客観的恋愛曖昧論

白山小梅

交わる時3

 画面には『着信のお知らせ』の文字とともに、番号が表示されている。

 この番号を二葉は知っていた。特徴的な下四桁。秩父にいた時、匠がシャワーを浴びている時に見たのを覚えている。

『着信 先生』

 あの時はまだ話を聞く前だったし、だから私も何も聞かなかった。

「……そっか……そういうことか……」

 二葉は独り言のように呟く。着信のお知らせのメールが来るということは、匠さん自身は着信拒否をしているということ。これは二葉自身の実体験として知っていた。

 不安になる気持ちを押し殺し、二葉は尋ねる。

「……先生とは続いてるの?」
「続いてない! 二葉と同じ、秩父の後にちゃんと別れた。最近になって急に連絡が来るようになったんだ……」

 匠の項垂れた様子を見る限り、きっと事実だろう。

「……いつから連絡が来るようになったの?」
「……社員旅行の日から。でも電話には出てないから……。二葉に言おうか悩んだ。でも二葉には先生のことを話していたし、心配をかけたくなくて隠してた……」

 二葉はため息をつくと、匠の頬をつねる。匠は目を見開き二葉を見る。確実に怒っている。

「私を甘く見ないで。そんなことでひるんだりしないよ。それよりスマホを貸して」

 匠が渡すと、二葉は慣れた手つきて何やら操作していく。終わると匠に渡した。

「着信のお知らせが来ないように設定したから。これで連絡が来ても完全にわからないよ」
「そんな設定出来るの? よく知ってるね」
「うん。元彼がうるさかった時にやったことがあるから」

 匠はスマホをテーブルに置くと、二葉の顔を見つめる。わかっていたことだが、悲しそうな顔をしている。そうさせたのが自分だとわかるから何も言い訳は出来なかった。

「本当に先生とはあれっきりなんだ。信じて欲しい」
「嘘じゃない?」
「嘘なんかつかないよ」
「……わかった。これからは隠し事はしないで」
「もちろん」
「私は匠さんを信頼してる。それを裏切らないで。次に同じことをしたら、匠さんといえど、だめんずに認定しますからね」
「……それは困ります」

 二葉は匠にキスをする。たぶん動揺してるのは私よりも匠さん。それならその想いを払拭してあげたい。

 味わうように舌を絡め、匠の服を脱がせ始める。そして彼の耳元に唇を近付けるとこう言った。

「今夜は私が、忘れられない極上の夜にしてあげるんだから」

 それを聞いた匠は恥ずかしそうに顔を赤く染め、笑い出す。

「それって俺が言ったセリフじゃん。よく覚えてたね。っていうか恥ずかしい……」

 両手で顔を押さえた匠の胸に、二葉が額をすり寄せる。

「忘れないよ……だって本当に最高の夜だったもん……」
「二葉ってば……反則……」

 貪る様にキスをして、二葉の脚をひらかせ自分の上に座らせる。息を切らし、艶のある表情を浮かべる二葉に、匠の我慢も限界を迎える。

「二葉……もっと顔を見せて……」

 もう君だけいれば、それだけでいい。

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