ロリータ・コンプレックス

下之森茂

(4/17) 働く引きこもり。

「父さん、組合長の話は、やっぱり無理です。」


「ん、そうか。今度の旅行んとき説得しとく。」


「よろしくお願いします。」


「ねぇ、なんの話?」


食事中に、仕事の話をするべきではなかった。
興味きょうみぶかげにリナが質問する。


我が家の和食ばかりの食事にきたのか、
リナのはしの進みは遅い。


料亭りょうていで働いていた母の作る
さわらの照り焼きは今日も美味しく、
コータはリナの質問など無視して食事に集中した。


「あぁ、コータが商店街の
 ホームページ作ってんだよ。」


「ウェブサイト…。」


「そんなことやってるの?」


リナがまたにらんでくる。


コータは引きこもり歴12年のベテランである。


伊達だて酔狂すいきょうで引きこもってはいない。
一応、年齢相応のかせぎもあるにはある。


「ECってやつはやっぱ無理なのか。」


「いーしー?」


「通販サイト? の略だよな。」


正しくは電子商取引イーコマースの略だが、
コータは否定せずに首肯しゅこうした。


「そのいーしーってなにがムリなの?」


「後でメールします。」


コータは説明する気がないので、
父に向かってそれだけ伝えた。


「いま! 教えて!」


「コータ。」父はリナに甘い。


母も黙ってあごをしゃくり説明をうなが四面楚歌しめんそか


「こ、個人で責任を負うにも、
 やっぱり、限界があるんですよ。
 お客さんの個人情報とか。セキュリティとか。
 お金のやり取りですから…。」


「まあそうだよな。
 そんなら企業のサービス使ったほうが
 よっぽど安全だわな。」


コータのとなりで、話を聞いてなお
つまらなそうにしているリナが
机の下で足をってきた。


――昔はあんなに可愛らしかったのに。

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