男だけど魔法少女になれちゃった話。
魔法少女(2)
「──んぁ?」
目が覚めた。
副腎皮質ホルモンが分泌され低下していた脳の温度が上昇し覚醒した。
目覚めるという行為一つとってもこんなに面倒な工程が必要だとは…大変なもんだな、生き物って。
さて、それはともかく。
生物の生きる神秘を再確認したことはともかく─この天井。
見知らぬ天井だ─なんてことはなかった。
普通に知ってる天井だ。というか寧ろ毎朝ほぼ必ず見てる天井だった。
つまり僕の寝室の天井だった。
いつもこの位置から目を覚ました時、視界の右上辺りに見える染みの位置もちゃんと合ってる。
うむ。詰まるところ、アレは夢だったということだな。
まあ、夢じゃなかったら可笑しいのだが。
それにしても嫌な夢だったなー、やけにリアルだったし…感触とか。
何か不吉の予兆なのかもしれない。
喋る黒猫なんてのも出てきたし…僕はひょっとして疲れているのか?
登校中にでも調べてみることにしよう。
僕は気を取り直してベッドから起き上がり、傍らに居た猫の頭を撫で、朝食へ向かう。
……え?傍らに居た猫?
「やっと起きたのかい?待ちくたびれちゃったよー、で?昨日の返事は?」
「………な、ななななんでいるんだおまえ」
不吉そのものが来た!
不法侵入!
変態!
馬鹿!
阿保!
「罵倒の語彙が少ないんだね!」
「やめろ僕の心を読むな」
「あと、歩きスマホは駄目だよー。歩きスマホ、駄目ゼッタイ!」
どこから読まれていたんだ、僕の心。
プライバシーが尽く蹂躙されている…。
というかこの猫、歩きスマホとかいう単語をどこで知ったんだ?
「何を言っているんだい?最近では割と有名じゃないか、歩きスマホ。そこら中のニンゲンがやっているからね」
「…僕の心を読むなと言った筈だが…?」
そして別にそこら中の人間がやってる訳じゃないと思うが…意外と、最近の猫の間で噂になるくらい歩きスマホしてる人間が大勢いるのか?
それはそれで問題だと思うけれど。
「まあ楽しい楽しい歩きスマホの話は後にして、」
「楽しい話なのか、それ」
「昨日の話だよ、ボクにとって大事なのは。正直ニンゲンがどれだけ歩きスマホによって事故を起こして死のうがどうでも良いからね」
「だからそれ、どうでも良いことじゃねえだろ…」
…いや、こいつは猫だからな…他の生物がどうなろうとどうでも良いのかも…。
「まあまあ、そんなもんだよ生き物なんて。所詮自分の種族以外、死のうが絶滅しようが自分達の生きる糧さえあれば他はどうでも良いものなのさ!」
「お前何でそんなに達観してるんだ?」
んー…こいつが達観してるのはともかくとして、そう言われれば…そうなのかもしれない。
確かに人間も、そこら辺に居る虫とかをいちいち気にして生活してないからなあ…一部例外はいるかもしれないが。
「そう、ボクにとって大事なのは、君が魔法少女になるかどうかなんだ!」
「なんで?」
今までの会話の方が大事そうな議題だった気がするが…本題の方が重要さに欠けている様な気がするが。リアリティある会話の間に、唐突なファンタジーを挟み込んできやがった。
しかもそれ、猫にとって生きる糧になるものなのか?
さっきまでのこいつの演説に矛盾点が生じてしまった。
「そうでもないよ。君が魔法少女になるかならないかにボク達の種族の存亡がかかってるんだからね」
「えっ」
そんな重要なことなの?
そして何で僕なの?
魔法少女なんて、僕の精神が耐えられないんだけど。
だって変身とかするんだろ?場合によってはふわっふわなフリルのついた衣装とか着るんだろ?
「変な想像でお楽しみのところ悪いんだけど…」
「違う。人聞きの悪いことを言うな」
その言い方だと、僕がまるで変態みたいじゃないか。
楽しんでねーよ、吐き気がしそうだわ。
「変身シーンとかはないよ」
「魔法少女としての象徴が失われた…!」
「ん?残念だった?」
「いや、全く!安心しました!」
「残念かー…変身、出来なくもないんだけど人手がねー」
あれ?
会話は一方通行だった。
全然残念じゃないよ。
残念じゃないどころか、要らないよ変身シーン。
逆にこの猫は僕の台詞を脳内で改竄するくらい欲しかったらしい、変身シーンが。
何でだよ。
「あ、でも安心して!君には魔法少女の才能が溢れんばかりにあるからね、大抵のことは叶えてあげられるよ!」
安心ポイントか?それ。
だからその魔法少女の才能ってのは一体全体何なんだ?
そんな才能欲しくないし要らないよ…変身シーンと同等以上に要らないよ。
「ほらほら、ちょっとボクに宣言するだけで直ぐになれるよー。特別なことなんてなんにもしなくて良いんだよー」
「詐欺師かお前は」
やり口が詐欺師のそれなんだが。
それも含めどうにも信用出来ないんだよな、この猫。
…そもそも猫なのか、こいつ。
「ねえねえ、悩むだけ無駄だよ。早くなりなよ魔法少女。なってくれないとこの話は終わらないよ、遅刻しちゃうよー」
悩むだけ無駄って…大分強引さが際立っている言い方だ。それは果たして人を勧誘する態度なのだろうか…。
それに遅刻って。そんな単語で僕を脅せるとでも…ん?
遅刻…?
瞬間、僕の脳に奇跡的な電撃が走り、その存在を思い出させた。
そういえば、時間!
慌てて握り締めていたスマホの電源をつける。
今の時刻は、七時五十八分。
家を出発しないといけない時刻は、七時半。
起きてから、約一時間経過。
遅刻しちゃうよーではなく、遅刻してるよーの間違いである。
少々脳に電撃が走るのが遅かった様だ…。
じゃなくて!
早く行かないと貴重な出席日数が!
学校生活の後半は休む予定があるのに!
留年してしまうではないか!
「だったら後半も普通に出席したら良いんじゃないかなあ。それと今日は、」
「うるせえ黙ってろッ!」
理不尽に怒鳴った。
怒鳴ってしまってから思ったが、こいつが言ってたことは普通に正論だった。
「…………」
「…………」
…気まずい…自分で原因を作っておいて言うのも何だけど、凄く気まずい…。
「……あの、今日は…」
「…………」
僕はごくり、と息を飲む。
この猫の口からは一体どんな罵詈雑言が出てくるのだろう─僕の罵倒の語彙が少ないと言ったこの猫の口からは。
そして猫は、まるで僕の予想に沿うような形で口を開き─僕と同じ様に、或いは僕より気まずそうに口を開いて。
その口からは、僕の予想の遥か斜め上を行く台詞が流れ出た。
「…ごめんね?今日学校無いよ?」
……猫は人間で言う、てへっみたいな感じのポーズをした。
悪びれもせずに。
気まずそうにしていたと思ったが、とんだ勘違いだったようである。
そして僕は当然の様に次の行動を決めた。
「お前ほんっとにふざけんなよッ!」
目が覚めた。
副腎皮質ホルモンが分泌され低下していた脳の温度が上昇し覚醒した。
目覚めるという行為一つとってもこんなに面倒な工程が必要だとは…大変なもんだな、生き物って。
さて、それはともかく。
生物の生きる神秘を再確認したことはともかく─この天井。
見知らぬ天井だ─なんてことはなかった。
普通に知ってる天井だ。というか寧ろ毎朝ほぼ必ず見てる天井だった。
つまり僕の寝室の天井だった。
いつもこの位置から目を覚ました時、視界の右上辺りに見える染みの位置もちゃんと合ってる。
うむ。詰まるところ、アレは夢だったということだな。
まあ、夢じゃなかったら可笑しいのだが。
それにしても嫌な夢だったなー、やけにリアルだったし…感触とか。
何か不吉の予兆なのかもしれない。
喋る黒猫なんてのも出てきたし…僕はひょっとして疲れているのか?
登校中にでも調べてみることにしよう。
僕は気を取り直してベッドから起き上がり、傍らに居た猫の頭を撫で、朝食へ向かう。
……え?傍らに居た猫?
「やっと起きたのかい?待ちくたびれちゃったよー、で?昨日の返事は?」
「………な、ななななんでいるんだおまえ」
不吉そのものが来た!
不法侵入!
変態!
馬鹿!
阿保!
「罵倒の語彙が少ないんだね!」
「やめろ僕の心を読むな」
「あと、歩きスマホは駄目だよー。歩きスマホ、駄目ゼッタイ!」
どこから読まれていたんだ、僕の心。
プライバシーが尽く蹂躙されている…。
というかこの猫、歩きスマホとかいう単語をどこで知ったんだ?
「何を言っているんだい?最近では割と有名じゃないか、歩きスマホ。そこら中のニンゲンがやっているからね」
「…僕の心を読むなと言った筈だが…?」
そして別にそこら中の人間がやってる訳じゃないと思うが…意外と、最近の猫の間で噂になるくらい歩きスマホしてる人間が大勢いるのか?
それはそれで問題だと思うけれど。
「まあ楽しい楽しい歩きスマホの話は後にして、」
「楽しい話なのか、それ」
「昨日の話だよ、ボクにとって大事なのは。正直ニンゲンがどれだけ歩きスマホによって事故を起こして死のうがどうでも良いからね」
「だからそれ、どうでも良いことじゃねえだろ…」
…いや、こいつは猫だからな…他の生物がどうなろうとどうでも良いのかも…。
「まあまあ、そんなもんだよ生き物なんて。所詮自分の種族以外、死のうが絶滅しようが自分達の生きる糧さえあれば他はどうでも良いものなのさ!」
「お前何でそんなに達観してるんだ?」
んー…こいつが達観してるのはともかくとして、そう言われれば…そうなのかもしれない。
確かに人間も、そこら辺に居る虫とかをいちいち気にして生活してないからなあ…一部例外はいるかもしれないが。
「そう、ボクにとって大事なのは、君が魔法少女になるかどうかなんだ!」
「なんで?」
今までの会話の方が大事そうな議題だった気がするが…本題の方が重要さに欠けている様な気がするが。リアリティある会話の間に、唐突なファンタジーを挟み込んできやがった。
しかもそれ、猫にとって生きる糧になるものなのか?
さっきまでのこいつの演説に矛盾点が生じてしまった。
「そうでもないよ。君が魔法少女になるかならないかにボク達の種族の存亡がかかってるんだからね」
「えっ」
そんな重要なことなの?
そして何で僕なの?
魔法少女なんて、僕の精神が耐えられないんだけど。
だって変身とかするんだろ?場合によってはふわっふわなフリルのついた衣装とか着るんだろ?
「変な想像でお楽しみのところ悪いんだけど…」
「違う。人聞きの悪いことを言うな」
その言い方だと、僕がまるで変態みたいじゃないか。
楽しんでねーよ、吐き気がしそうだわ。
「変身シーンとかはないよ」
「魔法少女としての象徴が失われた…!」
「ん?残念だった?」
「いや、全く!安心しました!」
「残念かー…変身、出来なくもないんだけど人手がねー」
あれ?
会話は一方通行だった。
全然残念じゃないよ。
残念じゃないどころか、要らないよ変身シーン。
逆にこの猫は僕の台詞を脳内で改竄するくらい欲しかったらしい、変身シーンが。
何でだよ。
「あ、でも安心して!君には魔法少女の才能が溢れんばかりにあるからね、大抵のことは叶えてあげられるよ!」
安心ポイントか?それ。
だからその魔法少女の才能ってのは一体全体何なんだ?
そんな才能欲しくないし要らないよ…変身シーンと同等以上に要らないよ。
「ほらほら、ちょっとボクに宣言するだけで直ぐになれるよー。特別なことなんてなんにもしなくて良いんだよー」
「詐欺師かお前は」
やり口が詐欺師のそれなんだが。
それも含めどうにも信用出来ないんだよな、この猫。
…そもそも猫なのか、こいつ。
「ねえねえ、悩むだけ無駄だよ。早くなりなよ魔法少女。なってくれないとこの話は終わらないよ、遅刻しちゃうよー」
悩むだけ無駄って…大分強引さが際立っている言い方だ。それは果たして人を勧誘する態度なのだろうか…。
それに遅刻って。そんな単語で僕を脅せるとでも…ん?
遅刻…?
瞬間、僕の脳に奇跡的な電撃が走り、その存在を思い出させた。
そういえば、時間!
慌てて握り締めていたスマホの電源をつける。
今の時刻は、七時五十八分。
家を出発しないといけない時刻は、七時半。
起きてから、約一時間経過。
遅刻しちゃうよーではなく、遅刻してるよーの間違いである。
少々脳に電撃が走るのが遅かった様だ…。
じゃなくて!
早く行かないと貴重な出席日数が!
学校生活の後半は休む予定があるのに!
留年してしまうではないか!
「だったら後半も普通に出席したら良いんじゃないかなあ。それと今日は、」
「うるせえ黙ってろッ!」
理不尽に怒鳴った。
怒鳴ってしまってから思ったが、こいつが言ってたことは普通に正論だった。
「…………」
「…………」
…気まずい…自分で原因を作っておいて言うのも何だけど、凄く気まずい…。
「……あの、今日は…」
「…………」
僕はごくり、と息を飲む。
この猫の口からは一体どんな罵詈雑言が出てくるのだろう─僕の罵倒の語彙が少ないと言ったこの猫の口からは。
そして猫は、まるで僕の予想に沿うような形で口を開き─僕と同じ様に、或いは僕より気まずそうに口を開いて。
その口からは、僕の予想の遥か斜め上を行く台詞が流れ出た。
「…ごめんね?今日学校無いよ?」
……猫は人間で言う、てへっみたいな感じのポーズをした。
悪びれもせずに。
気まずそうにしていたと思ったが、とんだ勘違いだったようである。
そして僕は当然の様に次の行動を決めた。
「お前ほんっとにふざけんなよッ!」
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