狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海

本物の夫婦として⑥

 そんな日々を経て現在。
 以前よりも家事にも協力的になって、完璧なスパダリぶりを発揮してくれている尊のサポートのお陰で、とても幸せで充実したマタニティライフを満喫させてもらっている。

 櫂に除籍を言い渡されたあの日。極道の世界か引退した尊はどうしているかというと。

 T&Kシステムズの経営者として以前よりも一層精力的に仕事を熟している。

 といっても、定時である十八時きっかりにオフィスを出て帰宅するのは十九時。それからは疲れた顔も見せず家事を熟してくれている。

 けれど少し困ったこともあった。

 それは近頃やたらと身重の美桜のことを気遣う余り、以前にも増して神経質になってしまっているということだ。

 昼間の妊婦健康診断では、担当医である年配の女性医師から、安定期に突入したことから、夫婦生活を再開してもいいというお許しが出され、そのことを尊に話しているところであるのだが……。

「美桜、本当に大丈夫なのか?」

 話した途端に、尊は難色を示し始めた。

 身重の身体のことを気遣ってくれるのは有難いことだが、妊娠して以来ご無沙汰だったし、尊とのこういう時間も大事にしたいと思っている美桜にとって、渋る尊のことをどうやってその気にさせようかとあれこれ策を講じて臨んでいるのだ。

 これしきのことで諦めるわけにはいかない。

「はい。担当医の先生も、あんまり過激なことをしない限りは大丈夫だって言ってましたよ」
「なんだ、その、『あんまり過激なことをしない限りは』っていうのは。具体的にどんなことだ?」

「どんなことって……言われても。あっ、これ見ればわかるんじゃないですか? 今日、買ってきたんです。ひよこっこクラブ」
「どれどれ……。へぇ、スローセックスでお腹の赤ちゃんにも、お母さんにも負担なく、夫婦の絆を深めるために。で、避妊はした方がいいんだなぁ。ふんふん。で、乳首への強い刺激は、子宮の収縮をーー」

「あっ、あの、尊さん。別に音読しなくてもいいですからッ!」
「そんなに真っ赤になって、なにを照れてるんだ? 美桜は」

 ーーもう、わかってるクセに。意地悪なんだから。そういうところも好きだけど。

「こーら、そんなに怒ると胎教にも悪いし。可愛い顔が台無しだぞ。美桜」
「……あっ、……ふぅ……んっ」

 夜も更け、寝室のベッドに隣り合って寄り添いあい、わいわい言い合っているうちに、尊のことをなんとかその気にさせることに成功した美桜は、尊との甘やかなキスへと身を投じた。

 尊との甘やかなキスに酔い痴れていた美桜が完全に蕩けきった頃には、身につけていたパジャマは取り払われていた。

 妊娠しお腹が膨らんできたこともあり、自分からその気にさせたクセに、今さらながらにそのことが気になってくる。

 美桜はそうっと羽毛布団を引き寄せ身体を覆い隠す。

 実は、購入したひよこっこクラブの新米ママのお悩み相談室というコーナーで、妊娠・出産をきっかけに、夫が妻のことを女性ではなく、母親としてしか見られなくなったことで、セックスレスになってしまった。という記事を目にしてしまったからだ。

 体型のことを気にしていたはずが、素早く衣服を脱ぎ捨てた、匂い立つような圧倒的な色香を纏う尊の鍛えられた芸術品のような裸体と、描かれた刺青に魅入られていた。

 だがそれだけではない。

 妊娠前、尊に幾度となく翻弄された、甘やかで濃厚なひとときを思い出し、胸を高鳴らせ、火照った身体が甘く疼くという、はしたない反応を示している。

 そのことを尊に悟られまいとしたところで、結局は尊のペースに乗せられて、なにもかもを晒してしまうこととなるのだけれど。



「それにしても心外だな。俺の愛情を舐めんなよ。美桜の見かけがどんなに変わろうが、俺の気持ちは変わらない。一生愛し抜いてやるから安心しろ」

 少し拗ねた表情の尊に頬を両手で捉えられ、言い聞かすように優しい台詞が降らされた。

 返答の代わりに、素直に頷いてみせた美桜の胸はあたたかなもので満たされていく。

 そんな美桜の元に、尊から独占欲剥き出しの狂気めいた台詞が降らされたことで、美桜の身も心も歓喜に打ち震える。

「その代わり、浮気なんかしてみろ。地獄の底まで追いかけてやるからな」
「はい」

 嬉しさを通り越して夢心地の美桜は、なんの躊躇もなく即答していた。

 尊は素直な美桜のことを満足そうに見遣ると。

「なら、遠慮は無用だな。俺がどんなに美桜のことを愛しているかを今からたっぷりと教えてやる。いいな?」

 これまで幾度となく耳にしてきた尊の傲慢ともとれる愛の言葉に、美桜が素直にコクンと顎を引いたことにより、甘い甘い夢のようなひとときが幕を開けた。

 それはこれまでのものとは違い、身重の美桜の身体を労るような、とても優しくて焦れったくももどかしいものだった。


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