客観的恋愛曖昧論
出会い〜極上の夜〜4
ホテルに戻ってからの流れは自然だった。エレベーターのドアがしまるなりキスをして、匠が部屋のドアを開けるとすぐにキスが再開される。
これが最後だと思うと、彼の一つ一つの動作を頭に焼き付けたくなる。素敵な思い出として、ずっと覚えていたいの。
シャワーも浴びずにベッドに倒れ込む。キスをしながらお気に入りの服を脱がされるのは、これで二回目。本当の私を暴くのが匠さんで良かったと心から思う。私を否定した慎吾は、ただの仮面を剥いだだけ。
彼の息遣い、キスの感触、優しい声。彼の逞しい腕に抱かれながら一つになる心地良さ。私きっと忘れない。
「俺って野獣じゃん」
「うふふ、野獣な匠さんも素敵ですけどね」
「またそんなこと言って。とりあえず汗だくだし、お風呂でも入る?」
匠はベッドから下りると、バスタオルを腰に巻いて浴槽に湯を張りに行く。しかしなかなか戻らない匠が気になり、近くに置いてあったバスローブを着ると、そっと浴室を覗いた。
その姿を見て、二葉は何かを感じ取る。匠は浴槽に腰掛けたまま、下を向いて項垂れている。
何かを思い出したのだろうか……。明らかに苦しそうだった。でも何と声をかけたらいいのかもわからなかった。
二葉は匠の隣に腰掛けると、彼のことを抱きしめた。私にはこうしてあげるしか出来ない。
匠は二葉の手を握り、彼女に寄りかかる。
「きっと二葉は何か勘づいてるんでしょ?」
「はっきりとはわからないけど、何か辛いことがあったのかなって……」
匠は浴槽に貯めていた湯を止めると、二葉のバスローブを取り去る。二人は湯に身を沈め、ホッと一息ついた。
匠の足の間に座り、後ろから抱きしめられる。首筋に触れる彼の唇がくすぐったい。
「……高校の時にさ、好きだった先生がいたんだ。諦めきれなくて、卒業式の日に告白したんだけど玉砕。彼氏がいるって知ってたし、そうなるってわかってたんだけど。その翌年に結婚したって聞いて、心から祝福したんだ」
二葉の胸の上を彷徨う匠の手は、どこか居場所を探しているようにも感じる。
「大学四年に上がる前の春休みに、偶然街で先生と再会したんだ。懐かしくて二人でお茶して話してたらさ、なんか旦那と上手くいってないって話になって……俺もずっと好きだった人だし、断りきれなくて……ホテルに行ってた」
二葉は匠の手に自分の手を重ねる。ここでいいんだというように、彼の手を胸へと誘導する。
「……それから月に二回くらい呼び出されるようになって……その度に関係を持った……」
「……やっぱりまだ好きなの?」
「わからないんだ……でもあの人の顔を見ると辛くなる……」
「……今も続いているの?」
匠は言葉にはせず、ただ頷いた。
これが彼の苦しみと悲しみの正体だったんだ。先生への感情の正体がわからず、促されるまま彼女と体の関係を持ち続けている。
でも……そんな苦しい気持ちになるのなら、匠さん本人は気づいているはず。きっとわかっていないフリをしてるだけ。
二葉はハッとする。それって私と同じじゃない。気持ちがないのはわかっているのに、ズルズルと関係を続けてしまっている。
二葉は思わずため息をつく。私たちはどこまでも似たものどうしなのね……。
二葉は首を傾けて匠にキスをする。それからゆっくり彼の方へ向き直り、彼の足の上に跨ぐように座る。
「私も人のことは言えないけど、匠さんには自分の気持ちを大事にしてほしい。私はたった二日しか一緒にいないけど、それでもあなたは優しい人だと思うもの。その人が辛い思いをしていると、私も辛くなる。だから匠さんが望む未来を選んで」
匠は目を見開き、瞳から一筋の涙が溢れ落ちる。それを二葉はそっと拭うと微笑んだ。
「相当我慢してましたね。いいんですよ、泣いたって。私たちはきっと疲れちゃったんです。だから癒しを求めてここに来た。きっと心に休息が必要だったのよ」
「……でも俺は、君に一番癒されてる……」
匠は二葉にキスをする。
「心も体も癒せる相手との休息なんて、これ以上のものはないよね….」
私は彼に慰められて、私は彼を癒せた。私たちの出会いは偶然に似た必然であるかのよう。そんな夢みたいなことを思いながら、私は匠さんの胸に倒れ込む。
彼の早鐘のような心臓の音を聞いて、私はこの上ない幸せな気持ちに包まれたの。
これが最後だと思うと、彼の一つ一つの動作を頭に焼き付けたくなる。素敵な思い出として、ずっと覚えていたいの。
シャワーも浴びずにベッドに倒れ込む。キスをしながらお気に入りの服を脱がされるのは、これで二回目。本当の私を暴くのが匠さんで良かったと心から思う。私を否定した慎吾は、ただの仮面を剥いだだけ。
彼の息遣い、キスの感触、優しい声。彼の逞しい腕に抱かれながら一つになる心地良さ。私きっと忘れない。
「俺って野獣じゃん」
「うふふ、野獣な匠さんも素敵ですけどね」
「またそんなこと言って。とりあえず汗だくだし、お風呂でも入る?」
匠はベッドから下りると、バスタオルを腰に巻いて浴槽に湯を張りに行く。しかしなかなか戻らない匠が気になり、近くに置いてあったバスローブを着ると、そっと浴室を覗いた。
その姿を見て、二葉は何かを感じ取る。匠は浴槽に腰掛けたまま、下を向いて項垂れている。
何かを思い出したのだろうか……。明らかに苦しそうだった。でも何と声をかけたらいいのかもわからなかった。
二葉は匠の隣に腰掛けると、彼のことを抱きしめた。私にはこうしてあげるしか出来ない。
匠は二葉の手を握り、彼女に寄りかかる。
「きっと二葉は何か勘づいてるんでしょ?」
「はっきりとはわからないけど、何か辛いことがあったのかなって……」
匠は浴槽に貯めていた湯を止めると、二葉のバスローブを取り去る。二人は湯に身を沈め、ホッと一息ついた。
匠の足の間に座り、後ろから抱きしめられる。首筋に触れる彼の唇がくすぐったい。
「……高校の時にさ、好きだった先生がいたんだ。諦めきれなくて、卒業式の日に告白したんだけど玉砕。彼氏がいるって知ってたし、そうなるってわかってたんだけど。その翌年に結婚したって聞いて、心から祝福したんだ」
二葉の胸の上を彷徨う匠の手は、どこか居場所を探しているようにも感じる。
「大学四年に上がる前の春休みに、偶然街で先生と再会したんだ。懐かしくて二人でお茶して話してたらさ、なんか旦那と上手くいってないって話になって……俺もずっと好きだった人だし、断りきれなくて……ホテルに行ってた」
二葉は匠の手に自分の手を重ねる。ここでいいんだというように、彼の手を胸へと誘導する。
「……それから月に二回くらい呼び出されるようになって……その度に関係を持った……」
「……やっぱりまだ好きなの?」
「わからないんだ……でもあの人の顔を見ると辛くなる……」
「……今も続いているの?」
匠は言葉にはせず、ただ頷いた。
これが彼の苦しみと悲しみの正体だったんだ。先生への感情の正体がわからず、促されるまま彼女と体の関係を持ち続けている。
でも……そんな苦しい気持ちになるのなら、匠さん本人は気づいているはず。きっとわかっていないフリをしてるだけ。
二葉はハッとする。それって私と同じじゃない。気持ちがないのはわかっているのに、ズルズルと関係を続けてしまっている。
二葉は思わずため息をつく。私たちはどこまでも似たものどうしなのね……。
二葉は首を傾けて匠にキスをする。それからゆっくり彼の方へ向き直り、彼の足の上に跨ぐように座る。
「私も人のことは言えないけど、匠さんには自分の気持ちを大事にしてほしい。私はたった二日しか一緒にいないけど、それでもあなたは優しい人だと思うもの。その人が辛い思いをしていると、私も辛くなる。だから匠さんが望む未来を選んで」
匠は目を見開き、瞳から一筋の涙が溢れ落ちる。それを二葉はそっと拭うと微笑んだ。
「相当我慢してましたね。いいんですよ、泣いたって。私たちはきっと疲れちゃったんです。だから癒しを求めてここに来た。きっと心に休息が必要だったのよ」
「……でも俺は、君に一番癒されてる……」
匠は二葉にキスをする。
「心も体も癒せる相手との休息なんて、これ以上のものはないよね….」
私は彼に慰められて、私は彼を癒せた。私たちの出会いは偶然に似た必然であるかのよう。そんな夢みたいなことを思いながら、私は匠さんの胸に倒れ込む。
彼の早鐘のような心臓の音を聞いて、私はこの上ない幸せな気持ちに包まれたの。
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