男だけど魔法少女になれちゃった話。
黒い猫
「ウァラク、か」
「そう、ウァラク」
何て言うか…こう…。
「…変な名前……」
可哀相に、名付け親のセンスが疑われる名前だ。
飼い主に恵まれなかったんだな…。
「如何にも可哀相にって思ってる顔だね…思考を読まなくても読めるのは何故だろう」
「読まれなくて何よりだ」
思考を勝手に読まれるのは何とも言い難い不快感がある。
最初の方は"感触"の様なものがあった…嘗められている感じ、とでも言うのか。今はもう慣れてしまったのか何も感じなくなってしまったけれど。
感じなくなってしまった、とあたかも感じなくなった事が残念であるかの様な言い方をしてしまったものの、決してそんなことはない。
当たり前だが寧ろ嬉しい、それはもう歓喜である。
僕にとっての不利益が一つも見当たらないぜ。
「それと、ボクに飼い主は居ないよ。失礼だなあ」
「結局読んでるんじゃねえか!」
前言撤回、不利益はあった。
読まれていることに気付けない。
「不愉快だから思考を読むのは止めてくれと何度言ったら理解出来るんだお前」
「ボクは、君が内心ではどんな風にボクをなじっているのかがよく解って凄く愉快だけどなあ」
「…………」
恐らくだが、大分根に持ってるな…遠回しに不愉快アピールしてきやがる。
さては、気に入らなかった奴をネチネチ追い詰める感じの性格だなこいつ。
嫌われる上司タイプだ。
「まあ良いんだけどね。君がボクの事、理解出来るとは思えないし」
「煽ってんのか…?」
食肉目ネコ科ネコ属に分類されるリビアヤマネコだろう。
その位は僕でも解るぞ。
「だからボクは家畜じゃないって」
「だから思考を読むなって」
というかお前のその姿を見る限り、どこをどう取って見てもひっくり返しても持ち上げても猫としか分類出来ないのだが。
うむ。完璧な猫だ。紛うことなき黒猫。
他と違う点は、少々目が赤くて…少々重いぐらいか?
「唐突に思っている事を実行しないでくれるかい?その上重いって、かなり失礼だよ…レディに向かって!」
「お前レディだったの!?」
身体の隅々まで調べようと躍起になっていたら、ウァラクは僕の指に噛みつき生意気にも僕の手から逃れ、器用に─そして華麗に空中での二回転をキメてブランコを囲う柵に着地した。
忘れているかもしれないが、ここは公園である。
そう、周りは普通に住宅街─まあ、多少閑散としているけれど。
つまり、こう何度も何度も大声を出していると、"黒猫に大きめの独り言を叫んでいる只の変人"として最悪通報されかねないということだ。
だがしかし、それでも僕は叫びたい。
さっき噛まれた拍子に血みどろな肉塊と化した右親指の手当てを後回しにしてでも叫びたい。
何故なら今この瞬間の僕の前には、警察に濡れ衣で強制連行される事が些細な問題に見えてくる程度には驚愕すべき事象があるのだから!
「その例で言うとそれは濡れ衣ではないと思うし、先ず指を手当てする方が先決じゃあないのかな?」
「だって指は治るし。ほら」
そう言ってウァラクに指を見せた。
見た目程酷い傷でもなかったらしく、痛みを殆ど感じる間もなく治癒している。
「君、幾らなんでも状況への適応が早すぎやしないかい…?」
何だかドン引きされている様な気はするが、それよりも。
「とにかく、お前がレディだったことに対する驚きは警察より裂傷より重大なんだ!」
だって、こいつがレディだぞ!?
あり得ない!
「そこまで言われると複雑な気分になるなあ…しかもボクは別にレディじゃないよって言い出しにくくなるじゃないか、そこまで言われると」
「どういうことだ」
驚愕のあまり混乱していて言語理解が拙くなっている。
「要するに、ボクは男の子だよって…」
心なしかげんなりとした表情をして僕を見るウァラクだが…ちょっと待ってくれ。
「だって…お前が言ったんだろう、レディに向かって!と…」
「似てない声真似止めてくれるかい?」
「偽証はいけないんだぞ!」
「そんな幼稚園児並みの語彙力と純粋無垢な目で言われると何だか凄く申し訳なくなってしまうからもう止めてくれ…」
じゃああれは嘘だったのか…。
信じた僕が馬鹿みたいじゃないか。
「まあ…馬鹿なんだろうね。というか、何であんなにも執拗に触っておいて信じてしまうんだい?」
そりゃあ、ウァラクが言った事だからだ。
僕に理解出来ない生き物についてはそいつ自身に訊くしかないのだから。
僕には猫にしか見えないが、頑として否定されているからもしかすると本当に違うのかもしれないし…。
喋ってるし。
「君はボクが言っていることの九割がた適当だということを理解した方が良いよ」
それはそれでどうなんだろう。
しかも"思った方が良いよ"ではなく"理解した方が良いよ"と言い切っているところに開き直りが見える…。
直す気が無いじゃないか。
「…それはともかく」
「言及しないんだね」
「言及したらこの話が終わらないからな」
「…そうだね、」
ボクもその方が助かるし…とウァラクは呟き、「で?それはともかく、なんだい?」半ば不自然に次の話題を促した。
何か隠している事でもあるのかと勘繰りそうになるも、何となくその気にならず僕は話を続ける。
「……魔法も手に入れたことだし、姉さんを治しに行こうかなと思っ」
「無理だね」
それはそれは綺麗な即答だった。
食い気味な位だ。
僕の台詞が終わるのに、あと一秒もいらなかったと思うのだけれど。
だが、遮った事よりも。
遮ったウァラクの台詞が気に掛かる。
─否。
気に、障る。
「…その理由は?」
昨日の間違いを繰り返さない様に、深呼吸を数度してから僕は尋ねた。
極めて慎重に、努めて冷静に。
そうしなければ─昨日より酷い惨状になると、何故か確信していたから。
暫くして、真っ黒な猫は真っ赤な目を僕に合わせた。
「それはね、君が魔力を使い果たしたからさ」
「そう、ウァラク」
何て言うか…こう…。
「…変な名前……」
可哀相に、名付け親のセンスが疑われる名前だ。
飼い主に恵まれなかったんだな…。
「如何にも可哀相にって思ってる顔だね…思考を読まなくても読めるのは何故だろう」
「読まれなくて何よりだ」
思考を勝手に読まれるのは何とも言い難い不快感がある。
最初の方は"感触"の様なものがあった…嘗められている感じ、とでも言うのか。今はもう慣れてしまったのか何も感じなくなってしまったけれど。
感じなくなってしまった、とあたかも感じなくなった事が残念であるかの様な言い方をしてしまったものの、決してそんなことはない。
当たり前だが寧ろ嬉しい、それはもう歓喜である。
僕にとっての不利益が一つも見当たらないぜ。
「それと、ボクに飼い主は居ないよ。失礼だなあ」
「結局読んでるんじゃねえか!」
前言撤回、不利益はあった。
読まれていることに気付けない。
「不愉快だから思考を読むのは止めてくれと何度言ったら理解出来るんだお前」
「ボクは、君が内心ではどんな風にボクをなじっているのかがよく解って凄く愉快だけどなあ」
「…………」
恐らくだが、大分根に持ってるな…遠回しに不愉快アピールしてきやがる。
さては、気に入らなかった奴をネチネチ追い詰める感じの性格だなこいつ。
嫌われる上司タイプだ。
「まあ良いんだけどね。君がボクの事、理解出来るとは思えないし」
「煽ってんのか…?」
食肉目ネコ科ネコ属に分類されるリビアヤマネコだろう。
その位は僕でも解るぞ。
「だからボクは家畜じゃないって」
「だから思考を読むなって」
というかお前のその姿を見る限り、どこをどう取って見てもひっくり返しても持ち上げても猫としか分類出来ないのだが。
うむ。完璧な猫だ。紛うことなき黒猫。
他と違う点は、少々目が赤くて…少々重いぐらいか?
「唐突に思っている事を実行しないでくれるかい?その上重いって、かなり失礼だよ…レディに向かって!」
「お前レディだったの!?」
身体の隅々まで調べようと躍起になっていたら、ウァラクは僕の指に噛みつき生意気にも僕の手から逃れ、器用に─そして華麗に空中での二回転をキメてブランコを囲う柵に着地した。
忘れているかもしれないが、ここは公園である。
そう、周りは普通に住宅街─まあ、多少閑散としているけれど。
つまり、こう何度も何度も大声を出していると、"黒猫に大きめの独り言を叫んでいる只の変人"として最悪通報されかねないということだ。
だがしかし、それでも僕は叫びたい。
さっき噛まれた拍子に血みどろな肉塊と化した右親指の手当てを後回しにしてでも叫びたい。
何故なら今この瞬間の僕の前には、警察に濡れ衣で強制連行される事が些細な問題に見えてくる程度には驚愕すべき事象があるのだから!
「その例で言うとそれは濡れ衣ではないと思うし、先ず指を手当てする方が先決じゃあないのかな?」
「だって指は治るし。ほら」
そう言ってウァラクに指を見せた。
見た目程酷い傷でもなかったらしく、痛みを殆ど感じる間もなく治癒している。
「君、幾らなんでも状況への適応が早すぎやしないかい…?」
何だかドン引きされている様な気はするが、それよりも。
「とにかく、お前がレディだったことに対する驚きは警察より裂傷より重大なんだ!」
だって、こいつがレディだぞ!?
あり得ない!
「そこまで言われると複雑な気分になるなあ…しかもボクは別にレディじゃないよって言い出しにくくなるじゃないか、そこまで言われると」
「どういうことだ」
驚愕のあまり混乱していて言語理解が拙くなっている。
「要するに、ボクは男の子だよって…」
心なしかげんなりとした表情をして僕を見るウァラクだが…ちょっと待ってくれ。
「だって…お前が言ったんだろう、レディに向かって!と…」
「似てない声真似止めてくれるかい?」
「偽証はいけないんだぞ!」
「そんな幼稚園児並みの語彙力と純粋無垢な目で言われると何だか凄く申し訳なくなってしまうからもう止めてくれ…」
じゃああれは嘘だったのか…。
信じた僕が馬鹿みたいじゃないか。
「まあ…馬鹿なんだろうね。というか、何であんなにも執拗に触っておいて信じてしまうんだい?」
そりゃあ、ウァラクが言った事だからだ。
僕に理解出来ない生き物についてはそいつ自身に訊くしかないのだから。
僕には猫にしか見えないが、頑として否定されているからもしかすると本当に違うのかもしれないし…。
喋ってるし。
「君はボクが言っていることの九割がた適当だということを理解した方が良いよ」
それはそれでどうなんだろう。
しかも"思った方が良いよ"ではなく"理解した方が良いよ"と言い切っているところに開き直りが見える…。
直す気が無いじゃないか。
「…それはともかく」
「言及しないんだね」
「言及したらこの話が終わらないからな」
「…そうだね、」
ボクもその方が助かるし…とウァラクは呟き、「で?それはともかく、なんだい?」半ば不自然に次の話題を促した。
何か隠している事でもあるのかと勘繰りそうになるも、何となくその気にならず僕は話を続ける。
「……魔法も手に入れたことだし、姉さんを治しに行こうかなと思っ」
「無理だね」
それはそれは綺麗な即答だった。
食い気味な位だ。
僕の台詞が終わるのに、あと一秒もいらなかったと思うのだけれど。
だが、遮った事よりも。
遮ったウァラクの台詞が気に掛かる。
─否。
気に、障る。
「…その理由は?」
昨日の間違いを繰り返さない様に、深呼吸を数度してから僕は尋ねた。
極めて慎重に、努めて冷静に。
そうしなければ─昨日より酷い惨状になると、何故か確信していたから。
暫くして、真っ黒な猫は真っ赤な目を僕に合わせた。
「それはね、君が魔力を使い果たしたからさ」
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