客観的恋愛曖昧論

白山小梅

出会い〜極上の夜〜2

 慎吾が嘘つきなのはよくわかった。私の体の感度が良くないなんて、どの口が言ったのよ。こんなに気持ちのいいセックス、今日初めて知った。

 匠の腕の中で、どこかスッキリした気分になっていた。どうせ今だけの関係。それなら全部話してしまおう。

「……今日ね、急に思い立ってここに来たの」

 二葉が口を開くと、匠に塞がれてしまう。

「……たぶんだけど、彼氏の浮気現場を見たとか?」
「えっ、な、なんでわかるの⁈」
「まぁなんとなく……。泣き腫らした顔してたし、別れたとも言わない。ケンカなら怒るし、こんなふうにノコノコ男について行かないかなって思って」
「……私ってかなり単純?」
「わかりやすよね。だってほら……もっとしたいって顔してる」

 匠はにっこり笑うと二葉の耳に舌を這わせていく。二葉は声を上げそうになるのを、手で口を押さえて堪える。

「彼氏はどんな奴なの?」
「明るくて……サークルでもムードメーカー……んっ……でも、私の話はあまり聞いてくれなかったかも……」

 匠は二葉のこめかみに口付けると、彼女の言葉に耳を傾ける。

「私を自分好みにしようとしてね、私が好きなものを否定するの……。彼のことが好きで告白して付き合ったはずなんだけど、他の女とホテルに行くのを見て、気持ちが冷めていたことにようやく気付いた……」
「入るとこ見たの? うわっ、エグいなぁ」
「写真も撮った。ただじゃ転ばないのよ、私」
「……でもまだ別れてないんだ? じゃあ二葉も浮気しちゃったね」
「お互い様よ。しかもあいつよりもずっと素敵なホテルだし」
「あはは! それは言えてる。最高級の浮気だ」
「……それにね、今日着てた服は私のお気に入りなの。それを匠さんは褒めてくれたでしょ? ようやく自分を認めてもらえた気がして嬉しかった……」

 匠のキスが激しくなり、二葉はうっとりて目を閉じる。こんなに幸せな夜を過ごして……バチが当たったりしないかしら……。

 匠の貪るような熱いキスが、いつの間にか心地良くなって来ている。息なんてしなくていい。このまま匠さんを感じていたい。

「匠さん……」
「ん?」
「お願いだからやめないで……匠さんにもっとめちゃくちゃにしてほしい……」
「二葉ってば……どれだけエッチなんだよ……」
「匠さんが上手すぎるのよ……彼氏の時は痛くて早く終わってって思ったのに、匠さんの時はもっとって欲張っちゃう……」

 匠は二葉を見下ろしながら、そっと髪を撫でる。その優しい手の感触に、二葉はうっとりと目を閉じた。

「俺たち、相性がいいのかもしれないね。まだ出会ったばかりだけど、なんとなくそう思う」
「それならきっと仏様が導いてくれたのかもしれないよ。あんな絶妙なタイミングの出会いなんて、普通は起きないもの」
「それは壮大な出会いだなぁ。でも確かに、四萬部寺しまぶじの八体佛は縁結びで有名みたいだしね」
「そうなの? 知らなかった」
「……エッチの最中にする話題じゃないかもだけど」
「そうかな……私はもっと聞きたいけどな」
「二葉って不思議な子だね」
「……別に普通だと思うけど……そういう匠さんは結構遊んでるでしょ? こんなに上手なんて信じられない」
「なんで? ただエッチな知識が多いだけの童貞くんかもしれないよ?」

 すると二葉が吹き出し、大きな声で笑い出す。

「信じてないね?」
「信じないよ。こんなに気持ち良いセックス、初めてだもん。ねぇお願い、もう一回したい……」
「二葉は欲張りだなぁ」

 匠が嬉しそうに微笑む。今日一日一緒にいて、一番の笑顔だったんじゃないかしら。

 彼の悲しみは一体なんなのだろう。野暮だから聞かないけど、そんな彼を癒してあげたいって思ったの。


 

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