狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海

鳥籠から出るために⑮*

 その刹那、美桜の手に、尊の体温と一緒に鼓動の音が微かに伝わってくる。

 とてもあたたかで心地が良くて、なにより安心できる。たちまち美桜の胸はあたたかなもので満たされていく。

 触れた途端、美桜の言葉が信じられないといった顔で凝視していた尊の身体が微かにピクッと反応を示した。

 けれどもそれもほんの数秒のことだ。

 すぐに我に返った様子の尊の重低音が響き渡った。

「綺麗なんて、そんな悠長なこと言ってられるのも今のうちだぞ。こんなにも俺を煽ったんだ、その責任はとってもらう。たっぷりとな」

 濡羽色の髪と同じ色の瞳に怪しい光を宿し、意味深な言葉を放った尊は、美桜の両脚を押し開き容赦ない愛撫を再開させる。

 一体何を煽ったのかと疑問を抱くも、問い返すような暇など与えて貰えなかった。

 それからは、もう、なにがなにやらわからなくなっていて、容赦のない尊により散々翻弄されてしまうこととなったのだった。

 どれほどの時間が経っただろうか。全身をじんわりとあたたかなもので包み込まれるような感覚がする。

 立て続けに達した身体からはぐったりと力が抜け、やがていいようのない気怠さに見舞われる。

 全身がとてもふわふわとしている。たゆたう波間や雲の上にでも浮かんでいるようで、なんとも心地がいい。

 達した余韻のせいか、微弱な電流でも流されているようだ。

 美桜は、初めて味わう恍惚に酔いしれ、そっと瞼を閉ざす。乱れる呼吸もそのままに、ぐったりと脱力した身体を横たえることしかできないでいた。
 
 不意にベッドがたわむ気配がして、思わず手を差しのべる。

 何かに触れた瞬間、尊の素っ気ない声が聞こえてくる。

「心配するな。ひとりにはしない。シャワーを浴びてくるだけだ」

 その声に、ゆっくりと目を開けてみると、尊の切れ長の双眸が美桜のことを見下ろしていた。

 そこで、美桜の頭の中に、不可解ない点がいくつか浮上する。

 初体験の際にあるはずの痛みが全くなかったこと。

 尊の舌や指では散々攻め立てられたが、それ以外ーー尊自身を受け入れた覚えがなかったこと。

 それらを踏まえて、美桜の知識が正しければ、まだ処女のままだということになる。

 ーーやっぱり、オコチャマな私ではその気になれなかった……ということなのかな。

 もしもそうなら、尊に申し訳ない。


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