋さんが商品を選びはじめる。
「購入目的と、お客様のお好みから商品を選びます。
今回は初釜にお召しになる着物、とのことですのでこのあたりを」
絵羽ものの中から、迷いなく数枚を選びだす。
それくらい彼は、お客様のことを熟知しているのだと感じさせた。
「本当は金池様に有坂染色の着物をお勧めしたかったんですけどね。
きっと、気に入ってくださると思ったので」
話しながらさらに色無地の反物と、それにあわせて長襦袢地も何反か、傍で控えていた、宅間さんの持つ盆にのせる。
「そういえば、どうして家の工房を知ってたんですか」
前にも言ったが、父も祖父も、品評会の類いには滅多に出品しない。
問屋から工房協賛で展示会に参加しないかと誘われたりもするが、それも断っているくらいだ。
だからこそ、経営が苦しいというのもあるけど。
「店のお客様がある日、とても素敵なお召し物でご来店されたんです。
夫の選挙活動で着いていき、そこでたまたま入ったショッピングモールで一目惚れしたのだと言っていました」
今度は、着物にあわせた袋帯を選んでいる。
それも、ほぼ迷いなしに探している感じがした。
「父と弟はそんな店で買った着物、と密かにバカにしていましたね。
でも私は、目を奪われました。
それくらい、魅力的なものだったんです」
袋帯を選んだあとは、小物類を選びはじめた。
見ていてわかる、三橋さんにコーディネートを任せれば、間違いはない。
「落款を見せていただき、有坂染色だと特定しました。
こういう言い方はあまり好きではないですが、ショッピングモールのテナントの店先ごときで売られる作品ではないですよ、おじい様とお父様が作っているのは」
選び終わった品を抱えた宅間さんと共に、表へ行く。
そこで選んできた品を宅間さんへ指示を出し、三橋さんは衣桁へ掛けさせた。
「もっとこれを、正当な価格で売りたいと思いました。
それでいても立ってもいられず、金沢へ」
三橋さんがうちの工房の作品に惚れ込んでくれたのは嬉しい。
が、引っかかることが。
正当な価格、とは?
「あの、三橋さん。
それって父は」
問屋さんに買い叩かれていたんだろうか。
「ああ、違いますよ、鹿乃子さん!
問屋さんは問屋さんなりの価格だと思います。
私がそのお客様から聞いた上代と、有坂染色の帳簿から推測するに、問屋さんも小売店さんも暴利を貪っているわけではありません」
慌てて、三橋さんが否定してくる。
でもやはり、引っかかった。
「お話を聞くに、お父様とおじい様は、自分の作品に対しての評価が低いんですよ……。
あと、長年お世話になっている問屋が苦労しているなら、というのが」
「あー……。
そう、ですね」
それは思い当たる節がありすぎる。
『有坂さん。
うちよりも、もっといい小売店と取り引きのある問屋を紹介します』
『有坂さん。
うちに遠慮することありません。
利益はしっかり取ってください』
問屋のおじさんは毎回のように、父へそう言っている。
でも、父の答えは。
『あんたんとことはもう長い付き合いなんだから、気にするな』
で、全く聞く耳を持たない。
「だから私の手で、売りたかったんですけどね……」
はぁーっ、と三橋さんの口からため息が落ちていく。
父も祖父も三橋さんのことは気に入っているが、三橋呉服店との取り引きはいまだに承知していない。
いや、三橋さんの話を聞いてますます、お断りという空気になっている。
「さて。
これで準備は調いました。
時間もそろそろ、といったところですね」
部屋の中はミニ展示会といった感じになっていた。
「私は、どうすれば……?」
「そうですね、紹介が済んだあとは適当に、座っていてください」
「適当……?」
「えっと……。
いいん、ですか?」
さっきから、ちょいちょい三橋さんの様子が気にかかる。
あれも、私が知らない彼なんだろうか。
「はい。
金池様には見習いに仕事を見学させていただけないかとお願いします。
あの方はできた方なので、了解していただけるかと」
「……じゃあ、お願いします」
三橋呉服店の接客が、というよりも、三橋さんの接客に興味があった。
先ほどの倉庫で三橋さんが商品を選びはじめる。
「購入目的と、お客様のお好みから商品を選びます。
今回は初釜にお召しになる着物、とのことですのでこのあたりを」
絵羽ものの中から、迷いなく数枚を選びだす。
それくらい彼は、お客様のことを熟知しているのだと感じさせた。
「本当は金池様に有坂染色の着物をお勧めしたかったんですけどね。
きっと、気に入ってくださると思ったので」
話しながらさらに色無地の反物と、それにあわせて長襦袢地も何反か、傍で控えていた、宅間さんの持つ盆にのせる。
「そういえば、どうして家の工房を知ってたんですか」
前にも言ったが、父も祖父も、品評会の類いには滅多に出品しない。
問屋から工房協賛で展示会に参加しないかと誘われたりもするが、それも断っているくらいだ。
だからこそ、経営が苦しいというのもあるけど。
「店のお客様がある日、とても素敵なお召し物でご来店されたんです。
夫の選挙活動で着いていき、そこでたまたま入ったショッピングモールで一目惚れしたのだと言っていました」
今度は、着物にあわせた袋帯を選んでいる。
それも、ほぼ迷いなしに探している感じがした。
「父と弟はそんな店で買った着物、と密かにバカにしていましたね。
でも私は、目を奪われました。
それくらい、魅力的なものだったんです」
袋帯を選んだあとは、小物類を選びはじめた。
見ていてわかる、三橋さんにコーディネートを任せれば、間違いはない。
「落款を見せていただき、有坂染色だと特定しました。
こういう言い方はあまり好きではないですが、ショッピングモールのテナントの店先ごときで売られる作品ではないですよ、おじい様とお父様が作っているのは」
選び終わった品を抱えた宅間さんと共に、表へ行く。
そこで選んできた品を宅間さんへ指示を出し、三橋さんは衣桁へ掛けさせた。
「もっとこれを、正当な価格で売りたいと思いました。
それでいても立ってもいられず、金沢へ」
三橋さんがうちの工房の作品に惚れ込んでくれたのは嬉しい。
が、引っかかることが。
正当な価格、とは?
「あの、三橋さん。
それって父は」
問屋さんに買い叩かれていたんだろうか。
「ああ、違いますよ、鹿乃子さん!
問屋さんは問屋さんなりの価格だと思います。
私がそのお客様から聞いた上代と、有坂染色の帳簿から推測するに、問屋さんも小売店さんも暴利を貪っているわけではありません」
慌てて、三橋さんが否定してくる。
でもやはり、引っかかった。
「お話を聞くに、お父様とおじい様は、自分の作品に対しての評価が低いんですよ……。
あと、長年お世話になっている問屋が苦労しているなら、というのが」
「あー……。
そう、ですね」
それは思い当たる節がありすぎる。
『有坂さん。
うちよりも、もっといい小売店と取り引きのある問屋を紹介します』
『有坂さん。
うちに遠慮することありません。
利益はしっかり取ってください』
問屋のおじさんは毎回のように、父へそう言っている。
でも、父の答えは。
『あんたんとことはもう長い付き合いなんだから、気にするな』
で、全く聞く耳を持たない。
「だから私の手で、売りたかったんですけどね……」
はぁーっ、と三橋さんの口からため息が落ちていく。
父も祖父も三橋さんのことは気に入っているが、三橋呉服店との取り引きはいまだに承知していない。
いや、三橋さんの話を聞いてますます、お断りという空気になっている。
「さて。
これで準備は調いました。
時間もそろそろ、といったところですね」
部屋の中はミニ展示会といった感じになっていた。
「私は、どうすれば……?」
「そうですね、紹介が済んだあとは適当に、座っていてください」
「適当……?」
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