ロリータ・コンプレックス

下之森茂

(16/17) それは不意におとずれる。

今日も無事に1日が終わった。
コータは食器を洗い、洗濯物をたたむ。


家事に不慣ふなれで手際てぎわの悪さを見るに見かねて、
風呂上がりのリナがアレコレ指示したが、
結局コータの隣で鼻歌はなうた混じりに手伝った。


家事が一段落したコータは
カラスの行水ぎょうすい同然に風呂に入り、部屋に戻ると
商店街から来ていた仕事のメールを片付ける。


商店街に送った七夕の企画は、
前年の企画に加えてスタンプカード風にした。


店舗ごとに台紙を用意し、期間中の
来店頻度ひんどを伸ばす目的に特化させた。


地方の小さな商店街だからこそ
コータでも対応できる規模の内容で、
商店街の若手チームから一応の評価を得た。


台紙のスタンプを貯めたお客さんに、
前年に大量発注を掛けた在庫の商店街タオル、
天女の羽衣を配るという魂胆こんたんこうそうした。


この企画を提出前に、
リナにも太鼓判をもらった。


しかし商店街側の嬉しい反応よりも
やりなれない家事に疲れが残り、
ときおり学習机に突伏つっぷして
仕事への集中力がまるでなかった。


――これで一人暮らしなんてできるんだろうか。


いつもの不安が押し寄せてくる。
不安を払拭するために仕事をしているのだと、
自分に言い聞かせてコータは手を動かす。


メールを返信し終えると、
新たにメールが来た。


知らない相手だったが、
メールの件名ですぐに相手が分かった。


「ひッ…。」


矢那津やなつからのメールに、
声にならない声が出た。


そんな時に扉がノックされ、
コータは肩を驚かせた。


「はッい?」


「入っていい?」


普段はそんなことをたずねずに、
自分の部屋のように入ってくる
相手の言葉にさらに驚いた。


「どうぞ。」


「まだ仕事中?」リナが顔をのぞかせた。


「と…。これで終わりますよ。」


「ずっと座ってると、『また』になるよ。」


「なんでそれを…。」


コータはになった経験がある。


それを知っているのは医者と両親…。
個人情報の漏洩ろうえい元はすぐにわかった。


家族間のコータの秘密はやはりつつ抜けだった。

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