馬小屋暮らしのご令嬢嬢は案外領主に向いている?
6-18 エピローグ 星の後押し
『アナスタシア、アナスタシア。戻って来るの、遅かった。寂しかった』
騒動がひと段落した後。
後処理をローランド達に任せ、アナスタシアとシズ、それからイヴァンの三人は、スヴァジルファリが待っている場所――厩舎近くの倉庫へ向かった。
奉納試合が終わったのとカイラルの事があるので、ライヤーと交代してシズが護衛役を務めている。ロザリーは呪術関係の調査の手伝いだ。
倉庫近くに到着すると、アナスタシアを見つけたスヴァジルファリが、涙目で擦り寄って来た。
何だかんだでしばらく放置してしまっていた。すみません、と謝りながらスヴァジルファリを撫でていると、そこへドミニクの愛馬であるアドリエンヌがやって来る。
彼女は少々呆れたような眼差しをスヴァジルファリに向けた。
『あら、大丈夫よ、アナスタシア。だってこの子、私達のところへ来ていたのだもの』
『アドリエンヌがばらした……』
『あなたが甘えるからでしょう? アナスタシア、たまには厳しくしないと駄目よ?』
そんなやり取りをする馬達を、アナスタシアはにこにこ笑って見ている。
「アナスタシア、馬が好きなのは分かるが、先に修復を終えた方が良いのではないか?」
「そうですね。ではスヴァジルファリさん、星銀をお願いします。兄様も、もう一度、火をお願いします」
『いっぱいはげちゃうけど任せて』
「ああ、任せておけ」
アナスタシアが頼むと、二人は揃って頷いた。
イヴァンには声が聞こえていないはずだが、言葉は綺麗に揃っている。シズが小さく笑う声が聞こえた。
「んー、それにしても、今年のジョストは色々あったなぁ」
「そうですねぇ。像が壊れたのは偶然でしたけど。……あ、ところでシズさん、ジョストすごかったです!」
「えっそう? シズさん、格好良かった?」
「はい! 格好良かったです!」
「やったー、褒められた! でも、久しぶりだったから結構緊張したよ」
アハハ、と楽しそうに笑って、シズは大きく伸びをする。
それから頭の後ろで腕を組んで、
「……あそこで、学生時代にテレンスと、競ったんだよな」
ぽつりとそう零した。
テレンス・ワード。色々と分からない事が多く、彼が起こした事件については口を閉ざしたままの元騎士。
彼がホーン隊を辞めた事と、それは関係があるのだろうか。
少なくとも、これで調査は進むだろう。アナスタシアはそう思いながら競技場を見る。
そうしていると、
『偶然じゃないよ』
とスヴァジルファリが言った。
「何がですか?」
『像が壊れたの』
「え?」
アナスタシアが目を丸くしていると、スヴァジルファリはイヴァンの方へ顔を向ける。
急に自分の方を向かれ、イヴァンは少しぎょっとしていた。
『この子、紅玉の星にいつも祈っていた。だからお礼に、悩んでいる事の解決を、ちょっとだけ後押ししてあげたんだって。でも、自分で壊しておいて、ボクに直して貰って来いって頼むの、おかしいと思うの。ボクもボロボロなのは悲しいから、直してもらいたいけど』
スヴァジルファリはちょっと拗ねたようにそう言った。
そう言えば、真剣に祈るとご利益があるとか、そんな話をしていた気がする。
シズとアナスタシアが「へぇー」と呟いてイヴァンを見ると、彼は居心地が悪そうな顔になる。
「な、何だ?」
「兄様、像が壊れたの、兄様のためだったそうですよ」
「は? ぼ、僕が何だって?」
「紅玉の星が、祈ってくれたお礼に後押ししてくれたんだってさ」
「…………」
アナスタシアとシズがそう教えると、イヴァンはこれでもかというくらい目を大きく見開いて、紅玉の星を見た。
それからみるみる顔が赤くなっていく。
「ふふ」
「わ、笑うんじゃない……!」
「いえ、すみません。ふふふ」
「うぐう……」
イヴァンが顔を真っ赤にしたまま唸る。
何だか楽しくなって、アナスタシアは笑う。シズもだ。
やがて、つられたのかイヴァンも笑い出した。
それを見てスヴァジルファリは優し気に目を細め、
『そうやってシンプルに笑うの、良いと思う』
と言ったのだった。
第六章 END
騒動がひと段落した後。
後処理をローランド達に任せ、アナスタシアとシズ、それからイヴァンの三人は、スヴァジルファリが待っている場所――厩舎近くの倉庫へ向かった。
奉納試合が終わったのとカイラルの事があるので、ライヤーと交代してシズが護衛役を務めている。ロザリーは呪術関係の調査の手伝いだ。
倉庫近くに到着すると、アナスタシアを見つけたスヴァジルファリが、涙目で擦り寄って来た。
何だかんだでしばらく放置してしまっていた。すみません、と謝りながらスヴァジルファリを撫でていると、そこへドミニクの愛馬であるアドリエンヌがやって来る。
彼女は少々呆れたような眼差しをスヴァジルファリに向けた。
『あら、大丈夫よ、アナスタシア。だってこの子、私達のところへ来ていたのだもの』
『アドリエンヌがばらした……』
『あなたが甘えるからでしょう? アナスタシア、たまには厳しくしないと駄目よ?』
そんなやり取りをする馬達を、アナスタシアはにこにこ笑って見ている。
「アナスタシア、馬が好きなのは分かるが、先に修復を終えた方が良いのではないか?」
「そうですね。ではスヴァジルファリさん、星銀をお願いします。兄様も、もう一度、火をお願いします」
『いっぱいはげちゃうけど任せて』
「ああ、任せておけ」
アナスタシアが頼むと、二人は揃って頷いた。
イヴァンには声が聞こえていないはずだが、言葉は綺麗に揃っている。シズが小さく笑う声が聞こえた。
「んー、それにしても、今年のジョストは色々あったなぁ」
「そうですねぇ。像が壊れたのは偶然でしたけど。……あ、ところでシズさん、ジョストすごかったです!」
「えっそう? シズさん、格好良かった?」
「はい! 格好良かったです!」
「やったー、褒められた! でも、久しぶりだったから結構緊張したよ」
アハハ、と楽しそうに笑って、シズは大きく伸びをする。
それから頭の後ろで腕を組んで、
「……あそこで、学生時代にテレンスと、競ったんだよな」
ぽつりとそう零した。
テレンス・ワード。色々と分からない事が多く、彼が起こした事件については口を閉ざしたままの元騎士。
彼がホーン隊を辞めた事と、それは関係があるのだろうか。
少なくとも、これで調査は進むだろう。アナスタシアはそう思いながら競技場を見る。
そうしていると、
『偶然じゃないよ』
とスヴァジルファリが言った。
「何がですか?」
『像が壊れたの』
「え?」
アナスタシアが目を丸くしていると、スヴァジルファリはイヴァンの方へ顔を向ける。
急に自分の方を向かれ、イヴァンは少しぎょっとしていた。
『この子、紅玉の星にいつも祈っていた。だからお礼に、悩んでいる事の解決を、ちょっとだけ後押ししてあげたんだって。でも、自分で壊しておいて、ボクに直して貰って来いって頼むの、おかしいと思うの。ボクもボロボロなのは悲しいから、直してもらいたいけど』
スヴァジルファリはちょっと拗ねたようにそう言った。
そう言えば、真剣に祈るとご利益があるとか、そんな話をしていた気がする。
シズとアナスタシアが「へぇー」と呟いてイヴァンを見ると、彼は居心地が悪そうな顔になる。
「な、何だ?」
「兄様、像が壊れたの、兄様のためだったそうですよ」
「は? ぼ、僕が何だって?」
「紅玉の星が、祈ってくれたお礼に後押ししてくれたんだってさ」
「…………」
アナスタシアとシズがそう教えると、イヴァンはこれでもかというくらい目を大きく見開いて、紅玉の星を見た。
それからみるみる顔が赤くなっていく。
「ふふ」
「わ、笑うんじゃない……!」
「いえ、すみません。ふふふ」
「うぐう……」
イヴァンが顔を真っ赤にしたまま唸る。
何だか楽しくなって、アナスタシアは笑う。シズもだ。
やがて、つられたのかイヴァンも笑い出した。
それを見てスヴァジルファリは優し気に目を細め、
『そうやってシンプルに笑うの、良いと思う』
と言ったのだった。
第六章 END
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