ロリータ・コンプレックス

下之森茂

(7/17) 姪からのダメだし。

リナの母親はリナを残し、男と共に蒸発じょうはつした。


コータはそんな事情を探りはせず、
それとなく察している。
当然、干渉かんしょうすることではないことも。


親権についてトラブルは発生していないし、
転校手続きもコータの母親が手早く済ませていた。
手際のよさはさすが2児の母だった。


そんなわけで、
一切を預かり知らぬコータ自身は
リナに対してなにかしてやれることもなく、
引きこもりを継続けいぞくしている。


七夕たなばたなんて子供だましじゃん。」


短冊に願いごとを書いて飾る。
小学6年生にもなると、
そんなことが児戯じぎにも思えるものか。


コータは過去の自分に照らし合わせたが、
遠い記憶はひどく曖昧あいまいだった。


それに男女の逢瀬おうせのために
親に捨てられたリナからすれば、
七夕などは不快感が勝るのかもしれない。


「商店街っていつもグランマと通ってるけどさぁ。
 笹飾ったからってひと増えるわけないじゃん。」


リナは祖父母のことをグランパ・グランマと呼ぶ。


リナの至極しごく真っ当な意見に、
コータは自然とうなずいた。


「どこでもやってるイベントなんて
 有名な観光地じゃないんだし、
 もっと地元のお客さんのこと、
 考えないとダメじゃんさ?」


リナの言葉にコータは目を皿にして驚き、
自分の考えを改めた。


「あ、ありがとう。」


「おじさんのカレーくっさいマクラ洗って!」


お礼の返事に、今日もまくらを投げつけられた。

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