狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海

ヤクザと激甘新婚生活!?⑧


 それからは、尊からの宣言通り、美桜のすべてがどれほど極上であるかを言動で示され、言葉で言い尽くせないほど甘やかで刺激的かつ濃厚なめくるめく初夜を過ごすこととなった。

 意識が途切れる間際、愛おしげに美桜の名前を呼ぶ尊の甘い声音と、それに劣らないくらい甘やかな優しいキスの雨が絶えず降り注いでいたことだけは鮮明に覚えている。


***


 情事の後。心身ともにようやく落ち着きを取り戻した尊は、無垢な子供のように愛らしい美桜の寝顔に魅入っていた。

 ついさっきまで情事に耽っていたせいで、美桜の頬も身体もほんのりと薄桃色に染まっている。

 その柔肌に吸い寄せられるようにして手を差しのべ、頬にそうっと触れてみる。

 餅肌という言葉通り、白くて瑞々しい肌理細かな肌はもっちりとしている。それでいてサラサラとしていて、肌触りも絶品だ。

 互いの肌が触れあうだけで、しっとりと吸いついてくる。あまりにも心地がいいせいで、触れていくうちいつも夢中になってしまう。

 一度触れたら最後、もう引き戻せなくなっていた。

 ーーただ、助け出してやりたい。

 そう思っていただけのはずだった。

 それなのに……。昔の記憶など曖昧なくせに、向こうから懐に飛び込んでこようとは、なにもかも予想外だった。とはいえ、こんな事態になろうとはーー。

 美桜と再会してからのこの一月のことを振り返っているうち、いつしか昔の懐かしい光景が蘇ってくる。

 美桜と初めて逢ったのは、尊が高校に上がったばかりの春のことだ。

 その頃、自分の子供のように可愛がってくれていた父の後妻である継母・絹代きぬよに連れられ、清風の当時の家元である弦一郎の元によく趣いていた。

 絹代が華道をたしなんでいたのもあるが、弦一郎と遠い親戚筋に当たるせいだ。

 その席で、弦一郎から孫娘だと言って紹介されたのが当時まだ六歳の美桜だった。

 だがそれは建前で、行く行くは互いの家を盛り立てるための、政略結婚の相手として引き合わされたのだ。

 正直、『十も離れたこんなガキと』そう思っていたのだが、美桜にえらく懐かれてしまい、ひとりっ子だった尊は、いつしか可愛い妹のように思い始めていた。

 周囲の大人は、そんなことなど見越していたのだろう。弦一郎や絹代の思惑通り、美桜と関わっていくうち、美桜のおかれた立場や背景が浮き彫りになってくると、尊は美桜のことが気にかかるようになっていった。

 あくまでも、異性としてではなく、妹を心配する兄のような気持ちだ。

 そう、そのつもりだった。昔も今も。

 それが蓋を開けてみれば、天澤家から救い出すために企てた、形ばかりの政略結婚の予定のはずが……。

 いくら身体の相性がよすぎるからって、無意識に煽られたからって、いくら『近い将来、ひとりで生きていくためにも、私を必要としてくれる家族が欲しいんです。母がそうだったように』自分との子供をもうけたい。そう懇願されたからって。

 理性も我も見失い、美桜が処女だというのも忘れ、散々貪り尽くした挙げ句、抱き潰してしまうとは。

 オマケにいくら望まれたこととはいえ、何度中出ししたかもまったく記憶にない。

 この一月で美桜の生理の周期もおおよそ掴んではいて、危険日でないであろうことに気づいてはいたのだが。だからって。

 ーーどうしてこうなった?

 この世界に入ると決めたとき、天涯孤独を貫くと固く誓ったはずなのに。それを自ら破る日がくるとは……。

 ーーとうとう俺も焼きがまわったのか。

 尊は長い長い溜息を垂れ流し頭を抱え項垂れた。

 だがこうもしていられない。こうなったからには、美桜への気持ちを認めて、腹を括るしかない。

 気持ちを立て直すためにも、寝入っている美桜を起こさないように細心の注意を払いベッドから抜け出した尊はバスルームへと向かった。

 頭を冷やすため、冷たいシャワーを浴びながら、美桜の継母である薫への制裁について思考を巡らせる。

 ほどなくしてシャワーを終え美桜の元に戻った尊は、いつものように小柄な美桜の身体をすっぽりと包み込み瞼を閉ざす。

 己の命よりも大事な存在ができてしまったことに、一抹の不安と恐怖を覚えないと言えば嘘になる。だがそんなものより幸福感の方が勝っている。

 微睡みのような幸福感のなかで、尊はあることを心に決め眠りについた。

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