客観的恋愛曖昧論
秘密の二人〜前編〜1
社員旅行は一泊二日で熱海の温泉宿に泊まる。個室はほとんどなく、グループごとに部屋があてがわれていた。
荷物を置いてからは自由行動だったが、珍しく木之下が企画部の面々に声をかけ、みんなで街中を散策しようということになる。
そのため、匠はもちろん、美玲も一緒に過ごせることになり、二葉は心から喜んだ。だが現実は甘くはなく、匠の周りには必ず誰か女性がいる。
一番後ろを歩きながら、落ち込む二葉を慰めるように、美玲は背中を優しく叩く。
「まぁそのうち話せる時間が来るよ」
「うん、そうだね……でもやっぱり妬いちゃう……」
「そうそう、こういうのが面倒くさいから社内恋愛はしたくないのよ〜。いいの、二葉は頑張りなさい! 私は社外で探すから」
そのうち前の方の女性社員が、有名な甘味の店の前に並び始めた。
「私たちこれが目的なんで! 副島さんもいかがですか?」
「へぇ、有名な店なんだね。ただごめんね、甘いのってちょっと苦手なんだ。だから終わる頃に合流してもいいかな?」
匠は困ったような顔をして笑う。
「えっ、そうなんですか⁈ 知らなくてごめんなさい!」
「大丈夫。じゃあ楽しんでね」
匠は皆から離れた場所に移動していく。その背中を女性社員たちは名残惜しそうに見つめていた。
「あっ、木之下さんも甘味に興味ないですよね。じゃあまた後で合流しましょう」
「おいおい、扱いの差がありすぎだろ」
「まぁまぁ……」
不愉快そうな顔をする木之下をなだめながら、三人は商店が立ち並ぶ道をゆっくり歩いていく。すると三人の到着を待っていたかのように、匠が土産物屋の店先で手を挙げた。
木之下は怪訝そうな顔で匠に近寄る。
「お前、甘いもの大好きだったよな」
「だとしても、食べたくない時だってあるんだよ。なぁ、せっかくだし来宮神社に行きたいなぁ。あとロープウェーで上まで行こうよ」
「そんなことしてたら、さっきの子たちの終わる時間に間に合わないぞ」
「大丈夫だよ。間に合わなかったら、宿で合流すればいいし」
「お前って奴は……」
木之下は呆れたように頭を掻くが、諦めて歩き出す。その様子を見て、匠はにっこり微笑む。
「木之下ってば、なんだかんだ俺に優しいよなぁ」
「うるさい。そうするしかないんだから仕方ないだろ。ほら、行くぞ」
二葉が木之下について行こうとすると、美玲が手を出して止めた。
「二葉は副島さんと一緒においで。私が木之下さんについて行くから」
「あ、ありがとう!」
美玲は二葉にウインクをすると、木之下の隣に走り寄った。それを見ていた匠は驚いた様子で、前方を歩く二人の背中を見つめた。
「付き合ってること、二人に話した?」
「あっ、美玲にだけ……ダメだった?」
「そうなんだ……いや、ダメじゃないよ。信頼出来る友達なんでしょ?」
二葉が頷くと、匠はにっこり笑って彼女の頭に手を載せる。たったそれだけのことで、二葉の中に安心感が広がる。
「ん? どうかした?」
「なんでもない……やっと匠さんに触れたから嬉しかっただけ……」
「……二葉」
「何?」
「キスしたい」
匠は真剣な眼差しで二葉を見ていた。あぁ、どうしよう。胸が苦しい。
「……私だって我慢してるの。だからダメ……」
「大丈夫、わかってるって」
匠の指が二葉の指に絡む。もっと触れたい……でも今はここまで。
衝動をグッと抑え、二人は木之下と美玲を追いかけた。
荷物を置いてからは自由行動だったが、珍しく木之下が企画部の面々に声をかけ、みんなで街中を散策しようということになる。
そのため、匠はもちろん、美玲も一緒に過ごせることになり、二葉は心から喜んだ。だが現実は甘くはなく、匠の周りには必ず誰か女性がいる。
一番後ろを歩きながら、落ち込む二葉を慰めるように、美玲は背中を優しく叩く。
「まぁそのうち話せる時間が来るよ」
「うん、そうだね……でもやっぱり妬いちゃう……」
「そうそう、こういうのが面倒くさいから社内恋愛はしたくないのよ〜。いいの、二葉は頑張りなさい! 私は社外で探すから」
そのうち前の方の女性社員が、有名な甘味の店の前に並び始めた。
「私たちこれが目的なんで! 副島さんもいかがですか?」
「へぇ、有名な店なんだね。ただごめんね、甘いのってちょっと苦手なんだ。だから終わる頃に合流してもいいかな?」
匠は困ったような顔をして笑う。
「えっ、そうなんですか⁈ 知らなくてごめんなさい!」
「大丈夫。じゃあ楽しんでね」
匠は皆から離れた場所に移動していく。その背中を女性社員たちは名残惜しそうに見つめていた。
「あっ、木之下さんも甘味に興味ないですよね。じゃあまた後で合流しましょう」
「おいおい、扱いの差がありすぎだろ」
「まぁまぁ……」
不愉快そうな顔をする木之下をなだめながら、三人は商店が立ち並ぶ道をゆっくり歩いていく。すると三人の到着を待っていたかのように、匠が土産物屋の店先で手を挙げた。
木之下は怪訝そうな顔で匠に近寄る。
「お前、甘いもの大好きだったよな」
「だとしても、食べたくない時だってあるんだよ。なぁ、せっかくだし来宮神社に行きたいなぁ。あとロープウェーで上まで行こうよ」
「そんなことしてたら、さっきの子たちの終わる時間に間に合わないぞ」
「大丈夫だよ。間に合わなかったら、宿で合流すればいいし」
「お前って奴は……」
木之下は呆れたように頭を掻くが、諦めて歩き出す。その様子を見て、匠はにっこり微笑む。
「木之下ってば、なんだかんだ俺に優しいよなぁ」
「うるさい。そうするしかないんだから仕方ないだろ。ほら、行くぞ」
二葉が木之下について行こうとすると、美玲が手を出して止めた。
「二葉は副島さんと一緒においで。私が木之下さんについて行くから」
「あ、ありがとう!」
美玲は二葉にウインクをすると、木之下の隣に走り寄った。それを見ていた匠は驚いた様子で、前方を歩く二人の背中を見つめた。
「付き合ってること、二人に話した?」
「あっ、美玲にだけ……ダメだった?」
「そうなんだ……いや、ダメじゃないよ。信頼出来る友達なんでしょ?」
二葉が頷くと、匠はにっこり笑って彼女の頭に手を載せる。たったそれだけのことで、二葉の中に安心感が広がる。
「ん? どうかした?」
「なんでもない……やっと匠さんに触れたから嬉しかっただけ……」
「……二葉」
「何?」
「キスしたい」
匠は真剣な眼差しで二葉を見ていた。あぁ、どうしよう。胸が苦しい。
「……私だって我慢してるの。だからダメ……」
「大丈夫、わかってるって」
匠の指が二葉の指に絡む。もっと触れたい……でも今はここまで。
衝動をグッと抑え、二人は木之下と美玲を追いかけた。
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