【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~

霧内杳

第3章 祖父VS三橋さん5

三橋さんが選んだのはSUVタイプだった。
なんかちょっと、意外。
彼のイメージからだと高級セダン、って感じだ。

「いいんじゃないですか」

別に彼がどんな車を選ぼうと私には問題ない。
だって、私が運転するわけじゃないのだから。

「それともこっち、ですかねー」

お店の中をくるくる見て回る彼について歩く。
すっごい、嬉しそう。
車、好きなのかな。

「うん、じゃあ決めました!」

最初の車を試乗させてもらい、それが決定打になったようだ。
もともとその気だったのか、今回も必要な書類を三橋さんはあらかた準備してきていた。

「鹿乃子さんも使っていいですからね」

「……ん?」

私はなにか、大きな思い違いをしていないだろうか。

「これから私を迎えに来るときは、この車を使ってください」

「……ん?」

この車が納車されるのは今日決めてきたあの家で。
そしてたぶん、私はあの家に住むんだろう。
と、いうことはあそこから駅まで彼をお迎えに行くのは……この車になるのか?

「えっ、あっ、無理!
無理です!
こんなに大きな車、私は運転できません!」

父のステーションワゴンですら私の手には余るのだ。
長さはあれと同じくらい、幅はさらに大きな車を運転できるはずがない。

「なら、可愛い鹿乃子さんの車も買いましょう!」

「へ?」

想定外の答えが返ってきて、変な声が漏れる。

「ここは大きな車しかありませんからね。
小型車の取り扱いがあるのは……」

三橋さんの口から出たのは国産メーカーではなく、なんとしてでも私に外車を買いたいらしい。

「あの。
車とか高価なプレゼント、いただくわけにはいきませんので!」

「なんでですか?」

さも不思議そうにパチパチと、眼鏡の下で何度か三橋さんが瞬きをする。

「家からご実家の工房へ通う、足が必要になりますよね?」

「うっ」

それは確かにそうですが!
あそこからは実家最寄りバス停への直通バスはない。

「それに妻の生活に必要なものを買うのに、なにか問題でも?」

「うっ」

正論すぎて言葉もない。
しかしながら。

「……私はまだ、妻ではないので」

精一杯、嫌みを言って反撃する。

「すぐにそうなりますから、間違いはありません」

けれど三橋さんには効かないらしく、涼しい顔で返された。

車がいる必要性は理解した。
がしかし、外車、しかも新車をおいそれと買ってもらうわけにはいかない。

「中古の、国産軽自動車でかまいませんので……」

それでもまだ、畏れ多い。
けれどそれならいざとなれば、出してもらったお金を貯蓄で返せないこともないから気が楽だ。

「百歩譲って国産車はいいですが、軽自動車でしかも中古なんでダメです。
もし、事故にでも遭ったとき、心配ですから」

「えっと……」

軽自動車と中古も譲ってくれないかな?
なんて思ったけれど、どうも無理そうだ。
仕方なく、郊外にある大手ディーラーへと車を向ける。

「これとか、いかがですか」

「え、えーっと……」

勧めてくれるのがコンパクトカーなのは非常に助かるが、……やはり価格が。
さりげなく見た支払いモデルは月々一万以下でこれなら、とは思ったものの、ボーナス払いでガン!とくるのを確認して胃が痛くなった。
個人事業主の私に、ボーナスなど存在しない。

「遠慮しているのですか」

「……はい」

するに決まっている。
しない方がおかしい。

「やはり鹿乃子さんは可愛いですね!」

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