客観的恋愛曖昧論
秘密裏3
突然パイプオルガンの音楽が流れ出し、たくさんの拍手が響き渡る。
驚いて匠から離れた二葉の目に飛び込んできたのは、入口から続々とチャペルに入ってくる企画部のみんなの笑顔だった。
「えっ……どういうこと?」
状況が飲み込めない二葉の前に、木之下がニヤニヤしながら歩いてきた。
「副島、雲井さん、プロポーズの成功おめでとう!」
「……ん?」
「実はね、俺たちから副島に提案したんだ。プロポーズ企画を始める前に、まず社員が経験してみるのはどうかってね」
「提案というより、ほぼ脅しに近かったけど」
「お前が辞めたら戦力を一人失うんだからな。ちゃんと俺たちに餞別を残していってもらわないと。それにプロポーズ受けてもらえたんだから、万々歳だろう!」
「……みんなが登場するなんて聞いてなかったけど」
呆然とする二葉の元に美玲が申し訳なさそうな表情を浮かべて駆け寄って来る。
「二葉、ごめんね! こんなにたくさんの人に見られながらのプロポーズなんて嫌だったよね。止めたんだけど、なんかみんな興奮しちゃって……」
その言葉を聞いて二葉は吹き出した。
「大丈夫だよ。みんなに祝福してもらえたみたいで嬉しかった」
美玲はホッとしたように胸を撫で下ろす。しかし同じようにホッとしている人物がいた。
「良かった……部長まで乗り気になっちゃって……断るに断れないし、でも二葉の承諾は得てないし……」
「あはは! そうだったの? でも承諾したらせっかくの準備が水の泡になっちゃうしね」
ようやく緊張が解け始めた匠の手から、二葉はそっと花束を受け取る。大きな蓮の花を見て頬が緩む。
「……蓮の花、すごく嬉しいの。私と匠さんの始まりの花だもん」
「蓮の花って、泥水の中から華麗な大輪の花を咲かせる様子から、『苦難を乗り越えた先に幸せがある』っていう人生の例えがあるんだって。まるで俺たちみたいじゃない? 出会った時は二人とも辛い境遇だった。それから別れも経験して今がある」
「うん……そうだね……」
二人が抱き合うと、木之下が咳払いをする。
「じゃあここからは二人の時間ということで、協力してくれた二人に我々からプレゼントがあります! はい、和田!」
木之下に呼ばれて飛び出してきたのは、匠のパートナーである和田だった。和田は顔を真っ赤にして、興奮した様子で二人に一通の封筒を差し出した。
「お二人とも、おめでとうございます! いや、まさかお二人がそんな関係だったとは知らず……」
「和田!」
「あぁ! はいっ、すみません! これは企画部から、当ホテルの本日一泊分のプレゼントになります!」
思いがけないプレゼントに、匠と二葉は驚いたように目を見開く。
「今日は二人とも早退でいいって部長からお達しが来てるぞ。その代わり、アンケートの協力と、雲井さんに《《例の件》》を打診するのを忘れないでくれよ」
「……わかってるよ」
そう言い残すと、企画部の面々は二人にお祝いの言葉を投げかけながら帰っていき、あっという間に二人だけになってしまった。
先ほどまでの様子が嘘のように静けさに包まれる。
匠はにっこり笑うと、二葉の額にそっとキスをした。
「今日ここにお泊まりだって」
「でもお泊まりのグッズ、何もない……」
「なるほど。そういうオプションを付けるといいかもね」
「確かに……って、そうじゃなくて、私の荷物を取りに……ん……」
突然匠に唇を塞がれる。
「近くのお店に買いに行こう。取りに行く時間が勿体無い」
「うん……わかった……ただ一つお願いがあるの……」
二葉は匠の顔を見上げる。この素敵な場所と、この大切な時間を、生涯忘れられないものにしたいの。
「もう一度キスして欲しい……誓いのキスみたいに……」
匠は目を細め、愛おしそうに二葉の頬を撫でる。
そして顎に指を添え、
「愛してるよ、二葉……」
そう言ってキスをした。
驚いて匠から離れた二葉の目に飛び込んできたのは、入口から続々とチャペルに入ってくる企画部のみんなの笑顔だった。
「えっ……どういうこと?」
状況が飲み込めない二葉の前に、木之下がニヤニヤしながら歩いてきた。
「副島、雲井さん、プロポーズの成功おめでとう!」
「……ん?」
「実はね、俺たちから副島に提案したんだ。プロポーズ企画を始める前に、まず社員が経験してみるのはどうかってね」
「提案というより、ほぼ脅しに近かったけど」
「お前が辞めたら戦力を一人失うんだからな。ちゃんと俺たちに餞別を残していってもらわないと。それにプロポーズ受けてもらえたんだから、万々歳だろう!」
「……みんなが登場するなんて聞いてなかったけど」
呆然とする二葉の元に美玲が申し訳なさそうな表情を浮かべて駆け寄って来る。
「二葉、ごめんね! こんなにたくさんの人に見られながらのプロポーズなんて嫌だったよね。止めたんだけど、なんかみんな興奮しちゃって……」
その言葉を聞いて二葉は吹き出した。
「大丈夫だよ。みんなに祝福してもらえたみたいで嬉しかった」
美玲はホッとしたように胸を撫で下ろす。しかし同じようにホッとしている人物がいた。
「良かった……部長まで乗り気になっちゃって……断るに断れないし、でも二葉の承諾は得てないし……」
「あはは! そうだったの? でも承諾したらせっかくの準備が水の泡になっちゃうしね」
ようやく緊張が解け始めた匠の手から、二葉はそっと花束を受け取る。大きな蓮の花を見て頬が緩む。
「……蓮の花、すごく嬉しいの。私と匠さんの始まりの花だもん」
「蓮の花って、泥水の中から華麗な大輪の花を咲かせる様子から、『苦難を乗り越えた先に幸せがある』っていう人生の例えがあるんだって。まるで俺たちみたいじゃない? 出会った時は二人とも辛い境遇だった。それから別れも経験して今がある」
「うん……そうだね……」
二人が抱き合うと、木之下が咳払いをする。
「じゃあここからは二人の時間ということで、協力してくれた二人に我々からプレゼントがあります! はい、和田!」
木之下に呼ばれて飛び出してきたのは、匠のパートナーである和田だった。和田は顔を真っ赤にして、興奮した様子で二人に一通の封筒を差し出した。
「お二人とも、おめでとうございます! いや、まさかお二人がそんな関係だったとは知らず……」
「和田!」
「あぁ! はいっ、すみません! これは企画部から、当ホテルの本日一泊分のプレゼントになります!」
思いがけないプレゼントに、匠と二葉は驚いたように目を見開く。
「今日は二人とも早退でいいって部長からお達しが来てるぞ。その代わり、アンケートの協力と、雲井さんに《《例の件》》を打診するのを忘れないでくれよ」
「……わかってるよ」
そう言い残すと、企画部の面々は二人にお祝いの言葉を投げかけながら帰っていき、あっという間に二人だけになってしまった。
先ほどまでの様子が嘘のように静けさに包まれる。
匠はにっこり笑うと、二葉の額にそっとキスをした。
「今日ここにお泊まりだって」
「でもお泊まりのグッズ、何もない……」
「なるほど。そういうオプションを付けるといいかもね」
「確かに……って、そうじゃなくて、私の荷物を取りに……ん……」
突然匠に唇を塞がれる。
「近くのお店に買いに行こう。取りに行く時間が勿体無い」
「うん……わかった……ただ一つお願いがあるの……」
二葉は匠の顔を見上げる。この素敵な場所と、この大切な時間を、生涯忘れられないものにしたいの。
「もう一度キスして欲しい……誓いのキスみたいに……」
匠は目を細め、愛おしそうに二葉の頬を撫でる。
そして顎に指を添え、
「愛してるよ、二葉……」
そう言ってキスをした。
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