宇宙図書館の司書

桝克人

エピローグ

ナタリーを家の前で降ろした時には多少不機嫌だった顔は満面の笑みに戻っていた。デートがおじゃんになった件についてアウルはもう一度謝ったことと、アイビスが改めて予約をとってデートの約束を取り付けたことで機嫌を取り戻せた。

「全く、なんで人の姉とデートするんだよ」
「こちらからすると、どうしてそんなに嫌がるのかが不思議だけどな」

真向から反論できる理由がなくてアウルは赤面した顔を見せないように馬車の小窓に背けた。アイビスはくくくと笑ってアウルの不機嫌顔が似ていると揶揄った。

「そんなにむくれるなよ。大好きな姉さんを取って食おうなんて思ってないし、デートって言ってもおまえが想像しているものと全然違うぞ?」

怪訝な顔をしてアイビスの顔を見た。

「あの人デートって言いながら、普段俺と話す内容といえば、アウルのことばっかりだぜ?学校の様子はどんなだとか、どんな人間とつきあっているのかとか、ごはんはちゃんと食べているのかとか。まるっきり母親目線だよな。デート代金だって弟が世話になってるお礼だってはっきり言うんだからこっちもちょっと戸惑うぜ」

確かに姉がとられたと思わなかったわけではない———いや思っていた。所謂男女の関係になるかもしれないという勘違いと、姉の前のめりな家族愛を教えられ、非常に恥ずかしい気持ちになりアウルは耳まで赤くなるほど顔全体に熱さを覚える。

「全く…子供扱いがすぎるよ」
「どんなに年月が経っても家族なんだ。姉が弟を心配するのは普通のことじゃないか。それにそう思うなら、もっとナタリーさんに会ってやれよ。本当ならお前の口から聴きたいはずだぜ?」

ふとジャックの事を思い出す。彼は今度のことを機会に家族との距離がぐっと縮まったのだろう。話せばわかってくれる家族がいるというのは幸せなことだ。それは自分自身にも同じことが言える。近くに住んでご機嫌を伺ってくれる義姉、遠い田舎でいつでも帰りを待ってくれている義母、彼女たちはいつだって火傷しそうな程の愛を注いでくれる。そんな家族から自分から距離をとっていると自覚しているせいか、心がちくりと痛んだ。

(僕にも出来るのだろうか)

小窓に流れる皇都の景色のどこかに住む家族《父親》のことを思い浮かべていた。

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