男だけど魔法少女になれちゃった話。
生きる魔法少女、成る。
「─本当に、君はどうしようもないなあ」
僕の肩に重さを与えたそれは、黒猫だった。
口を動かさず喋る、黒猫だった。
日本語を流暢に喋る黒猫などこれまでで見たことが無いし、それどころか喋る猫を見たことが無いし、口を動かさず声を発する哺乳類も今のところお目にかかった事はない。
こいつを例外として。
…え、殺した筈じゃ…。僕は困惑した。
いや、殺したかった訳ではないのだけれど。
さっきあれだけ戦慄していたのさえも忘れて呆然とした。
「あんなくらいで死なないよボクは。そんなにヤワじゃないのさ」
「じゃあお前、何であの時動かなく…」
「黙れって言ったのはどこの誰だったっけ?」
……つまり、僕は何も殺してはいなかった、と。
「うん、急に叫んで走り出すから頭が可笑しくなっちゃったのかなって思ったぐらいだよ。実際頭の中も随分ごちゃごちゃだったし」
良かった…途端に安堵が込み上げてくる。
安堵が込み上げてきて─僕はへたりこんでしまった。脚に上手く力が入らない。
そうか、僕は殺してない。
その事実を噛み締める様に、何度も繰り返し心の中で呟いた。殺してはいなかった。
殴ってはしまったのだが。
というか、この猫でなければ本当に殺してしまっていたのではないだろうか。
その点だけは、こいつで良かったかもしれない─そもそも、こいつでなければあんな衝動が襲ってくることは無かったのではという疑惑はあるけれども。
かなり信憑性が高めな疑惑は、あるのだけれども。
「で?そろそろ僕の話はちゃんと聞いてくれるかな?」
「うん…ごめん…」
僕としたことが、取り乱してしまった。尋常じゃない程に。
こいつからしたら理不尽極まりない行為だった筈なのだから、申し訳ない。
「それで、魔法少女になったら君の姉さんは助かるんだけどって言おうとしてたんだよね。結構ウィンウィンな関係だよねって」
「本当に申し訳ない…」
あの衝動が沸き上がる感じ─押さえられなかった。
姉さんの病院に通う前に精神病院に通った方が良いのかもしれない…。
「いやまぁそれは良いんだけど…君が魔法少女に成ってさえくれれば」
何故そんなにも僕に拘るのだろう…それだけは不思議でならない。
不思議も不思議、意味が解らない。
あれだけ殴ったのに。
普通は寄り付かなくなるものではないのか。
…否、普通ではないか…。
少なくとも、黒猫との会話が成立してしまっている時点で決して普通ではないのだ…普通どころか、僕の精神状態がかなり危ぶまれている事態なのかもしれない。
その可能性は大いに高いと思われる。
植物に話かけるのは正常だが、植物が返事をし始めたら異常だというのは…誰の言葉だっけ?
…まあそれは今どうでも良い…とは言えない気がするが、この場の思考には関係無いだろう─とにかく。
こいつなりの利点があるのだから、ある意味この拘りはある意味正しくはあるのかもしれない。
そして僕は応えた。
この黒猫への後ろめたさ、罪悪感、姉さんが助かる可能性…色々なことが積み重なった結果の思考ではあったのだけれど─応えた。
それが間違いだとも知らずに。
いや、知らなくて当たり前なのだけれど。
とにかく僕は、応えてしまった。
魔法少女に成るだけで許してくれるという猫の言葉に感謝すべきなのだろう、とか思いながら。
無知に愚かに─馬鹿みたいに、疑いの一辺も持たず。
「─解った」
"魔法少女に成るだけ"が、どれ程に危険な行為か知りもせず。
「魔法少女に、成ってやるよ」
黒猫は、只にたり、と。一瞬だけ。
嫌な感じに笑って─嗤って。
「じゃあ、また明日。明日、君の姉さんの助け方、教えてあげるよ」
「なんで明日なんだ?」
「だって疲れているだろう?あんなにもボクを執拗に殴ったんだからさ」
「うっ…それは本当にすまん…」
「良いってことよ…君が魔法少女に成ってくれるんだから」
直ぐに─人間の脳のスペックでは気のせいだったと確信出来てしまう程度には直ぐに、黒猫はなんでもない表情をして。
僕との軽口の応酬に夢中になった─振りを、していた。
僕の肩に重さを与えたそれは、黒猫だった。
口を動かさず喋る、黒猫だった。
日本語を流暢に喋る黒猫などこれまでで見たことが無いし、それどころか喋る猫を見たことが無いし、口を動かさず声を発する哺乳類も今のところお目にかかった事はない。
こいつを例外として。
…え、殺した筈じゃ…。僕は困惑した。
いや、殺したかった訳ではないのだけれど。
さっきあれだけ戦慄していたのさえも忘れて呆然とした。
「あんなくらいで死なないよボクは。そんなにヤワじゃないのさ」
「じゃあお前、何であの時動かなく…」
「黙れって言ったのはどこの誰だったっけ?」
……つまり、僕は何も殺してはいなかった、と。
「うん、急に叫んで走り出すから頭が可笑しくなっちゃったのかなって思ったぐらいだよ。実際頭の中も随分ごちゃごちゃだったし」
良かった…途端に安堵が込み上げてくる。
安堵が込み上げてきて─僕はへたりこんでしまった。脚に上手く力が入らない。
そうか、僕は殺してない。
その事実を噛み締める様に、何度も繰り返し心の中で呟いた。殺してはいなかった。
殴ってはしまったのだが。
というか、この猫でなければ本当に殺してしまっていたのではないだろうか。
その点だけは、こいつで良かったかもしれない─そもそも、こいつでなければあんな衝動が襲ってくることは無かったのではという疑惑はあるけれども。
かなり信憑性が高めな疑惑は、あるのだけれども。
「で?そろそろ僕の話はちゃんと聞いてくれるかな?」
「うん…ごめん…」
僕としたことが、取り乱してしまった。尋常じゃない程に。
こいつからしたら理不尽極まりない行為だった筈なのだから、申し訳ない。
「それで、魔法少女になったら君の姉さんは助かるんだけどって言おうとしてたんだよね。結構ウィンウィンな関係だよねって」
「本当に申し訳ない…」
あの衝動が沸き上がる感じ─押さえられなかった。
姉さんの病院に通う前に精神病院に通った方が良いのかもしれない…。
「いやまぁそれは良いんだけど…君が魔法少女に成ってさえくれれば」
何故そんなにも僕に拘るのだろう…それだけは不思議でならない。
不思議も不思議、意味が解らない。
あれだけ殴ったのに。
普通は寄り付かなくなるものではないのか。
…否、普通ではないか…。
少なくとも、黒猫との会話が成立してしまっている時点で決して普通ではないのだ…普通どころか、僕の精神状態がかなり危ぶまれている事態なのかもしれない。
その可能性は大いに高いと思われる。
植物に話かけるのは正常だが、植物が返事をし始めたら異常だというのは…誰の言葉だっけ?
…まあそれは今どうでも良い…とは言えない気がするが、この場の思考には関係無いだろう─とにかく。
こいつなりの利点があるのだから、ある意味この拘りはある意味正しくはあるのかもしれない。
そして僕は応えた。
この黒猫への後ろめたさ、罪悪感、姉さんが助かる可能性…色々なことが積み重なった結果の思考ではあったのだけれど─応えた。
それが間違いだとも知らずに。
いや、知らなくて当たり前なのだけれど。
とにかく僕は、応えてしまった。
魔法少女に成るだけで許してくれるという猫の言葉に感謝すべきなのだろう、とか思いながら。
無知に愚かに─馬鹿みたいに、疑いの一辺も持たず。
「─解った」
"魔法少女に成るだけ"が、どれ程に危険な行為か知りもせず。
「魔法少女に、成ってやるよ」
黒猫は、只にたり、と。一瞬だけ。
嫌な感じに笑って─嗤って。
「じゃあ、また明日。明日、君の姉さんの助け方、教えてあげるよ」
「なんで明日なんだ?」
「だって疲れているだろう?あんなにもボクを執拗に殴ったんだからさ」
「うっ…それは本当にすまん…」
「良いってことよ…君が魔法少女に成ってくれるんだから」
直ぐに─人間の脳のスペックでは気のせいだったと確信出来てしまう程度には直ぐに、黒猫はなんでもない表情をして。
僕との軽口の応酬に夢中になった─振りを、していた。
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