【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~

霧内杳

第5章 決戦は月曜日10

「結婚が決まりました」

「……え?」

結婚って、誰と、誰の?

「すみません、昨日は嘘をつきました。
最後に鹿乃子さんと、楽しい一日を過ごしたくて」

「……嘘?」

混乱する私を置いて、彼は淡々と言葉を紡いでいく。

「結納、だったんです。
昨日。
仕事ではなくて」

「……結納?」

でも今日、今後のために、ベッドを買って、カーテンも買って、それで……。

「もうこれで、鹿乃子さんとはさようならです」

「……イヤ。
そんなの、イヤ」

ぶるぶると首を振る。
振り返ってその顔を見たいのに、させないかのように私の手を押さえる三橋さんの手は緩まない。

「金沢のあの家は、好きにしてください。
購入で支払いをしておきます」

「三橋さんのいない、あんな家、いらない!」

「鹿乃子さん!」

無理矢理、身体を捻ったら、三橋さんが手を離した。
後ろを向き、羽織の衿を掴んで彼の顔を引き寄せる。

「三橋さんは私を、妻にするんじゃなかったんですか!?」

「……」

私から視線を逸らし、なにも言わない彼に感情はヒートアップしていく。

「貴方の辞書に、諦めるなんて言葉はないと思っていました!」

「……諦めたく、ない」

覆い被さるように、彼は私を抱き締めた。

「私は鹿乃子さんを、鹿乃子さんだけを妻にしたい」

「なら、諦めないでください」

その大きな背中へ腕を回し、ぎゅっと抱き締め返す。

「明日、ご両親に会わせてください。
言ったでしょう?
三橋さんは私が守ってあげます、って」

「……そう、でしたね」

「はい。
だから私が、婚約者から三橋さんを奪還します。
三橋さんは私のものです。
誰にも、奪わせたりしない」

うん。
三橋さんは私のものだ。
きっと強いこの人が、私の前でだけ弱い顔を見せてくれる。
私に甘い癖に、ダメなところはちゃんとダメだと言ってくれた。
私に嫌われるのが怖いと言いながら、すべてを晒す決心までしてくれた。
こんなに私と真剣に向き合ってくれる人を、好きにならない方がおかしい。

「……私は鹿乃子さんのものですか」

「はい、三橋さんは私のものです」

ようやく顔を上げた彼の目尻には、涙が光っている。

「明日、両親に会わせます。
でも、無理はしないでくださいね」

「いま無理をしないでいつ、無理をするんですか?
……ほら、今日はもう帰りましょう。
明日に備えて英気を養わねば」

「そうですね」

軽く彼の手を引っ張り、歩きだす。
決戦は――月曜日。

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