ロリータ・コンプレックス

下之森茂

(8/17) 夜中の侵略者。


――リナがなにかを言っている。


リナの気配を感じたが、夜中ということもあり、
コータは無視して動画をながめていた。


「痛っ!」やはり肩を叩かれた。


「ねえ! 無視しないで!」


横を向くと、そこには半泣きのリナがいた。


「ごめんなさい。なんですか?」


ゴキブリが出ても騒がないリナが、
大きな抱きまくらを抱えてやってきた。


「なんで無視したの?」


「えっと…。勉強してて…。」


動画は英語の教材で、
ヒアリングに集中しながら
タブレットに筆記を行っていた。


無線イヤホンを取って、
コータは素直にあやまった。


「英語? しゃべってみて。」


「喋れませんよ。」


「じゃあなにしてたの? えっちなこと?」


「ちがっ、違います。」


リナは時折ときおり変な話を振る。
生理や陰毛の話や、以前のコンドームなど…。
コータを困らせる話題ばかりだった。


そんな時、コータは困って沈黙ちんもくすると
リナは肩を叩いてあきらめてくれる。


こんな夜中にやってきたのだから、
今日はそうではないらしい。


「じゃあなんか喋って。」


リナはベッドで横になって、
無茶振むちゃぶりをする。


コータとしては姪を相手に、
話をすることは一切ない。


両親相手でも仕事と家のこと以外で、
会話をすることもなかった。


とはいえ、無視した自分も悪いので、
声をひそめて話をした。


「えっ…と、英語の勉強は、
 観光地のお店のメニュー作りで。
 英語にするだけだと伝わらないから、
 料理の説明文を加えるようにしてるんです。」


「お仕事の話ぃ?」


「なんで?」コータは困惑した。


「もーいいよ。続けて。」


少し笑いながらリナは目を閉じて、
うんうんとうなずく。


コータはタブレットに目を落として、
仕方なしに仕事の話を繰り返した。


いまやってる仕事の内容や、
悩んでいることを口にしてみると、
情報が整理できて、またメモを取る。


気づけばリナはそのままベッドの上で寝てしまい、
引きこもり唯一ゆいいつの居場所を失ったコータは
リビングのソファで一夜を明かした。

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