ロリータ・コンプレックス

下之森茂

(12/17) コータの弱点。

「痛っ!」リナに指をまれた。


「なにすんの! 変態! ケーサツ呼ぼっか?」


怒っている彼女にコータは首を振る。


「あの…大きな声、出さないでください。」


「だってあいつが悪いんじゃん!
 コータのことムシだとか
 ユーカイ犯って言ったし。」


「知り合いだから。冗談じょうだんです。」


「あのおばさん、店員なのに、
 なんなのあのアレ!」


バカにされ、怒りが収まらない様子のリナに、
コータはなんだか冷静になって、
いつもの口調でゆっくり話した。


「客だからって店員さんに対して、
 えらそうに振る舞えるわけじゃないです。」


「だってあっちがバカにしてきたじゃん!」


「僕はバカにされてません。
 リナさんはバカにされたら、
 同じように振る舞うんですか?」


「コー…おじさんのせいで、わたしが
 変な目で見られるのがイヤなの!」


リナはそれらしい言い訳を並べて、
そっぽを向いた。


リナの言う通り、コータは自分の姿を見て、
もう少し身なりを整えようと思った。


「ムシくん。」


「あっ。はい…。」


「これ、おつり、とレシート。」


「あ…、すみません。」


矢那津やなつから離れるために、
釣り銭を受け取らずに
さっさと帰ろうとしたのだが、
意図いととは逆に引き止められてしまった。


親戚しんせき?」


「…め、めいです。兄さんの。」


「そう、お兄さんの娘さんだったんだ。」


「なに、おばさん。パパの知り合い?」


「ううん…。
 おばさんって呼ぶのやめてもらえる?」


「おばさん、いくつ?」


「…にじゅぅ…5歳。」


「今年で28ですよね…。同い年なのに、
 なんでサバ読んだんですか。」


「アラサーおばさんじゃん。」


「リナさん。やめてあげてください。」


矢那津やなつ見栄みえを張った自分をじて顔をおおった。


「だってそうじゃん。」


「リナさんだって、いつまでも
 子供扱いされたらイヤですよね。」


「うん…。そうだけど…。」


コータ自身、いつまでも実家暮らしというだけで
揶揄やゆされたり、発言をさまたげられた経験がある。


リナは自分に対しそんなことを言わなかったので、
矢那津やなつ揶揄やゆした態度を責めた。


「すみません。お仕事の邪魔じゃまをしてしまい。」


「ううん。大丈夫。
 ムシくんまた来る?」


「え…?」できれば来たくはないのが顔にでる。


「じゃさ、連絡先教えて。」矢那津やなつは押しが強い。


「はい…。」


コータは異性いせいの押しにめっぽう弱い。
ウォーターサーバの訪問販売が女性だったので、
勝手に契約をしてしまった失敗もある。


コータはこんなときのために、
財布にしのばせた名刺めいしを取り出して
おどおどと渡した。


「コータ! はやく帰ろ。」


「じゃあ袋詰め手伝ってください。」


「にぇー。」


苦々にがにがしい顔を見せたリナだが、
コータの袋詰めの手際の悪さを
見るに見かねて手伝ってくれた。


「仲良しなのね。」


そう言うと矢那津やなつは明るい笑顔を向けて
仕事に戻った。


彼女のせいで緊張きんちょうしっぱなしだったコータは、
店を出るころにはひどく疲れてしまった。

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