客観的恋愛曖昧論

白山小梅

曖昧論〜彩花の場合〜1

 女子会の場所はいつも決まっていた。会社近くのビルにあるイタリアン。集まるメンバーは四人。二葉と美玲に加え、経理部の京子と、受付の彩花。二葉が中途採用で入社した時に、美玲に紹介されて仲良くなった。

 京子はショートカットがよく似合うキレイめ女子で、パンツスタイル以外は見たことがなかった。

 彩花は編み込みが特徴的なかわいい系で、淡い色合いの服装を好んで着ている。

 いつものように乾杯をしてから、今日は彩花が愚痴をこぼし始めた。

「ねぇ、みんなの男と付き合う基準って何?」
「そうねぇ……やっぱり顔? 美人は三日で飽きるって言うけど、大好きなイケメンならいつまでも見ていられるよね」
「京子ちゃん、それってお気に入りのアイドルの話じゃないの? でも顔が良くても、性格が悪かったらドン引きじゃない? カッコいい人の悪口ほど冷めるものはないと思う」
「確かに。裏で自分のことも悪く言ってるんじゃないかって思ったら怖くなるわ。二葉ちゃんは?」
「私? 今は仕事に生きるって決めてるからなぁ。でも……趣味とか価値観が同じ人ならずっと一緒にいたいって思うかも」

 二葉がワインを飲みながら答えると、三人は驚いたように手を止めた。

「ちょっと……二葉が恋について初めて語ったよ。何かあったの?」
「な、何もありません!」
「美玲ちゃん、二葉ちゃんに何かあった⁈」

 京子と彩花に言われ、美玲は真剣に頭を悩ませ始める。それからピンと来たように人差し指を立てた。

「今日から副島さんが出社して、二葉と一緒に仕事してた! しかも資料室に行った後、仲良く二人で出てきたし」
「ま、まさか二葉ってば、副島さんにロックオン? あれはライバル多いからやめときな」
「しかも二人きりで資料室にいたの⁈ TLに欠かせないイチャイチャ場所の定番じゃない⁈ 何かあったの⁈」
「な、ないから! 勝手に想像しないでよ!」

 と言いつつ、二葉がワインを一気飲みしたものだから、三人の疑惑は深まっていく。

「事実を教えてくれたら、変な想像なんかしないんだけどなぁ」

 彩花は片肘をついて手に顎を乗せると、にっこりと笑みを浮かべた。

「……絶対?」
「もちろん」
「……実は、前に話した秩父の彼が副島さんだった」

 ワインが少しまわり始めていたからか、二葉はうっかり口を滑らせてしまう。

 だがそれを聞いた三人は、あまりの衝撃発言にイスから転げ落ちそうになった。

「ちょ、ちょっと待って! 秩父の彼って、初対面にも関わらず三日間も一緒に過ごして、夜はムニャムニャしまくっちゃったって言う、例の彼⁈」
「……あぁやだ、言わなきゃ良かった!」
「いやいや、重要なことよ! で、どうなの? 何か進展はありそうなわけ?」
「わかんないよ……とりあえず明日の夜に約束したけど、まただめんずに引っかかるかも〜って思うと怖いのよ。それなら仕事に打ち込みたい」
「ふーん……まぁまだ初日だしね。ところでさっき二葉ちゃんが言った基準って、やっぱり副島さんのことなの?」

 彩花の問いかけに、二葉は渋々頷いた。

「じゃあ副島さんは趣味とか価値観が同じだったんだ?」
「趣味に関してはぴったり。食事の選び方も無理してないし、ただ……」
「ただ?」
「すごい高級ホテルに宿泊してたんだよね……あれだけ今も謎」
「……副島さんってお金持ち?」
「知らない。でも何か裏がある?」
「もしかして怪しいバイトとかで稼いだとか?」

 美玲の言葉に、二葉は一瞬固まった。先生とって言ってたけど、お金が絡む関係には聞こえなかった。

「でもさ、なんかそういうワンナイトラブっていうの? ちょっと憧れるかも〜」
「そう? 身分のわからない男となんて気持ち悪くない?」
「私は先の見えない男に体を許すなんて嫌だわ。でも、相手が副島さんならありかもね」
「ま、まぁ、私のことは何かあったら話すからさ。彩花は何があったの?」

 すると彩花の表情が曇る。運ばれてきたサラダを二葉が取り分け、彩花の話に耳を傾けた。

「気になってた人じゃない人に告白された」
「……話が見えないんだけど。気になってた人は、この間の合コンの人?」

 彩花は頷く。連絡先を交換したと嬉しそうに話していた。

「で、じゃない人って?」
「大学の時の友達。今でも仲が良かったメンバーで出かけたりするんだけど、そのなかの一人なの。物静かで、気配りの出来るタイプ。でもちょっと物足りない感じ」
「どんなタイミングで告白されたの?」
「みんなで出かけた後に家まで車で送ってくれて、その時に言われた」
「気になってる人は?」
「連絡しても既読スルー」
「その時点でないわ」
「うん、それはわかってる。彼氏は欲しいけど、その人が無理だから付き合うっていうのもおかしいでしょ? だからみんなに聞きたいの。恋愛感情がグレーゾーンでも付き合う?」

 三人は顔を見合わせると、それぞれ頭を悩ませ始めた。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品