馬小屋暮らしのご令嬢嬢は案外領主に向いている?
1-12 大丈夫だけど心情的に大丈夫じゃない
「あー、これ、ユニコーンっすね」
アナスタシアの馬発言により、恐る恐る様子を見に行ったシズがそう報告した。
どうやら蹲って倒れていたのはユニコーンという獣らしい。
ユニコーンとは別名一角獣と呼ばれ、額に一本角を生やした馬の事である。
その角には、毒を浄化し水を清める力がある。簡単に言うと、穢れて飲めない水を、美味しく飲めるくらい綺麗な水へと変える力があるのだ。
そう言った理由からユニコーンの角は非常に高値で取引されており、昔は角を狙ってユニコーンを乱獲しようとする人間も多かったとか。
アナスタシアはそんな話を馬小屋にいた馬から聞いた事がある。
「ローランド監査官、ユニコーンってこの辺りに生息していましたっけ?」
「いや、生息地はもっと北の方だったはずだ」
「北か……。密猟か、それとも何かから逃げて来たのか……」
「報告にあった毒を振りまく魔獣ってユニコーンの事ですかね? こいつはむしろ逆だと思うんですけど……」
ユニコーンについて話すローランド達。
それを見遣ってから、アナスタシアはちょこちょことユニコーンに近づいた。
あまりに無警戒に近づくものだから、シズがぎょっと目を剥く。
「ちょ、ちょっとアナスタシアちゃん、危ないよ!?」
「大丈夫です、私は乙女です」
「待って。色々待って、意味を分かって言っているのかなっ?」
「馬に教わりましたゆえ」
「何教えてんだ、あの馬共ォ!」
シズが頭を抱えて叫ぶ。アナスタシアはそんなに驚く事かなぁと思いながらライヤーとローランドの方へ顔を向けると、二人は気まずそうな顔をしてサッと目を逸らした。
アナスタシアが言ったのはユニコーンが暴れた時の対処法だ。どういう訳か暴れるユニコーンは乙女――つまり、大人の階段を登っていない女性が触ると大人しくなるという性質がある。
なのでアナスタシアは「大丈夫」だと言ったのだが、どうやらアナスタシアには少し早い話題だったようだ。
まぁ、知ってしまった以上は仕方がないし、早かれ遅かれ知る事ならば些細な事である。
などと思う事にして、アナスタシアはユニコーンの隣に膝をつき、その身体にそっと手を乗せた。
――――温かい。
すべすべとしたその身体を優しく撫でながら、アナスタシアはユニコーンに話しかける。
「こんにちは。私はアナスタシアと言います。苦しいと仰っていましたが、どのあたりが苦しいのですか?」
アナスタシアに触れられたユニコーンは、薄く目を開く。
綺麗な青い目をしていた。
その目がアナスタシアを捉えると、
『――――ひたいが』
と、短く答えた。
額と聞いてアナスタシアがそちらを見ると、額から生えた角の根本が、紫色に変色している。
毒の霧と同じ色だ。
『かわのみず、じょうか、しっぱい――した』
ユニコーンは途切れ途切れにそう話す。
話を整理すると、どうやらユニコーンは毒に染まったこの川の水を浄化しようとしていて、失敗したらしい。
『どく、つのからからだに、はいった。――――くるしい』
「……なるほど」
アナスタシアは頷くと、ユニコーンの身体を手で撫で、さする。
「ユニコーンは川の毒を浄化してくれようとしていたらしいです。でも失敗して、身体が毒に侵されて苦しんでいます」
「失敗? ユニコーンの角の力を以ってしても?」
ローランドが意外そうに目を丸くした。
それはそうだろう。ユニコーンの角の力は強く、かなり凶悪な毒で淀んだ水すら浄化してしまうほどなのだ。
どれだけまずいものが、ロンドウィックの川に流れているのか。
そう考えてローランド達はぞっとした。
『これは、のろいの、どく』
「え?」
『のろいは、つのでは、じょうかできない』
「……呪いですって?」
ユニコーンの言葉に驚くアナスタシアに、ローランドが「呪い?」と軽く首を傾げる。
「ユニコーンが、この毒は、呪いの毒だって言っています」
アナスタシアの馬発言により、恐る恐る様子を見に行ったシズがそう報告した。
どうやら蹲って倒れていたのはユニコーンという獣らしい。
ユニコーンとは別名一角獣と呼ばれ、額に一本角を生やした馬の事である。
その角には、毒を浄化し水を清める力がある。簡単に言うと、穢れて飲めない水を、美味しく飲めるくらい綺麗な水へと変える力があるのだ。
そう言った理由からユニコーンの角は非常に高値で取引されており、昔は角を狙ってユニコーンを乱獲しようとする人間も多かったとか。
アナスタシアはそんな話を馬小屋にいた馬から聞いた事がある。
「ローランド監査官、ユニコーンってこの辺りに生息していましたっけ?」
「いや、生息地はもっと北の方だったはずだ」
「北か……。密猟か、それとも何かから逃げて来たのか……」
「報告にあった毒を振りまく魔獣ってユニコーンの事ですかね? こいつはむしろ逆だと思うんですけど……」
ユニコーンについて話すローランド達。
それを見遣ってから、アナスタシアはちょこちょことユニコーンに近づいた。
あまりに無警戒に近づくものだから、シズがぎょっと目を剥く。
「ちょ、ちょっとアナスタシアちゃん、危ないよ!?」
「大丈夫です、私は乙女です」
「待って。色々待って、意味を分かって言っているのかなっ?」
「馬に教わりましたゆえ」
「何教えてんだ、あの馬共ォ!」
シズが頭を抱えて叫ぶ。アナスタシアはそんなに驚く事かなぁと思いながらライヤーとローランドの方へ顔を向けると、二人は気まずそうな顔をしてサッと目を逸らした。
アナスタシアが言ったのはユニコーンが暴れた時の対処法だ。どういう訳か暴れるユニコーンは乙女――つまり、大人の階段を登っていない女性が触ると大人しくなるという性質がある。
なのでアナスタシアは「大丈夫」だと言ったのだが、どうやらアナスタシアには少し早い話題だったようだ。
まぁ、知ってしまった以上は仕方がないし、早かれ遅かれ知る事ならば些細な事である。
などと思う事にして、アナスタシアはユニコーンの隣に膝をつき、その身体にそっと手を乗せた。
――――温かい。
すべすべとしたその身体を優しく撫でながら、アナスタシアはユニコーンに話しかける。
「こんにちは。私はアナスタシアと言います。苦しいと仰っていましたが、どのあたりが苦しいのですか?」
アナスタシアに触れられたユニコーンは、薄く目を開く。
綺麗な青い目をしていた。
その目がアナスタシアを捉えると、
『――――ひたいが』
と、短く答えた。
額と聞いてアナスタシアがそちらを見ると、額から生えた角の根本が、紫色に変色している。
毒の霧と同じ色だ。
『かわのみず、じょうか、しっぱい――した』
ユニコーンは途切れ途切れにそう話す。
話を整理すると、どうやらユニコーンは毒に染まったこの川の水を浄化しようとしていて、失敗したらしい。
『どく、つのからからだに、はいった。――――くるしい』
「……なるほど」
アナスタシアは頷くと、ユニコーンの身体を手で撫で、さする。
「ユニコーンは川の毒を浄化してくれようとしていたらしいです。でも失敗して、身体が毒に侵されて苦しんでいます」
「失敗? ユニコーンの角の力を以ってしても?」
ローランドが意外そうに目を丸くした。
それはそうだろう。ユニコーンの角の力は強く、かなり凶悪な毒で淀んだ水すら浄化してしまうほどなのだ。
どれだけまずいものが、ロンドウィックの川に流れているのか。
そう考えてローランド達はぞっとした。
『これは、のろいの、どく』
「え?」
『のろいは、つのでは、じょうかできない』
「……呪いですって?」
ユニコーンの言葉に驚くアナスタシアに、ローランドが「呪い?」と軽く首を傾げる。
「ユニコーンが、この毒は、呪いの毒だって言っています」
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