ロリータ・コンプレックス

下之森茂

(13/17) 叩かれる引きこもり。

「あのおばさんと知り合い?」


矢那津やなつさんね。
 中学と高校で同級生だったひと。」


「初恋のひと?」


「違っ…そういうのじゃないけど。」


「けど?」


説明できずにくちごもる。
コータのこうした反応はリナもよく見ている。


けれども、普段のそれとは反応がことなり、
顔は血の気を失い、余計に青白くしている。


「痛っ!」


沈黙が続くと、また肩をリナに叩かれた。


「お腹空いたから、早く帰ろ。」


「…はい。」


「コータはなんで
 わたしのことキライにならないの?
 怒ったりしないの?」


「嫌って欲しいんですか?」


「だって、イソーローじゃん、わたし…。」


複雑な事情を抱えているリナが、
コータ相手に初めて胸の内を明かした。


コータの両親とリナは、はたから見ても
上手くやっているように思う。


リナは猫をかぶるのが上手いし、
両親も引きこもりの息子以上に溺愛している。


虫崎と斑咲むらさき、ただの名字の違いが、
彼女を不安にさせるのかもしれないとも思った。


けれども成人してなお実家住まいのコータは
家主やぬしでもないので、リナにくち出しできる
立場にはない。


「リナさんはちゃんと、家族ですよ。
 出ていくなら僕のほうです。」


「そんなのしたら、わたし、
 コータを毎日パンチしに行くから。」


「いまでも毎日してますよね。」


「へへっ。べしべしっ。」


いつもより優しいパンチが
コータの肩をでた。

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