青も虹も黒

先導ヒデ

陸上について思うこと (9/73)

 憂鬱な気持ちで帰る。
 先程の監督が3人に話している姿が脳裏に残っている。異変が起きたのは夏休み明け頃からだ。その頃から前澤と岸とアツシ3人が部活を休んだり、ポイント練習をやらないということが始まった。うちの陸上部は厳しいはけではなくどちらかといえば緩い雰囲気で個人でしっかりやるという形だ。
 進学校なのだから勉強も部活も自分の事は自分で管理しろという学校のメッセージがある。そのため私服での登校も認められている。陸上部もそういう形で行っている。練習を休むとみんな色々と言っていたが、それでも基本的に部活をサボろうが自己責任という形だった。
 しかし、秋の新人戦が終わったあたりからだろうか、監督と主将の佐々木と長距離ブロック長の鈴木と各ブロック長達で3人について話し始めた。
 自分は長距離ブロック長の鈴木とは同じクラスで、いつも佐藤と他の友達2人合わせて5人でお昼を食べている。その時に3人の話題になり、自分も意見を求められた。
 自分は「うーん、難しい。」ということを言った。
 つまり、どっちにもつかず中立の立場をとった。
 3人については部内の流れでは多数が否定的だということは知っている。鈴木と佐藤もどちらかというとそっち側だ。
 多くの人間が堅い人間なわけではないが、そういう部員も否定的になるほどまでには3人の態度は目につくことは確かだ。
 しかし、練習態度が悪く、部活の雰囲気を悪くするというのであれば、自分達が我慢をすればいいのだ。
 陸上は個人競技だ。自分でやればいい。サッカーのような団体競技とは違う。自分がどんなにやってもやる気のない人を変えることはできない。それに気づいた「中二の冬」は地獄だった。
 自分で練習はする。それでも、練習のやる気のない人のところで相手にやられる。その中でもなんとかやろうとしたソウジはすごいと思った。
 陸上を始めてこんないいものかと思った。
 他の人はあまり関係ない。自分がやればいい。
 練習をサボっているくらいでやる気が削がれる自分たちが悪いのではないのか、彼らをやる気にさせることのできない自分たちの能力不足ではないのかと思ってしまう自分がいる。
 こんなことは言えない。いや、本当に部活のことを思うのならこれらを言うべきだ。              
 だが、自分は姑息な半端人間である。争いから逃げている。自分のことしか考えていない。自分が傷つかないことしか考えられない。
 でも、本当に、争いをしたくない。楽しく陸上をやればいいじゃないか。陸上をやっているときくらいは人間のゴタゴタを考えたくない。その労力が無駄であると感じてしまう。
 前澤と岸とアツシも、3人なりに楽しくやればいいと思う。自分たちも気にせず、自分たちでしっかり練習をやればいい。
 本気でやりたい人は本気でやる。楽しくやりたい人は楽しくやる。うちは公立高校でスポーツ推薦はない。別にお金をもらって陸上をやっているのでない。
 それに、どんなに厳しくやったって、どんなにタイムを上げても、無駄に終わる。
 陸上を極めた先には地獄が待っている。

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