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男だけど魔法少女になれちゃった話。

カラメルラ

魔法少女(3)

 怒りに任せて一言怒鳴った後、今日が土曜日であるということが発覚したので、飛び出す様に家を出た僕は病院の前に来ていた。
 あの仕打ちでは、いくら相手が猫だからと言っても一言くらい怒鳴っても良い権利はある筈だ。
 もっと言えば、殴ってしまっても良かったのかもしれない。
 とすると、僕はもしかして、貴重なチャンスを逃してしまったのでは?
 僕はその事実に思い至り、愕然とする。
 チャンスの数は有限だというのに!
 否、チャンスは有限とはいえまだ残っている筈だ…僕には多分権利があるのだし、今度会った時にでも一発殴っておこう。
 正直に言ってしまうと、殴る殴らないの以前にそもそもあの猫とは金輪際逢いたくはないのだが。
 それでも僕は次会った時猫を殴る決意を新たに、病院へと足を踏み入れた。
 そういう決意でもしておかないと、またあの猫と逢う可能性があることに耐えられそうにない。主に僕の苛立ちが。
 さて、僕の苛立ちメーターがそろそろ爆発しそうなのはさておき。
 病院へと足を踏み入れた、なんて何だか大仰な言い方をしてみたけれど、病院に来ているのは単なる日課である。昨日は来れなかったが、毎日の日課なのである。
 何故毎日の日課になっているかというと、実は僕に病院通いを強いらないといけない程重い持病がある的なことでは決してなく、普通に家族が入院しているからである。
 僕の大事な姉。
 月見里やまなししずく。僕の一つ上、十七歳。
 彼女はここ数ヶ月間、昏睡状態に陥っている。原因は…不明、だそうだ。
 不明。
 本当は原因不明だなんて納得出来ていないし、毎日来たところで彼女と話せた日は無いのだけれど。
 それでも、僕は毎日病院に通う。
 この扉の向こうに待っている現実を理性では理解していて、期待が落胆に塗り変わることは十分解っていて、それでも僕は毎日病院に通う。
 今日も僕はそれを学ばない振りをして、少しの期待を胸に病室へ入った。
 少しの期待は持ち合わせていたものの、何らかの変化に関して九割がた諦めていたのだが、結果から言って変化は、あった。
 僕は驚愕した。
 そこにあったのは、一昨日と同じ様に眠っている姉さんと─黒猫、だった。
 朝見たばかりの、紅い眼をした、黒猫だった。
 …………何で?
 頭が一瞬にして疑問で埋め尽くされる。
 殴る気も失せてしまう程に。
 「…えっ、ちょっおま……え…?」
 「…えっ、君、遂に言語能力を喪ってしまったのかい…?」
 「んな訳ねえだろうがよ…」
 猫は、あたかも自分には責任が一片も無いとでも言いたげな困惑した顔をしているが、もし仮に僕が言語能力を喪ってしまったのだとしても、それは先ず間違いなくお前のせいだからな。
 お前がここに当然の様に鎮座しているというあり得る筈のない現象に対してのショックによるものだからな。
 お前はセールスマンじゃなくて、ストーカーだったのか?
 それとも僕の先回りをしてまでしたい話でもあったのか。
 「言っただろう?君が承諾するまで話は終わらないって。ボクは話を終わらせに来たんだ」
 「え?僕、もしかして拒否権ないの?」
 怖っ…。最早脅迫じゃん…。
 本当に脅迫なのだとしてもその効果は抜群で、その作戦はそれはもう大成功、僕は今激しく戦慄していたりする。
 どうやらストーカーではなくて後者の方が目的だったらしいけれど…そのおかげで恐怖は幾分引っ込むのだけれど。それでも十二分じゅうにぶんの恐怖だが。
 先回りしてまでしたい話って、それ?
 噓だろ?そんな荒唐無稽な話に乗れって?
 しかも強制で。
 人を説得させる気ゼロなのが見え見えである。
 「嫌だよ!誰が何と言おうと成りたくはないよそんなもの!」
 逆にどこの男子高校生なら成りたいんだ、魔法少女!
 居たら聞いてみたいわ!
 「だから今はジェンダーレスの時代なんだって。日本に限定しても探せば居るよどっかに一人、二人、十人、二十人…」
 「あれっ、意外に多くね!?」
 どんどん増えていっている。
 この調子だと何処かで百人は超えそうである。日本だけで。男子高校生だけで。
 そんなに居たりするんだろうか、魔法を遣ってみたいではなく、魔法少女に成りたいって奴は…。
 「えー…でもさあ、それじゃ話が終わらないよー」 
 ボク帰れないんだけど、とは猫の台詞。
 いや、知るか。
 まるで猫の方が僕に迷惑を被っている、所謂被害者みたいな面をしているが、全くの逆である。
 僕が被害者だ。
 この猫は何の使命を背負っているのだろう…。
 「僕は帰るからな!」こいつの妄言に付き合ってられるか!
 姉さんの様子も見れたことだし。
 病室に入って僅か十数分しか経っていないが、僕は猫と姉さんに背を向ける。
 いつもならもう二時間は居るのだけれど、これ以上この猫と話すと考えただけで謎の危機感が芽生える様だから、帰る。
 猫の謎の使命よりも僕の命の方が大事だ。
 「だからさー、君には貴重な魔法少女の才能がー」
 「だぁからどんな才能だよ!」
 その叫びは別に質問でも何でもなく、どちらかと言えば軽いつっこみ的な─おふざけ的なものだったのに、猫は意外にも質問に対する答えを僕に提供する。珍しく、真面目に。
 今までは誠意の欠片も感じない受け答えしかしてこなかった、その黒猫は。
 ようやく誠意が見える対応に出た。
 僕が納得出来る様に、僕に溢れる程あるらしい才能とやらを説明した─語った。
 詳しく、解説した。
 「君の才能─否、魔法少女の才能と云うのはね、」

 「君自身の望みそのものだよ」
 
 
 
 

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